第122話 どこ行ってたの?
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「終わったか」
泣きじゃくるマニさんをどうしたらいいか悩んでたら、後ろから聞き慣れた声がした。
「え、漣華さん?」
「他に誰がおる」
音も風もなかった。ユニークスキルを使って来たんだな。シシュティさんと芒月は喜んでるけど、隊員達は強張っちゃってるよ。
「今までどこに行ってたんです?」
「ちと王都までな。こやつを迎えにいっておった」
そう言って、漣華さんは背中を振り返った。男の人が降りてくる。えらい渋いおじ様だな。耳が尖ってるし、エルフかな。
『△、□○?!』
降りてきた人を見て、サスニエル隊の1人が驚いた顔で叫んだ。隊員達が揃って右手を胸の前に当てる。敬礼かな。え? この人偉い人?
服を引っ張られて下を見たら、今まで雪に絶対触らなかった芒月が後ろ脚で立ち上がって爪を引っ掻けてた。刀を片手で持って芒月を抱き上げると、首のにおいをくんくん嗅いできた。こしょぐったいんだけど。
『◎。△□、○▽』
隊員達と話してたおじ様がこっちに来た。シシュティさんが腕を掴んでくる。ずいぶん緊張してるな。
「こやつはガレン。ガルネ騎士団の副団長じゃ」
……なんちゅー人を連れてきてんの?
「こやつと騎士団長は、異国の術を使う者がサスニエル隊の中にいることに気づいておったらしい。しかしかの国に派遣された隊員は過去数年に渡り30ほどおるようで、誰なのか尻尾を掴めずにおったところ、ユーシターナの件でこの森に隊を派遣させることになり、そなたに暴いてもらおうと考えたようじゃ」
「暴いてもらうって、なんで私なんです? イヴァさんとかエルドレッド隊の人達ならまだしも、副団長さんは初対面ですよ?」
「ラタナから神託を受けたそなたなら、何かしら手を打つと思ったんじゃろうよ。そしてクァーディーニアが現れた。見事に当たったではないか」
なんか腑に落ちないな。結局いいように使われたってことじゃないの?
「もしかして、イヴァさんがサスニエル隊に同行したのも……?」
「うむ。見知った顔があればより協力的になるであろうと踏んだのであろう」
そこまで考えてたか。ちくしょうめ。
「あの娘はガレンが直々に団長のもとへ連れていくと言っておる。ほれ、もう準備を始めとるであろう?」
そう言われて顔を向ければ、隊員達が膝から崩れ落ちてたマニさんを立たせている最中だった。両手は後ろ手に縛られてる。悪いことをしたとはいえ、痛々しいな。
「ん?」
マニさんの左肩に何かいる。気づかなかった。……首筋がチリチリする。あれは駄目なものだ。
何か言ってるガレンおじ様の隣を通って、マニさんに近づく。刀でマニさんの肩近くの空を突き刺せば、何も見えないのに手応えがあった。
「キィィイィィィィイイィィィ!!」
耳につく甲高い音に思わず顔をしかめる。近くにいた隊員達も一緒だ。そのまま上に振り上げれば、プチッと切れる感じがした。
切っ先が何かを貫いてる。掌サイズのコウモリみたいだけど、顔はもっと凶悪。チビコウモリはもがきまくって刀から体を引き抜くと空へ飛んでいった。
『✕△!』
ガレンおじ様が叫んだ。隊員の1人が弓を構える。矢を放つ前に、どこからか飛んできたカフクルがチビコウモリを掴まえた。
「キュイ! キュルルルルゥ!」
カフクルが鳴きながらチビコウモリをはむはむしてる。いいのかな。あ、弓の隊員が止めにいった。
「お手柄じゃな、ニャオよ」
ふふん、と漣華さんが得意気に笑った。なんで?
静かになったマニさんを見てみれば、泣きやんできょとんとしてた。隊員達を順番に見て、私を見る。まるで知らないところで目覚めたみたいな反応だな。
「……漣華さん、これってもしかして……」
「異国の術じゃ。何者かがこやつを操っておったらしい」
マジで? てかそれさらっと言っていいことなの? ガレンおじ様達もそれ聞いてどよめいちゃってるじゃん。
「じゃあ、この騒動はマニさんの意思じゃなかったってことですか?」
「そうではない。抑え込んでいる負の感情を増幅させる類いのものじゃ。術を込めた墨を刺青として彫ったのであろう」
そっか。でも結局マニさんも被害者じゃん。どうすんのこれ。
「後のことはあやつらに任せればよい。妾達はニャルク達のもとへ行くぞ」
漣華さんが魔法陣を描き上げて、ガレンおじ様に向かって顎でしゃくって見せた。ガレンおじ様は深々と頭を下げて、マニさんを立たせた隊員達を引き連れてくぐっていった。弓の隊員もチビコウモリを掴んで追いかけていく。
いつものメンバーとカフクルだけになっちゃった。
「キュイ!」
カフクルが飛んできて右肩にしがみついてきた。今の私には掴まりやすかろうて。
「あ、漣華さん。私体が大きくなってるんですけど、顔ってどうなってます? 変わってます?」
シシュティさんには聞きようがないし、鏡がないから確認できないんだよね。
「ふむ。雄みが増しておる」
雄みて……。漣華さんからそんな言葉聞きたくなかったな。
「その内元に戻るじゃろうて。短剣を納めるがいい」
いい加減だなぁ。こっちは体が変わってんのに。まあいいや。
それよりこの刀、鞘に納まんの? とりあえず、鯉口だっけ? に切っ先を当ててみたら、伸びてた部分がするすると消えて、綺麗に納まった。凄いな。
「ほれ、くぐれ。あやつらも待っておるじゃろうて」
漣華さんが新しい魔法陣を描いてくれた。首にしがみついてる芒月と、肩に乗ってるカフクルを確認する。
「シシュティさん、帰りましょう」
空いてる手を差し出せば、シシュティさんは嬉しそうに握ってきた。手が小さい。まさかこの人に対してそう思う日が来るとは思わなかったなぁ。




