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今のオウザ。律国会議。

 スガモの下から帰還したオウザは、その足でヤヨイに会いに王城へと向かった。


「どうぞ!オウザ様!」


「ありがとうございますっす!」


 笑顔で通される。同じく笑顔で返す。


 近衛とも、もう顔見知りだ。ここに来るまでの門衛や、この最深部護衛にしても、同僚と言っていい関係。


 剣を預け、王の間へ。


 玉砂利を素足で小気味良く感じながら、池の近くのベンチでスイカを食べている王の御前に参上する。


 とは言え、正座をしたりはしない。普通に、王の横に座る。護衛も外部への警戒に徹していて、こちらを一切気にしていない。


 これは、オウザを全権大使と任命した時から、ヤヨイが意図的にやり始めた事だ。


 子のないヤヨイは、あるいはオウザに王を引き継いでもらう事も考慮に入れてある。


 その後継者が格下であっては困る。元は流れ着いた漁民に過ぎないオウザの格を上げるため、全権大使としての責務を与え、こなさせ、内外へとその存在を知らしめる。


 近衛などの実戦能力を持った人間。政治能力に特化した議員などの人間。


 その両者に顔を覚えさせ、実力を認めさせる。


 王の血統ではないオウザには、この行程が必要。庶民は、ヤヨイが言えば納得してくれる。しかし、力に覚えのある実力者達はそう簡単に行かない。


 力を示さなければならない。


 反乱の芽を事前に消しておくためにも。



 幸いな事に、オウザには政治能力もあった。


 というか、師匠が、あのメイストームなのだ。そこらの人間で気苦労出来るほど、ヌルい修行時代は送ってない。


 政敵がどれほどの難物なんぶつであろうと、蹴り飛ばされないし、挨拶代わりの電撃スピアも飛んで来ない。


 後は自分次第。


 勇者メイストームの直弟子という異名は、律国内では絶対的なブランドとして機能する。人類最高の偉人の弟子なのだ。これだけでも世界中どこでも適当な役職を簡単にゲット出来るだろう。


 その上で現れるのが、人の出来たオウザ。


 勇者という人類最高戦力の弟子なのに、物腰柔らか。このギャップもまた、オウザの魅力として働いた。


 あらゆる意味で有名なメイストームの名が轟いていたからだが。これも師からの贈り物か。



「オウザは、それで良いと思ったんだね」


「はいっす。今後も4ヶ国で、刺激し合い、高め合い、協力する。それが正しい世界のあり方だと思ってるっす」


「うん。なら、頑張りなさい。きっと上手く行くよ」


 王は微笑みをもって、オウザのやろうとしている事に承認を与えてくれた。そして手ずからオウザの器に、霧茶を注いでくれた。王の器には、霧コーラ。



 ここに来ると、落ち着く。


 オウザは心の底からリラックスしていた。この国一番の貴人の前だというのに。


 昔から師の縁で可愛がってもらっていた。それもあるが。


 ただ純粋に、この王の懐の深さに、迎え入れてもらっている。それが心地良い。王になら何でも話せるし、何を言っても完全な否定だけはされまいと思える。だから、王の側になるほど、上級の騎士や役人になるほど、忠誠心が上がってしまう。


