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1.3.2 魔道鎧

 ラジュリィとファルベスをネメスィの右腕に乗せて運んでいた御堂は、コクピットの中で自分にとって新顔の少女、従騎士の行動について推測していた。


(突然、作業に同行すると言い出したときは、なんだと思ったが)


 自己紹介したファルベスは、御堂のする仕事に興味があるので、是非についていきたいと申し出たのだ。どうにも、その従騎士に良く思われていないと感じた御堂は、他の理由もあって断りたかった。だが、御堂が断るより先に、ラジュリィが了承してしまったのだ。

 こうなっては仕方が無いので、御堂は従騎士も一緒に連れていくことに対して口を挟むことをやめた。それよりも、彼女の自分に対する刺々しい態度について考える。


(領主の娘についている俺を疑っている、ということか?)


 余所者である御堂を監視するための人員だと考えれば、その態度も目的も、筋が通っているように思えた。しかし、誰が、何故、今更になってそんなことを? タイミング的には不自然か……いや。


(領主が差し向けたものなら……)


 昨晩の会話で、御堂という人間の考えがわかったとムカラドは言った。そして、彼も自分とネメスィをその手に収めたいと考えているのでは、と御堂は予想している。そのために、領主がラジュリィと近い歳の従騎士を、それも簡単に御堂になびかない人員を送り込んできたとするならば。


(これなら、辻褄が合うのではないだろうか……しかし)


 御堂は、機体の腕に乗っている少女二人を見て、溜め息を吐いた。


(ロリータコンプレックスだと思われているんじゃないだろうな……)


 この世界の平均的な婚姻年齢は知らないが、悪い意味での少女趣味だと思われるのは、流石に嫌な御堂であった。


(変に疑いを持たれて、痛くない腹を探られるのは、都合が悪いな)


 御堂は、彼女への対応方針を固めた。


 一方、ネメスィの白い腕の上に座っているファルベスは、ラジュリィに詰問される状況に陥っていた。


「それで、何故、ファルは騎士ミドールに興味を持ったのですか?」


「と、突然なんですかラジュリィ様……」


「ここは私と貴女しかいないのですから、いつものようにラジュ姉で良いのですよ? で、何故なんです? 正直にお答えなさいな」


「そ、それはですね。話に聞いた授け人殿が、どれだけ強く立派な方なのか、気になった次第でして……」


 そう言う彼女は、亜麻色のショートヘアをしきりに撫でながら、愛想笑いを浮かべる。その癖を見て、ラジュリィは自分の妹分が嘘をついているのだと察した。正直者で嘘が下手なのは、小さい頃から変わらない、この娘の良い所でもあり悪い所でもある。


「まぁ、そういうことにしておいてあげましょう」


 それを追求しても仕方が無いので、ラジュリィは納得した素振りを見せた。嘘を見抜かれているとも知らず、ファルベスは安堵して胸を撫で下ろす。が、話は終わっていなかった。


「騎士ミドールのどこが素敵だと思いましたか?」


「……は?」


 次の詰問が待っていた。その内容に、従騎士は固まる。


「お、仰る意味が良くわからないのですが……」


「もう、ファルったら、男嫌いの貴女でも、騎士ミドールは素敵な方だということはわかるでしょう? 具体的にどこが格好良いかと聞いているのです。お答えなさいな」


「ええ……」


 ファルベスは困惑した。この姉様は、何を言っているのだろう。男が苦手だったのは貴女もだろうに、それがすっかりあの授け人に惚の字である。頭の中まで、あの授け人に汚染されてしまっているのか。

 従騎士は恐怖した。貴族をここまで駄目にする男……もし性別が違ったら、国を傾かせる、恐ろしい魔性の妖女になっていただろう。


「私としては、あの凜々しいお顔だとか、美しい獣のようにしなやかな身体など、外見的な魅力も大いにあると思いますが、内面も素晴らしい方です。例えば――」


 それから、呆れる従騎士の隣で一方的な惚気話をし始めた領主の娘を見て、ファルベスは思った。


(あの授け人、私が思っているよりも、ずっと危険な存在なのでは……?)


