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使い魔

 影が大きく盛り上がり、何かの形を形成していく。

胴、ナイフのような爪。そして顔。以前彼が作り出した影たちにどこかが似ている気がしたが、完全な形を作った時の姿はまったくの別物だった。

 全身が艶のある高貴な短毛で覆われている。すらりと伸びた四本足に尻から伸びる長い尾。頭にピョコンと飛び出した耳……

 あのおぞましい影からは想像もつかない様な獣がそこには居た。

「見ようによっては………猫ね。………子猫では無いけれど、大きな黒豹みたい……」

 意外に美しい使い魔を作り出したのでベアトリーチェは驚きを隠せないでいた。

 使い魔はチーターのようにしなやかな身体を大きく伸ばすと身体を震わせ呻いていた。

 メキメキ……使い魔から枝を踏みしめるような音が響く。

 背中、肩甲骨の部分がやけに膨らみ、動いている。

[オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!]

 遠吠えのような鳴き声をあげると勢いよくその背中の皮膚が裂け、二枚の大きな蝙蝠の翼が広がった。よく見るとその翼にもビロードのような短い皮毛が生えている。

「す…凄いわ! ここまでステキな使い魔は期待してなかったのに」

 立派な翼を二、三回震わせると大きな漆黒のチーターらしき使い魔はのそのそと暖炉の前に行き、身体を丸めた。

「本当に……」

 夫の顔をその胸に抱きしめながらベアトリーチェはまるで子供に聞かせる様にガドリールが好む唄を口ずさんだ。

 人離れした外見と未知の言語、巨大な力。

 しかし、永遠に癒えない飢えを抱きながらもガドリールは彼女の前では理性があるように見えた。それは彼が魔道神として生まれ変わったあの日よりも洗練されて来ている。

 人間が回りに居なければ彼は多少自分を抑える術も身に着けているし、ベアトリーチェの言葉ならば普通に理解し、普通にその要求にも応え始めている。

 いくら人間であった頃の心の一部を残しているとは言え、彼女と二人の時のガドリールの姿は、何回か聞いた事のある『リュイーヌ・デュー』とはかけ離れていた。……言い方を変えるのならば、人間くさいのである。

(イタ………)

 身体をピクリと震わせながらベアトリーチェは口から漏れそうになった言葉を飲み込んだ。

 やはり食事をした今のガドリールも無意識のうちに牙を付きたてて来る。その牙の突き立て方で、ここ数週間で彼にしか知りえない好みも分かってしまった。

 ………彼の好みの部位は柔らかな胸と内臓の詰まった腹らしい………

(今は自分を(たも)てているけど…やっぱり人間じゃないとダメなのね……)

 飢えが極みを迎えたら間違いなく彼は抑えられない……それはいつしか確信に変わっていた。


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