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思考の変化

 一ヵ月半ぶりの生きたランチを堪能(たんのう)する夫の姿を見つめつつ、獣の血で全身を濡らした彼女は安堵(あんど)の表情を浮かべた。

「人間ではなくても大丈夫?」

 あっという間に獣を平らげたガドリールを見ながらベアトリーチェは呟いた。

 首から胸元にかけてを真っ赤にした魔道神は妻を振り向き、頭を揺らした。……多少の飢えは満たせるが、その無数の瞳はやはりどこか不満そうだ。

「…駄目? …やっぱり人間が好きなのね…」

 ある程度予測していた結果に顔を曇らせるベアトリーチェの元に、魔道神は瞬間転移(ワープ)すると美しい顔を覗き込んだ。

「そうね。あなたは人間の生暖かい肉と平行して彼らの悲鳴が好きなのよね…獣の悲鳴は…みんな同じだもの」

 しばらく考えていると不意に彼女は「やだ」と呟いた。

「獣の悲鳴が同じって………あまりいい言葉じゃないわね。私、あなたに似てきちゃったわ」

 身体にピタリと吸い付くような薄い絹地のドレスと、白い肌を血液で濡らした妻の姿を食い入るように見つめながらガドリールは息を荒くしていた。

 その顔に両手で触れながらベアトリーチェは微かな笑顔を向ける。

「そんなに興奮するほど魅力的に見える?」

 獲物の血と唾液が(したた)る舌がねっとりと顔を這う。

 飢えの兆しが見られるようになってから彼はその満たされぬ食欲を(おぎな)う為に、やたらに癒しを求めて来る。そしてその頭を胸に抱いていると時折彼女の肌に牙を突き立てて来た。

 もちろん甘噛み程度で皮膚を貫くような力はかけて来ない……しかし、昨夜は違かった。

 いつものように身体を横たえながら子守唄を謳っていると急に腕に激痛が走った。

 そのあまりの痛みに思わず口ずさむ歌が中断された程だ。見ると腕から彼の牙の並びと同じ形の深い傷口から真っ赤な血が吹き出していたのだ。

 昨夜の事を頭に描きながらもベアトリーチェは彼の頭を片腕で優しく引き寄せた。身体にこびり付く血液を長い舌が舐め取り続け、それが右腕に掛かった時…がドリールは動きを止めた。彼女の片腕を取り、無数の瞳がじっとそれを見つめている。

「大丈夫よ。ほら…もう治ったわ……跡もないでしょ? 心配しないで」

 腕を自分の目の前に出し、ニッコリと微笑み、彼女はスッと立ち上がった。

「私は血塗(ちまみ)れは嫌。身体を綺麗に洗い流させて。続きはその後………あなたにお願いしたい事もあるし」

《………………………》

 その言葉にガドリールは彼女の体を片腕で抱きかかえると漆黒の影の中に姿を消した。


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