第31話 夢のマイホーム②
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せせらぎに沿って緩やかな斜面を登っていくと見事な竹林に行き着いた。
その中からしっかりした5本をニャルクさんに風魔法で切ってもらって、さらに6等分にしてもらう。難しいかと思ったけどあっさりやってくれた。
近くの竹に絡んでいた蔓で縛って運ぼうとしたけど持ち上げられなかった。無念、と項垂れてたら福丸さんが助けてくれた。やったね。
家に戻ってから、屋根部分に竹を格子状に組んで縛る。ほどけないことを確認して、雨が入らないようにバナナっぽい葉を重ねながら結びつけていく。
休まずに作業を続けて、仕上げに出入り口にドアもどきの布をかける頃には日が暮れ始めていた。
「にゃかにゃかどうして、うまくできたもんじゃの」
ぐいーっと背伸びをしながらイニャトさんが言った。
「あと必要なのは家具や竈でしょうか。ああ、登りやすくする為の階段もいりますかね?」
「それは明日考えればいいでしょう。皆さん今日はお疲れでしょうし、早めに食べて早めにお休みになられた方がいいかと思います」
「そうですね。ニャルクさん、イニャトさん、内装はまたにしてご飯にしましょう。燻製もできてると思うし。福丸さんもぜひ食べてみてください。今日はありがとうございます。バウジオも、見ててくれてありがとね」
「ばっふばっふ!」
燻製を見に行くと充分燻されて美味しそうに仕上がっていた。早速切り分けて全員に配る。嗅覚が鋭いニャルクさん達に燻製の匂いはどうかと思ったけど、みんな意外と気に入ってくれた。
「木の煙でこんにゃに味が変わるとは思いませんでした。美味しいですね」
「これはそのまま以外にどういう風に食べるのが美味しいんですか?」
「スライスしてサラダに入れたり、パンに挟んだりしたら美味しいですよ。肉以外にもナッツとかチーズも燻製にできますし、そうするとまた違った風味が楽しめるんです」
「ほう、それは食してみらねばにゃらぬにゃあ。次に町か村に行った時は使えそうにゃ物を探してみよう」
スープを片手にパクパクと燻製を食べているイニャトさんがにこにこ顔で言った。まるで晩酌するおじさんだな……。
「ところでニャオさん。先ほど燻製を切り分けるのに使っていた短剣なんですが」
「ああ、これですか?」
マジックバッグにしまっていた短剣を取り出すと、福丸さんが目を細めた。
「ああ、やはり。“バンパイアシーフの短剣”ですね」
「「ぶほっ!」」
兄弟猫が揃って吹き出した。
「ちょ、どうしたんですか?!」
ゲホゲホ噎せ続けるイニャトさんの背中をバウジオが鼻で擦る。ニャルクさんが涙目で私を見上げてきた。
「バ、バ、“バンパイアシーフの短剣”ですって?! ニャオさん、にゃんでそんにゃ物持ってるんですか?!」
「え? え? なんでって言われても、教会を放り出された時に渡されたマジックバッグに入ってたんですけど……」
「追い出す奴にこんにゃもんをやるわけにゃかろう!?」
「そんなこと言われても?!」
「まあまあ皆さん落ち着いて」
落ち着いてって言われても、爆弾落としたの福丸さんですけど? なんの爆弾かよくわからんけども?
「“バンパイアシーフの短剣”は400年前の戦争で使われて以来、行方知れずとなっているマジックアイテムです。切りつけた対象の血を吸って能力を奪うという代物で、当時はサラマンダーの力を使っていました」
「サラマンダーって……」
「当時の所有者は鞘から抜いて魔力を込めることで、炎の鎧をまとい炎の鞭を操っていました。常に前線で戦っていましたねぇ」
そんな危ない物だったの? これ。
「でも、なんでそんな物があの教会に?」
「昔から評判の悪い奴らですからね。混乱に乗じて盗んだんでしょう」
福丸さんが呆れ顔をした。
「血を吸われた者はしばらく能力を使えなくなりますが、時間の経過と共に元に戻ります。ニャオさんはその短剣になんの血を与えましたか? エアレー以外で」
「鶏と兎ですね」
即答すると、今度は福丸さんが吹き出した。解せぬ。
福丸さん曰く、短剣が夜明けに鳴き続けたのは鶏の血を吸ったからだとか。だけど血の量が少ないから、1週間以内には効果が切れて鳴きやんだんだろうと。
「うまく使えば生活にも役立ってくれますが、悪く使おうと思えばいくらでも悪事に利用できます。ニャオさん、その短剣は今あなたを主人に選んでいますから、充分気をつけてくださいね」
「はい、鶏以外捌きません」
「そこまでしなくていいです」
▷▷▷▷▷▷
食事の後、イニャトさんが種を持って近づいてきた。
「ニャオよ、お前さんのユニークスキルでこの種を育ててみてくれんかの?」
「果実ですか?」
「そうじゃ。ガジューがあれほど見事に育ったんじゃから果樹もいい実をつけると思うんじゃよ。ここに桃とククルと林檎の種が」
「林檎でお願いします」
「……フクマル殿、真後ろに立たんでおくれ。儂びっくりじゃよ」
イニャトさん、縮こまっちゃってまあ。
とりあえず、果樹を植えるのによさげな場所を選んで、穴を掘って種を置いて土を被せる。そして竹筒の水をガジューを植えた時みたいにしながら地面にかけて手を合わせた。
美味しい林檎がたくさん実りますように。
「はい、お祈りしました。また明日様子をぉぉぉおおおっ?!」
うきうきしてる福丸さんを見上げて目をぱちくりさせてる兄弟猫と、行儀よくお座りしてる黒犬に苦笑していたら、後頭部を殴られるような衝撃があってつんのめってしまった。
え? なんで? 植えたばっかりの種がぼんっ、と芽吹いて一気に成木になってんだけど?? 私葉っぱに殴られたの?? なんで??
芽吹いた林檎の木は見る間に大きくなって枝を広げていって、一気に花が咲いたと思ったら散って、真っ赤な実がたわわに実っていった。
ぽかんとしていたイニャトさんが恐る恐る林檎の木に近づいて登っていき、実を1つもぎ取った。地面に降りてニャルクさんに差し出すと、風魔法で真っ二つにされる。割れた林檎の断面に含まれるたっぷりの蜜は今にも滴り落ちそうだ。
林檎の半分を受け取った福丸さんがシャクリと1口で平らげる。そしてカッと目を見開くと、二足歩行のまま私の目の前まで来てぐわしと両肩を掴んできた。爪痛い。
「ニャオさん」
「はい」
「わたくしの寝床は川向かいにあります」
「存じております」
「ニャオさん」
「はい」
「10本ほどお願いします」
「……種があれば」
「イニャトさん」
「普通の種と隠れダンジョンから持ち帰ったユファネルの種があるぞ」
「では10本ずつお願いします」
「了解しました」
その後、福丸さんの背中に乗せられて連れていかれた寝床で、掌紋の力を使いまくって疲れ果てた私は、ごわごわの毛に埋もれて眠りこけた。夢のマイホームの第一夜は兄弟猫と黒犬が悠々と使ったらしい。
次は私も床で寝てやる。




