第51話 異変
ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。
ジノ・テウェクは全部で20体召喚されていたみたいで、町を囲うように控えていたのを迎えに来た漣華さんが全部退治してくれたらしい。
逃げ惑う魔物の群れの中で、1頭だけ面と向かって挑んできたから、魔法ではなく直接喰いついてやったって漣華さんは言っていた。漣華さんなりの敬意の示し方なんかな?
で、すばしっこいそいつらを追いかけないといけないから、ユニークスキルを使って連れてきた福丸さんに先に町に入らせたんだとか。
福丸さんと漣華さんはロスネルの男を出すよう斧のギルマスに迫ったけど、責任を持って王都に引き渡す、と約束してくれて、ようやく引き下がった。
「もう帰られますか?」
薔薇の形に切った林檎を一口で食べた福丸さんが聞いてきた。
「私は用も済んだので大丈夫です。ニャルクさん達は?」
「僕も問題ありません」
「儂もにゃいぞ」
「ばっふぅ!」
そう返事を返した兄弟猫と黒犬に、漣華さんはにやりと笑った。
「そうかそうか。では帰ろうかの」
あらら、悪い顔してる。おおー、と手を上げたイニャトさんも気づいたみたい。
「あ、あー、儂はそのぉ、もうちっと店を見て回ろうかのぉ?」
「つい先ほど、用はない、と言ったばかりではないか。ほれ、背中に乗れ」
「ああああの、レンゲさん、よかったらあにゃたのユニークスキルで森まで帰りたいにゃー、にゃーんて……。いやあの、今日は結構疲れたので、空は遠慮したいにゃあって……」
「ならぬ。それではいつまで経っても慣れぬではないか」
「ひゅ~ん……」
ニャルクさんも気づいて逃れようとするけど、それで逃がしてくれるわけないよねぇ。バウジオも、覚悟決めなよ。ちゃんと支えててあげるから。
そんなこんなででっかいのとちっちゃいのが結果が見えてる攻防を繰り返してたら、通りの向こうの方から解体屋の女の人が走ってきた。外出してたんだな。黒焦げの死体を見て驚いてら。
『✕✕▽□?』
『◯◯△、□△◯』
斧のギルマスと話した女の人がこっちに近づいてくると、むぎゅうっと抱き締められた。
「ふぶっ! な、何事?」
もぞもぞと動いて母性の象徴から顔を出す。漣華さんが服を噛んで引っ張ってきた。
「離せ小娘。妾の仲間だ」
『△▽◯□、✕◯?』
「ならぬ。早う離せ」
女の人がなんて言ってるのかわからないけど、このままだと喧嘩になりそうな気がする。強いなこの人。
脱出せねば、と思っていたら、斧のギルマスが駆け寄ってきて女の人を引っぺがした。
『✕✕▽□! □✕△!?』
『◯◯△。□△?』
『✕✕~……』
あ、ギルマスが言い負かされた。やっぱり女は強いね。
「ほれ、帰るぞ」
「ちょちょちょ、危ない危ない! そんな引っ張らんで!」
漣華さんがぐいぐいと引っ張るもんだから足がもつれそうだわ。転けたらどうすんの?
嫌がるニャルクさん達をどうにか宥めて漣華さんに乗せようとしていたら、突然掌紋が光り出した。何これ?
「ニャオさん、それは……」
「ふむ。何かに反応しておるな」
水に触ってないのに? お願いもしてないんだけど?
こっちの異変に気づいたギルマス達と女の人が近づいてきた。掌紋をしげしげと眺めてくる。
居心地の悪さに、うーっと唸って目を細めたら、瞼の内側に見たことのない景色が広がった。
ごつごつとした岩肌。隠れダンジョンに似てるけど、あの場所よりも遥かに大きな洞窟。耳障りな金属音。
場面が変わって、ドーム型の大きな空間が見えた。本来なら真っ暗なんだろうけど、至るところに光る石が浮かんでいて影ができるほどに明るい。
人間が4人いる。ペリアッド町の門のところで見た冒険者パーティーだ。折れた剣や杖を持って怯えてる。
正面に佇む巨影はブラックドラゴンだ。牙の隙間から炎を漏らしながら唸り声を上げている。
こわいーー
洞窟内を真っ赤に染め上げるドラゴンブレスが放たれた。悲鳴を上げた冒険者達は光の殻みたいなものに守られて無傷だけど、完全に戦意を失くしているように見える。
こわいようーー
怒り狂ったブラックドラゴンが飛び立とうと翼を広げるけど、自由に飛ぶには狭過ぎる。天井に頭をぶつけて地面に降りると、咆哮を上げながら4本の脚で走り始めた。洞窟が揺れて、パラパラと小石が落ちてくる。
たすけてーー
ブラックドラゴンが向かう先には、最初に見ていた洞窟がある。飛び込もうとして光の殻に邪魔をされると、再びドラゴンブレスを放った。
おそと!
光の殻に亀裂が走る。ブラックドラゴンが体当たりをすると、殻は粉々に砕け散った。
ブラックドラゴンが洞窟を駆け抜けていく。冒険者パーティーだけが残された。
▷▷▷▷▷▷
「ーーオさん! ニャオさん!」
ハッと目を覚ますと、ギルドの前に寝転んでいた。
2人のギルマスと解体屋の女の人、冒険者達の輪の中に、ダッドさんとマーニア夫妻もいる。騒ぎを聞いて駆けつけてくれたのかな。
ニャルクさんとイニャトさんは倒れている私の両側で不安げな顔をしていて、バウジオは枕になってくれていた。人の輪の外にいる福丸さんと漣華さんが、じぃっと見つめてくる。
バウジオの頭を撫でて立ち上がる。頭痛と目眩が酷い。寝ていろ、とイニャトさんに言われたけど、それどころじゃない。
「ニャルクさん、この近くに洞窟はありますか?」
聞けば、ニャルクさんは首を傾げた。
「洞窟? 僕は知りませんけど……。あの、どにゃたかこの近辺に洞窟があるかご存知にゃいですか?」
ニャルクさんが周りに聞いてくれたら、解体屋の女の人が答えてくれた。
「町の北側にあるみたいです。でもどうして?」
洞窟……。本当にあるんだ。
「ニャオよ」
漣華さんが首を伸ばしてきた。
「どうする?」
そういう風に聞いてくるんなら、私に何があったかはわかってるんだよね?
「行きたいです」
それだけ言えば、漣華さんは頷いてくれた。
「乗れ」
冒険者達が左右に分かれて道ができる。私がよじ登ったことを確認した漣華さんは、夕焼けの空に向かって舞い上がった。




