第16話 ふざけんな!
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まるで現実味がない。
叩きつけられたニャルクさんに駆け寄るイニャトさんも、猫耳糞ジジイに飛びかかって喰いつかんばかりに吠えまくるバウジオも。バウジオを抑える冒険者の叫び声とか、ニャルクさんを指差した冒険者の青ざめた顔だとか。軽食コーナーの店員の悲鳴さえも、フィルターに遮られた向こうの世界のように思える。
受付嬢が駆けつけて、ニャルクさんに魔法をかける。この状況なら回復魔法だ。ぐったりしたニャルクさんの手をしっかり握り締めるイニャトさんの背中がかすかに震えてる。
その向こうで起き上がった猫耳糞ジジイが、ニャルクさんとイニャトさんを指差して叫んだ。
冒険者達が猫耳糞ジジイに向かって怒鳴る。違う冒険者がどこかに走っていった。商人達は我関せずとそそくさ逃げていく。
怒号が飛び交う中、言葉は全然わからないけど、大袈裟な身振りを交えて叫び続ける猫耳糞ジジイに小学生の時ののクラスメイトの顔が重なった。
誰にでも意地悪をする糞ガキ。体が大きいから誰も逆らえないのをいいことに好き放題して、人の物を盗ったり壊したり。
私がばあちゃんに買ってもらった新品の鉛筆を真っ二つにへし折ってゲラゲラ笑っていた糞ガキと、猫耳糞ジジイが同じに見える。
夢なんかじゃない。異世界に召喚されて放り出されたことも、出会った兄弟猫や黒犬も現実だ。
「……ふざけんな」
ニャルクさん達の方に向かう。途中冒険者の1人に手を掴まれて止められたけど振り払った。
イニャトさんがこっちに気づいて来るにゃと叫ぶ。猫耳糞ジジイが私を見て声を張り上げた。
「ふざけんなよ……」
掴みかかろうとしてきた猫耳糞ジジイの手を避ける。周りの冒険者達が腰の剣に手をかけた。
「ふざけんな糞ジジイがっ!!」
ここにいる誰よりもでっかい声で勢いづけて、一撃必殺。使うのは足。狙う場所? そんなの決まってる。
「にゃっははははははっ! やるにゃあニャオ!」
全てを間近で見てたイニャトさんが腹を抱えて笑った。バウジオがきらきらした笑顔でこれでもかと尻尾を振る。回復魔法をかけ終えて、手で口を覆って肩を震わせる受付嬢の隣で目を覚ましたニャルクさんが、私と周りを見てぱちくりした。
ひゅっと息を飲んでいた冒険者達が、イニャトさんと受付嬢の笑い声につられて吹き出し笑い始め、商人達にも伝染していく。
数人が期待するような目を向けてくるから、応えるように拳を突き上げれば歓声が上がった。足元には股間を押さえて蹲る猫耳糞ジジイの成れの果て。
人型の男ほどわかりやすい急所持ってる生き物はいないんだよ糞が。ざまあみろ。
……あの糞ガキ大丈夫だったかな?
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どこかに走っていった冒険者はギルドマスターを呼びに行ってたみたいで、いかつい顔のそれらしいおじさんを連れて戻ってきた。で、この状況にぽかんとしてる。
それもしょうがないだろうな。被害を受けたケット・シーは治療済み。これは予測できただろうけど、その周りはカオスだもの。
木でできた酒入りのコップをぶつけ合うような乾杯をして一気飲みする冒険者達。顔をつき合わせた商人達はくふくふと笑い合って、受付嬢は軽食コーナーの店員と一緒に泣いてる。笑い泣きだ。
たくさんいる人達の誰からも見られないような隅っこで、猫耳糞ジジイは萎びた状態で縛られてる。ざまあ。
近くの冒険者に状況を確認するおじさんになんだか申し訳なく思うけど、今優先したいのはあなたじゃないんだ。ごめんね。
「ニャルクさん、大丈夫ですか?」
膝をついて、ニャルクさんの顔を覗き込む。
「すみません、私のせいです。私が巻き込んでしまって……」
「あにゃたのせいじゃにゃいですよ。そんにゃに落ち込まにゃいで」
ニャルクさんがにっこり笑った。
「僕はケット・シーです。普通の猫より頑丈にゃんですよ。あの程度でどうにかにゃったりしません」
「じゃが儂は肝が冷えたぞ」
ふぃ~、とイニャトさんが床にぺたりと座った。
「ニャルク、お前さん頭を打っておったろ。頭はまずいぞ頭は」
「ばっふばっふ!」
「すみませんイニャト。バウジオも」
ニャルクさんがバウジオの頬を撫でる。ギルドマスター? が近づいてきた。
『○✕△?』
タイミング的に、大丈夫かって聞いてきたのかな?
「大丈夫です、回復魔法もかけていただいたので」
ニャルクさんが答えた。
『△○□△?』
「はい、わかりました」
冒険者ギルドの奥を親指で示したギルドマスター? に頷いたニャルクさんが立ち上がる。
「ニャオさん、ギルドマスターが奥で話をしたいそうです。来てくれますか?」
あ、やっぱりギルマスだったか。
「もちろんです。ニャルクさん、失礼しますね」
そう言って、ニャルクさんを抱っこする。
「ぅえ?」
ニャルクさんから変な声が出た。
「ちょちょちょっ、ニャオさん?!」
「私がお連れします。掴まっててくださいね」
回復魔法をかけてもらったとはいえ、頭を打ったと聞いて無理はさせられない。私のせいで怪我したんだがら責任取って面倒見させてもらいます!
「にゃほほほほ、よかったのうニャルクや」
足元でイニャトさんがからかうように笑った。バウジオが笑顔でついてくる。
「いいですから! 自分で歩けますってば!?」
暴れるニャルクさんをしっかりと抱え直して、がははっと笑うギルマスについていった。
書いていてとても楽しかったです。