 この国は、正しく律国。律王の御心みこころによって統治される国。


 それゆえ、王の身に何かあれば、律国に重く響くだろう。


 あの時、ヤヨイを守れ、と言った師の言葉の意味はまだ分からない。律王もまた伝説の勇者パーティーの1人。生半な相手に遅れを取るはずもないが。


 そして護衛の近衛も最精鋭。勝てずとも王を逃がすぐらいはやれる。ヴェルグとイルマが鍛えているのだから。


 そしてもし魔王が王の暗殺を目論んでいるのであれば、遅すぎる。それはネイキッドをさらう前に実行されていなければならない。警戒レベルが高くなる前に。


 既に魔王が現れたと話題になってから王の誘拐などと、本当に出来ると思っているのであれば。魔王は恐るるに足りない。間抜けに過ぎない。


 ちぐはぐなのだ。


 実力があるのであれば、勇者やヴェルグを襲って、人類の力を削ぐのが良い。無いのであれば、先に王などの求心力を持った人間を襲うのが良い。


 だが現実に行ったのは、まだ十全な戦力とは言い切れないネイキッドの誘拐。それに足すとしても、剣王の子、ユリストの失踪のみ。


 一体、何をしようとしているのか。



 王への報告を終えたオウザは、来るべき剣国への訪問を前に議会へと向かう。オウザには彼らと接触する権限がある。ゆえに使えるものは使う。


「空いてる日、あるっすか?」


「毎週、木曜日は予備日としてありますが」


「んじゃ、4週間分、お願いしますっす」


うけたまわりました」


 王城2階、律国議会本部受け付けにて。基本的に議員は週4日の出席が義務付けられている。各々の専門分野での活躍が期待されているが、一般人としての意見を出すためにも、それ以外の会議にも出席が推奨されている。


 オウザはこの文人最高議会に、剣国との協調による魔国との健全な関係の維持についての意見を要請した。


 勇国の暗躍についても、条件に入れる。


 これでオウザも出席する事になる計4日間の議論で、答えを出す。


 オウザは全権大使。なんなら、1人で考えて1人で答えを出して1人で突っ張っても構いはしないが。


 それで上手く行く確率は、かなり低い。


 戦闘ならともかく、治世の業となれば、今までの歴史、政治について見聞を深めている議員に意見をうかがうのが早い。


 そもそも戦闘だって、その道の先人であるスガモらに教えをうているのだから。同じ事だ。



 1週間と数日後。最初の議会だ。


「では、オウザ。頼むよ」


「はいっす」


 始まりの声は、王。


 本来、通常議会に王は出席されない。議員と各部署の役人だけで行われるのが通例だ。


 だが今回は、通常ではない。前例の無い、魔国存亡の危機である。


 ゆえに最終決定者として王が立ち会う。


「では皆様。魔国復興相代表ドロウ殿からのお言葉をお伝えします」


 流石にオウザもこの場では、口語は使いにくい。砕けた話し言葉はナシだ。


 そしてオウザは、ドロウとの会話の全てを議員全員の前で伝えた。


 この場のほとんどの律国要人はそれを既に王から聞いているので、これは確認のようなものだ。役人クラスだと聞いていない者も居るので、そのためでもある。


「お手元にあるのが、魔国と親縁関係にある者達のリストです」


 オウザの掲示に、居並ぶ議員達がその書類に目を通す。


 上級役人、それこそこの場に居る者達の縁者から、魔国国民と結婚しただけの一般人まで含まれた膨大な人名リストだ。


 この1週間で、律国中を飛び回って手に入れた情報だ。各都市の役所には世話になった。


「この中から、最低でも40人。全魔国都市分の議員候補を選出します。候補者には引っ越し費用、候補準備金などを配布、そして律国から戦士団を装って候補者アシスト要員を送り込みます」


 当然ながら、各都市に都合よくバラけているわけはない。魔国内で、移動させる必要がある。議会員選出の前に。


 もしこの場に魔国内での権力に興味のある人間が居るのなら、その声は聞く。意思があるのであれば、それに越した事はない。


 万が一反旗をひるがえした時は斬れば良いだけだからな。完全にこちらの関係者である以上、そしてドロウとの密接した交流関係がある以上、口封じも後片付けも容易。裏切ったなら消す。それだけだ。


「剣国にも、これと同じ用意をしてもらうつもりで居ます。あちらにこちら以上の縁者が居ればそちらを優先する事を、この場の皆様には飲んで頂きたい」


 全議員が頷いた。立候補した時点で、多少の援護となるはず。下手な抵抗をして印象を悪くしても損なだけ。


「剣国との折衝せっしょうをまとめ上げたなら、その完成リストを持ってドロウ殿との交渉に望みます。これは場合によっては、剣国側の代表も立ち会う事となるでしょう。その席での決定は、おれが担当します」


 全権大使オウザの面目躍如めんもくやくじょだ。


 後は、この中には載っていないながらも、こちら側から押し出せる人員のリストアップと、その者達と交代させるべき一般人の順位決め。当たり前の話だが、民間人に向かっていきなり政治家をやれ、と言って納得するかどうかは五分五分。いかに国命であろうと、無理強いは出来ない。


 大義名分なしのそれは、律王の威信を損ないかねない。王によって成り立っている律国にとっては、致命的。


 計4回の議論。そして剣国への訪問が再来月さらいげつ


 勇国が魔国を飲み込む前に、片を付ける。

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