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余話第2話 異世界人の行方

読んでくださっている皆様、ブックマーク、評価してくださっている皆様、ありがとうございます。

次回から本編に戻ります。

「ありがとうございます。戻って大丈夫ですよ」


 エルゲに撫でられ、もやの中にいる者が満足げに喉を鳴らす。すぐ傍に立つアーガスとオードは、目を回している司祭達を呆れた顔で見下ろしていた。


「勇ましいこって」

「ええ、全く」

「あのー、何があったんです?」


 遠目に眺めていたライドがおずおずと近づいてきた。


「馬鹿を黙らせただけだ。気にするな」

「ね~ぇ、これ見てぇ~」


 眉間を押さえるオードの脇からイヴァが顔を出した。


「お、フレドリオの杖か!」


 細い腕に抱えられた金色の杖にアーガスが反応する。


「カフクルが見つけてきてくれたのぉ」


 そう言って、イヴァは自身の左腕に張りついている巨大なコウモリに頬擦りした。カフクルと呼ばれた黒いコウモリは、どこかで摘んできたらしい桃色の蕾をクシャクシャと食べている。


「これにぃ~、これをしてぇ~、こうしたらぁ~、あら不思議ぃ~」


 手元にいくつもの魔法陣を浮かべながらイヴァが歌うように杖を撫でれば、魔法石から3人分のステータスが浮かび上がった。


「これがユナちゃんのでぇ、これがジュンヤ君のでぇ、こっちが名無しちゃんのねぇ」

「ほう、ユナは火と水と風、あと回復魔法が使えるのか」

「うわぁ、魔力量もかなりある! 凄いなぁ」

「ジュンヤ殿は風魔法と土魔法ですね」


 感心したように頷いたアーガスは、エルゲの召喚獣から逃げて柱に隠れている異世界人達に目をやった。

 戦士になれる素質を持つ者を求める国は多い。禁術で召喚された異世界人ならなお目立つ。


「まずは保護だな。王国に連れて帰ろう。なあ隊長。……隊長?」


 傍にいるはずのエルゲから返事かない。すぐさま顔を横に向けたアーガスは……。


「助けてぇ~……アーガスゥ~……」


 召喚獣に引っ張られて魔法陣をくぐりかけているエルゲの尻を見つけた。


「用が済めば召喚の門をとっとと閉じろっていつも言ってんだろうがエルゲェッ!!」

「ぅあっ! と、はぁ~助かった~」


 引きずり出されてほっと胸を撫で下ろすエルゲをオードに放ったアーガスは、主人を捜す召喚獣を強めに小突いた。

 キャンッ! と鳴いて魔法陣の向こうに引っ込むのを見計らって、イヴァが門を閉じる。


「相変わらずモテモテねぇ、隊長さん」

「可愛いでしょう? うちの仔」

「笑ってんじゃねぇよ! 向こうに連れてかれたらこっちに戻すの大変なんだからな!」

「あらやだぁ、そんなに吠えて」

「怖いでしょう? うちの子」


 ふざけんな! と苛立つアーガスに、ライドがすまなそうに声をかける。


「すみません、副隊長。これってどうなってるんでしょうか?」


 指差しているのは3人目の異世界人、名無しのステータスだ。

 名無しのステータスにはまず名前が書かれていなかった。これは通常ではあり得ないことだ。そしてスキル。ここも空欄。

 異世界人でもこちらの世界に喚ばれた時点で何かしらのスキルを得るのだが、名無しにはそれがない。

 これほどに真っ白なステータスを、アーガスは初めて見た。


「あらぁ?」


 イヴァが首を傾げて、呪文を唱える。すると、ステータスの加護が書かれる欄にぼんやりと文字が浮かんできた。


「隠されていますね」


 エルゲが覗き込む。アーガスは頷いた。


「この部分、もっとはっきりできるか?」

「できるかできないかだったらできるけどぉ、時間がいるわぁ」

「そうですか。では先に名無しさんを捜して保護しましょう。それほど遠くへは行っていないでしょうから。オード、ライド、追えますか?」


 エルゲが問えば、2人の犬獣人は苦い顔をした。


「それが、この教会の門をくぐる時にドレイファガスの奴ら以外のにおいが確かにあったんですが……」

「門のところで完全に消えてしまっていて、追えないんです」

「消えてるだと?」


 オードが頷く。


「はい。まるで空気に溶けてしまったかのように。西に行ったのか、東に行ったのかすらわかりません」

「西にはフアト村がありますよね、そこに向かったんじゃないでしょうか?」

「召喚されたばかりなのにどこに村があるかなんてわかるわけないだろう」


 オードが言えば、そっかぁ、とライドは唸った。


「でもぉ、その線あるかもぉ」


 イヴァが両手の親指と人差し指で作った窓を覗き込みながら言った。指の囲いの中に小さな魔法陣が浮いている。


「猫獣人がねぇ、マジックバッグを渡してるわぁ。中には地図とぉ、はした金とぉ、“乾き知らず”とぉ、短剣が入ってるみたぁい」

「どちらに向かったかは見えませんか?」

「ざ~んねん、門の内側しか見えなぁい」


 イヴァはパッと両手を開いてひらひらさせる。


「地図を見たなら村に向かうだろうな。よし、追うか」

「そうですね。反対側には古木があるだけで、あとはずっと森ですし」

「急げば追いつくでしょう。皆さん! そちらに転がっている司祭さん達を運んで下さい!」


 エルゲが会話に参加していなかった部下達に声をかけた。ほんの数分で、失神したままの司祭達は回収される。

 ユナとジュンヤはしんがりの部下についていった。


「俺達も行くか」


 アーガスが先頭を歩き、教会を後にする。


「しっかし、よくこんな金ピカが今まで隠れてたな」


 教会を振り返ったアーガスが吐きそうな顔をする。


「広範囲に結界を張っていましたからね。それが破れたから私達も気づけたんですが」

「そもそも、結界はどうして破れたんです?」

「わかんないけどぉ、召喚の儀のすぐ後みたいだからぁ、何か不備があったんじゃなぁい?」

「天罰ですよ。天罰」


 空が明るみ始めた。遠くの方から鶏の鳴く声がかすかに聞こえてくる。


「お、朝っぱらから元気だな」

「よく通る声ですよねぇ。あれにはさすがの私も飛び起きますよ」


 ははは、とエルゲが笑う。次いで聞こえてきた、鶏の断末魔。


「喰われたか」

「あれだけ騒げばねぇ……」


 オードとライドが苦笑いを浮かべる。


「もしかしたらぁ、私がけしかけたケリュネイアが食べちゃったかもぉ。おじいちゃん追っかけてあっちの方行ってたしぃ」

「それはいい口直しになりましたねぇ」


 黒い笑顔でエルゲとイヴァが笑い合う。ぺたんと耳が垂れた犬獣人達の頭をアーガスがガシガシと撫でた。


「慣れろ」

「「はい」」


 仕事を終えた一行は、フアト村に向かって進み始めた。

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