 騎士の仮面を被った怪物。それをどうにかして打倒せねばならない。幼い従騎士は決心したが、その手段が思いつかなかった。

 白い巨人の腕の上で、目を細めて空想に浸りながら、頬に手をやって延々と御堂について話すラジュリィと、どうしたものかと頭を抱えて唸るファルベスの少女二人。彼女たちは下を通った兵士たちから、奇異の視線を向けられていたことには気付かなかった。


 ***


 城壁の片付けや石材の整理といった作業を終えて、御堂はいつものように離れたところにネメスィを待機させた。ハッチを開放して機体から降りる。作業現場の側に立つ、丸っこく赤茶色の、全高八メートルの人型兵器、正真正銘の魔道鎧を眺めた。

 先日、魔獣が現れた騒ぎを受けて、作業現場を守るために、城の魔道鎧が駆り出されている。そのおかげで、御堂は周囲の警戒を彼らに任せて、機体から降りることができた。


(あの機体、名前は確か“ウクリェ”と言ったか)


 円形を組み合わせたような太い四肢と胴体。その腕には、大型の両刃剣と丸盾を持っている。半円の頭部には、鈍く光るアイラインがついていた。その頭部が、周囲を警戒するように動く。


(やはり、AMWとは技術体系が違う兵器だな)


 御堂はウクリェが歩いたりするところを少し見ていたが、あれがAMWのように機敏に動けるとは、どうにも感じられなかった。


(英国の旧世代機、コンカラーⅡに近いか、あれもずんぐりとしている)


 それでも、英国のAMWの方が動きは素早そうだと想像した。そんな魔道鎧「ウクリェ」だが、御堂は一つ疑問を浮かべた。


(魔道鎧というものは、魔法使いがマナとやらを練り上げて造り出すと聞いた。それは言わばオーダーメイドなのではないか。それなのに何故、同一規格に見える機体が複数ある……?)


 気になった御堂は偶然、近くにいたように見える従騎士のファルベスに聞くことにした。話しかける切っ掛けにも丁度よいのもあった。


「授け人殿は、そんなことに疑問を持つの?」


「すまない、魔道鎧という兵器に対する知識がほとんどないんだ。良ければ教えてくれないか、ファルベス」


「……わかったわ」


 ラジュリィに対する話し方とは違う、馴れ馴れしいとも言える口調の御堂に、ファルベスは少し違和感を覚えた。そして、こちらが御堂の素だということに気付いて、小声で呟く。


「……ただの優男ではないのね」


「ん? 何か」


「いいえ、なんでもないの。それで、魔道鎧についてだったわね」


 ファルベスが離れたところに立っている魔道鎧を指差した。


「魔道鎧にも格があるの。事前に定められた魔術で外向魔素を練り上げ、決まった形に形成した鎧。あれが一番下の量産品になり、これは三等級と呼ばれているわ」


「魔道鎧にも設計図があるということか」


「そうよ。方法が記された魔道書に従って魔素を集めれば、魔術師見習いでも作ることができる。ただし、これは誰でも組めるように簡素にした魔術だから、魔素の純度が自然と低くなる。性能はお察しよ」


「それが一番下ということは、他にも種類があるんだな?」


「ええ、そこから術士が手を加えたものがあるわ。これが二等級。そして、乗り手になる魔術師が、自分のためだけに作り上げるのが、最高級品の一等級よ。特別な魔道書を使ったり、術者自身が独自に作り上げるものね。これを作れるのは、ラジュリィ様のように才覚を持った方でないとできないわ」


「ファルベスはどれに乗ってるんだ?」


「私はムカラド様から二等級の鎧を頂いているわ、ブルーロ様と同じものよ」


「それは凄いな……ファルベスは、相当の技量があるということだな」


 そう、本当に感心した様子を見せる御堂に、ファルベスは少し得意げになったのを隠せなかった。むふぅと鼻を広げて、どうだと言わんばかりに薄い胸を張る。


「そうよ。バルバドが出たときだって、私がいたら一人で倒してみせたわ。授け人殿の鎧も相当のものだし、貴方の腕前もあるのでしょうけど、私だって負けないわよ」


「流石は、その若さで従騎士に選ばれる力の持ち主ということか、素直に尊敬するよ。目標、志も高いと見たが?」


 そう言ってファルベスに微笑みかける御堂。ファルベスは更に気を良くした。


「私はいつか、ラジュリィ様をお守りする騎士になる。そのために力をつけているの。でも、授け人殿が困ることがあったら、助けてあげないこともないわよ」


「ああ、いつか、その力に助けられるときが来るかもしれない。そんなことがあったら、よろしく頼む」


 御堂が右手を差し出すと、ファルベスはその手を迷わず取って握り返した。


「その時は、大船に乗ったつもりで良いわよ」


「それは頼もしいな」


 そう微笑んでいる授け人にすっかり自分が絆されてしまっていることに幼い従騎士が気付いたのは、彼がネメスィのコクピットに戻ってからだった。ファルベスは、己の迂闊さと御堂の人心掌握能力の高さ(実際には、この少女がちょろすぎるだけだが)に、頭を抱えるのだった。

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