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第124話 一段落

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

 星が見えた。やっと雪がやんだな。

 トールレン町から送られてきた生ハムを添えたトリュフパスタとスープで夕食を済ませた後、1人ぼっちでお風呂に来た。シシュティさん達が来たがるかと思ったけど来なかった。やっぱりライオンはちと怖いのかね。


「はぁぁ~~~」


 長くなった脚を伸ばしてみる。お風呂が広くて助かった。この姿、身長が結構伸びてるから普通サイズの湯船だったらはみ出そうだな。


〖お疲れ様。助かったよ。……ずいぶん立派な姿になったね〗


 ふい~、と息を吐いてたら、クァーディーニアさんがふわふわとやってきた。


「こんばんは。この姿のおかげでどうにかなりましたよ」

〖うん。手助けできなくてごめんね〗


 いえいえ。


「精霊が直接手を出したら後々厄介なことになるんじゃないんですか?」

〖まあね〗


 風呂の縁に体を拭く用の布を畳んで置けば、クァーディーニアさんがちょこんと座った。


〖君達のおかげで、ユーシターナは無事に自然に還れそうだよ。ありがとう〗

「お役に立てて何よりです」


 これで来年は平穏だよね。少なくとも花粉が原因でどうこうなることはないはず。


〖はい、これあげる〗


 ふわっと、目の前に何か飛んできた。これ木の実?


〖実はシルフェイアに会いに行っててね。君達のことを伝えたんだ。そしたらお礼にこれを渡してほしいって。遠く離れた地に生える、シスレンっていう樹木の実だよ〗

「食べられるんですか?」

〖食べられないこともないけど……。体質に合わないとお腹壊すよ?〗


 マジか。やめとこ。


〖ラタナの時と同じように、神の繭にあげたらいいよ。芽吹けるようにしてくれるから〗


 清ちゃんにか。じゃあ春まで待とうかな。


「今寝てるんで、暖かくなってからあげてもいいですか? 腐りません?」

〖雪に埋めとけば大丈夫だよ。それかマジックバッグに入れるといい〗


 おお、その手があったか。果実とか、芽吹く前の種は入れられるんだよね。


「わかりました。いただきますね」

〖特別な効果のある実がつくわけじゃないけど、花がとても綺麗で人間達に人気なんだ。シスレンから採れる蜂蜜は凄く美味しいから、養蜂を試してみてよ〗

「はい、ありがとうございます」


 なるほど。実は駄目で蜂蜜はオッケー、と。


〖あと、ラタナから伝言〗


 ん? ラタナさんから?


〖雪解けの頃に、家の近くを流れるせせらぎを登って、分岐点付近を探すように。見つけられるかはあなた次第だけど、見つけられれば大事にしてね、だってさ〗

「……目印とか特徴みたいなのはあります?」

〖さあね〗


 おおっふ、ヒントはなしかい。まあ探してみよう。


〖僕達風の精霊からはシスレンの実を、ラタナからは今の情報をお礼にさせてもらうよ。じゃあそろそろ行くね〗

「え、もう行くんですか? ニャルクさん達に会っていきません?」

〖ごめんね。僕は風だから吹き続けないといけないんだ。また来るよ〗


 そう言うや否や、クァーディーニアさんは来た時みたいにふわふわと行ってしまった。吹き続けてるならまた会えるよね。

 パシャッとお湯を顔にかける。一瞬温かかったけど、すぐに冷たくなった。

 星が隠れ始めてる。雪が降り始める前に帰ろうかね。




 ▷▷▷▷▷▷




 冷えないよう頭に乾いた布を巻いて家に戻ると、みんなもう寝てるみたいだった。先に寝ててって言ってたもんね。


「戻ったか」


 家の木の幹に首を巻きつけてた漣華さんが頭を上げた。


「すみません、起こしちゃって」

「そもそも寝とらん。気にするな」


 そう言いながら、漣華さんはくあっとあくびをした。眠いのは眠いんだね。


「さっきクァーディーニアさんが来て、ラタナさんからの伝言とこれをくれたんです」


 握ってた木の実を見せれば、漣華さんは顔を近づけてきた。


「ほう、シスレンの実か。ここいらでは珍しい」

「シルフェイアさんに会いに行ってたみたいで、お礼にって預かってくれたみたいです。雪解けの頃に植えてって言われました」

「ふむ。ならば陽当たりのいい場所を探さねばな」


 目を瞑った漣華さんがすうっと顔を上げた。あそこでもない、そこでもない、って呟いてる。もう植える場所探してんの?


「じゃあ、私も寝ますね。おやすみなさい」

「あの崖の下なら、いや向こうの木々の……。む? ああ、おやすみ」


 よいしょっと家に上がれば、寝てるはずの芒月がぽてぽて駆け寄ってきた。


「みゃう!」

「しー。ニャルク兄ちゃん達起きるやろ? 静かにしてな?」

「みゃぅ」


 よしよし、いい仔いい仔。

 芒月を抱き上げて、簾をピッチリ閉める。そこに被せるように厚手の布を出入り口にかけた。これなら冷気もあんまり入ってこないんだよね。


「一緒に寝ような」

「みゃぅぅ」


 兄弟猫と黒犬を起こさないように、布団に潜り込む。毛布を3枚かぶって、服を掴んでくる芒月を抱き締める。

 あったかいねぇ。

 明日からまた収穫作業に取りかからないと。次の納品にはついてく予定だから頑張ろう。……その頃には体、戻ってるよね?

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