第30話 夢のマイホーム①
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「なんなんこれ……」
「にゃんにゃんでしょうねぇ……」
「にゃんとまあ……」
「ばっふ……」
「見事ですねぇ」
エアレーを捌くっていう大仕事をして、疲れ切ってからテントに潜り込んでほぼ気絶状態で眠った後、寝床に戻ったはずの福丸さんに朝早くに起こされて外に出てみれば、私が植えた苗が見上げ切れないほどに成長していた。
ニャルクさん達が植えた苗も伸びてはいるけど、私の腰ぐらいまでしかない。成長の度合いが違い過ぎる。
「ニャオよ、お前さん昨日苗に何をしたんじゃ?」
「何って、願い事をしながら水をあげてみました。〈水神の掌紋〉ってのを試してみたくて」
「そのせいかのう。儂のスキルを使ってもここまでの早さで育ちはせん。しかも見てみろ。いくらガジューが寝床作りに適した木といえ、あのようにゃ妙ちくりんにゃ育ち方は普通はせんぞ」
イニャトさんが前足で示したのは、私の身長の2倍ぐらいの高さ。本来ならなだらかに広がっていくはずの枝が真横に広がって、ある程度の空間を作ってから上に伸びている。
まるでここに家を造れと言ってるみたいだな。
「あなたに加護を授けられた水神が願いを受け入れたのでしょうね」
福丸さんがそう言った。こういう願いも聞いてくれるんだ。お試しのつもりだったけど、よかったよかった。
「福丸さん、私に加護をくれてる水神さんはこっちの世界にはいないんですよね? なのにどうして私の願い事がわかったり、叶えてくれたりできるんですか?」
世界が違うのになんでだろう?
「あなたに授けた掌紋を通して、声を聞いたり力を届けたりできるみたいですよ。以前レンゲがクラオカミ様に教わったと得意気に話してくれました」
「なるほど……」
掌紋を見て、ガジューの木に向かって合掌する。
水神さん、ありがとうございます。
そう心の中でお礼を言えば、掌紋がほんのり温かくなった気がした。
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エアレーは半分は焼く用に回すとして、もう半分は燻製にすることにした。
昨日の内に塩漬けにしておいた肉を、せせらぎから汲んできた水で水洗いして、ニャルクさんの風魔法で乾燥させてから、温燻法で燻し中。ちなみにここの水は飲んでも問題なし、と福丸さんに確認済みだ。
使うのはフアト村で買った深めの鍋。燻製用のチップは持ってなかったけど、匂いがいい木がないか福丸さんに聞いたら桜に似た木を教えてもらったから、それを代用してみる。
アルミホイルなんかも当然ないけど、イニャトさんが何かに使えるかもと思って買っておいたらしい、火に強いクエリンという魔物の皮をくれたから試しに使ってみる。薄くて頑丈、燃え移ることはなくて、熱だけ通してくれるっぽいから、隙間を作って煙が上がるようにして、後は様子を見ながら放置だ。異常があったら教えてってバウジオに頼んであるから安心だね。
その間に、福丸さんが持ってきてくれた倒木の余分な枝を落として太さを揃えていく。といっても私ができるのは簡単なことだけ。太めの枝はニャルクさんが風魔法で処理してくれるし、木の上に乗せるのは福丸さんが、組み立てはイニャトさんが樹木魔法でガジューの枝を操ってやってくれる。木材同士をロープで結びつけるのもイニャトさんの魔法だ。
早々にお役御免となった私は、近くを散策して見つけた大きな葉っぱを数枚拝借した。形はバナナの葉を2倍ぐらい長くした感じで、そこそこの厚みがある。竹筒の水をかけてみたら綺麗にはじいたから、屋根にぴったりだと思う。実があればなおよかったんだけどな。
えっちらおっちら運んでみんなのところに帰ると、既に床と壁ができあがっていた。
「おおー、凄い」
私に気づいた福丸さんが木の上に乗せてくれた。床は半分に割った木が敷き詰められて見事な平ら。ところどころささくれがあるから、後で取っておこう。柱になる太い木はガジューの枝にしっかり結びつけられてびくともしない。出入口と窓もちゃんとある。
「ニャオよ、その葉はどうするんじゃ?」
「撥水性があるんで屋根にいいかなと思って。竹とかあれば格子状にして、屋根の土台にしたいんですけど」
「タケ、とはどんな物ですか?」
あ、竹はないのか。
「えーっと、中が空洞で節があって、緑色でまーっすぐ伸びる、そんな植物です」
「もしかして、バンブーのことですかね?」
「たぶんそれです。いえ、絶対それです」
なんで英語なんだ?
ツリーハウスに憧れます。




