第13話 お勉強しましょう
ニャルクの一人称を「私」から「僕」に変更しました。
「では改めまして。僕はニャルク。種族はケット・シーです」
「儂はもう名乗っとるから省くぞ。こやつの弟じゃよ~」
弟を叩き起こしたニャルクさんが丁寧に挨拶してくれた。イニャトさんも起き上がって手を振ってくる。
「あんまり似てないけど」
思ったことを素直に聞いてみた。
「にゃほほほ。儂は母親似、ニャルクは父親似にゃんじゃよ」
「ケット・シーは普通の猫と同じで、兄弟で毛色が違うことが多いんですよ」
ニャルクさんの説明に納得して、へぇ~、と頷く。イニャトさんがまた笑った。
「お前さん、そんにゃことも知らんのか。今までどうやって生きてきたんじゃ?」
「いやぁ、私こっちの世界初心者なもんで。なんにも知らないんですよ」
そう言って頬を掻くと、ニャルクさんとイニャトさんが目を真ん丸にした。
「世界初心者? 昨日生まれたとでも言うんか?」
「イニャト、この人は僕達以外に言葉が通じにゃいと言ってましたよ」
「何と……。服も妙ちくりんじゃし、お前さん何者じゃ?」
くりくりの目が見上げてくる。頭をわしわし撫でたくなるのを我慢しながら最近起こったことを説明すると、ニャルクさんがふむ、と前足を口に当てた。考える時の癖なのかな?
「異世界召喚の儀式ですね。ですが、あれは数百年前禁術に指定されたはず……」
「禁術?」
「この世界では古来より、異世界から人間や魔物や妖精、時には神に近い存在を召喚しては使役してきました。土地の開拓や水路の確保にゃど、暮らしやすくすることが目的でしたが、いつからか領土を奪う為の戦争に使われ始めたんです」
「異世界の人間は特別にゃスキルや高い魔力を持つ者が多い代わりに、身体的にこっちの人間に劣る者が多かった。それ故に大勢召喚され、悪どい奴らに駒のように利用されたのじゃよ」
「力を持つ国々は競うように召喚の儀式を行える司教を金で集めてより強い力をつけていったんです。そんにゃ奴らをどうにかしようといくつかの国が立ち上がり起こった戦いを、神々が見守った戦争と言います」
「勝ったのは立ち上がった方の国々。召喚した者達を力で押さえつけた王と、手を取り合いよい国を作ろうとした王ではどちらの絆が強いかは言わずもがにゃじゃ」
「勝利した国々の王の筆頭だったのがアシュラン王。今僕達がいるアシュラン王国の三代目にゃんです」
ほぉ~、立派な王様だ。
「神々が見守った戦争は400年ほど昔のことでにゃ。召喚術をやめさせるには100年かかったらしい。どの国にも根づいておった儀式じゃから、ちと時間が必要だったようじゃ」
「そう! 300年前ですよ、禁術ににゃったのは!」
「ニャルクうるさい。今とにゃっては国から選ばれたわずかにゃ者だけが、隣接する異世界から契約した召喚獣を喚ぶことしか許されておらん。それ以外の者が行うことを禁術としたのじゃ。大昔と呼べるほど時間は経ってにゃいから、その分儀式を覚えている者達も多い。じゃからもう一度過去の栄誉を取り戻そうとする馬鹿共がたまにおるんじゃよ」
「じゃあ、私達はその犠牲者ってこと?」
「そうにゃるにゃあ。ん? 達?」
「私の他に2人いたんです。召喚された人。その人達はこっちの言葉がわかるみたいで、私とは言葉が通じませんでした」
「不思議にゃ話ですねぇ。僕達とは通じるのに」
「ニャルクさん達は人間と話せるんですか?」
「そりゃ当然。ただの猫じゃにゃいからにゃあ。あ、大事にゃことを忘れておった」
「にゃんですか? イニャト」
ニャルクさんが首を傾げる。イニャトさんが私に前足を向けた。
「お前さんの名前じゃよ。聞いとらんかった」
「そういえばそうでしたね」
話せるのが嬉しくて忘れてた。社会人として失格だ。
「遅くなってすみません。直央といいます」
「ニャオか、よい名じゃにゃ」
「いえ、ニャオじゃなくて……」
「近しいものを感じますねぇ。よろしくお願いします、ニャオさん」
「……よろしくお願いします、ニャルクさん、イニャトさん」
ニャオでいっか。
「この国、アシュラン王国っていうんですね。村の名前は?」
「フアト村じゃよ」
「フアト村……。まだ少ししか滞在してないけど、優しい人ばっかりの村ですね」
思い出すのは屋台のおばさんとテントの店の店主。客商売だからある程度のおまけやら値引きやらは普通かもしれないけど、私的には凄く助かった。
「そりゃあそうじゃ。珍妙にゃ服を着て私わけありですと書いた看板を背負って歩いとるようにゃ黒髪が目の前に来れば多少の融通は利かすじゃろうて。商売人とはそういうもんよ」
「……後で着替えます。何着か買ったんで。というかイニャトさん、なんでそんなに髪のことを言うんです?」
尋ねれば、ニャルクさんが教えてくれた。
「この世界の人間の黒髪はほとんどが縮れ毛にゃんです。よくて強めの癖っ毛ですね」
「お前さんみたいに艶々したまっすぐにゃ黒髪は捜したところで見つからんわい。物好きにゃらそれにゃりの金を出すんじゃにゃいか?」
「そうですか……」
頭にイケメンの眩しい笑顔が浮かんでくる。売りに行ったのか? あいつ。
「そうそう、ニャオよ。もう1頭仲間を呼んでいいかの? 村の外で待たせておるんじゃ」
イニャトさんが耳をピンと立てて言った。
「村の外? もちろんいいですよ。もう遅い時間ですし、みんなで寝ましょう」
「あ、じゃあこのフック外させてもらいますね」
ニャルクさんがテントのフックを外すと、イニャトさんが外に向かって笛を吹く。首にさげてたことに気づかなかった。もふもふ過ぎて。
10分後、入口の布を捲り上げて入ってきたでっかい黒犬に押し潰されて、ぅぐえっと出したことのない声を上げてしまった。
説明部分は多少いじるかもしれません。




