変化
いつものように家の呼び鈴がなり、ジョルジュは穏やかにその客を迎えた。
「いらっしゃいベアトリーチェ」
彼女は軽く微笑みながら頭を下げる。ベアトリーチェが再びここに訪れ始めたのはアカトリエルから彼女の事を打ち明けられ、一週間が経過した頃からだ。
三週間前のベアトリーチェは今までとはまったく違った雰囲気を醸し出していた…。
以前ウェルギリウスの前で見せた脆さが全く無くなっていたのだ。時折、弾みでチラリと出てしまう話………あれ程忌み嫌っていた転生の法則とやらの会話の前でもその姿は凛として変わることが無い。
『計算でも構わないわ…それでも人であった頃からずっと引き継がれ続けている彼の気持ちは本物だから……』
その会話に関しての彼女の返事がそれだった。
「ベアトリーチェ…今夜はあなたのためにケーキを焼いたのだけれど」
ジョルジュも相変わらずだが、息子の会話はずっと閉ざしたままだった。
「………あの、私………お気持ちだけは感謝いたします」
「え?」
ベアトリーチェが今までジョルジュの好意を付き撥ねたことはなかった。
「野苺のケーキ…嫌いだった?」
「いいえ。そんな事はありません……だけど……私は貴女に甘えすぎ…」
「何を言っているの? 私の楽しみであるのだから…遠慮しないで…」
ベアトリーチェは再び首を振る。
「ウェルギリウス様は…お部屋ですか?」
「え? …ええ…いつも通りあなたの魔道書を整理しているけど…どうしたの? 気分でも悪い?」
すると彼女は微笑みながらそのケーキに目を落とした。
「彼が食べられれば…食べさせてあげたい………」
小さく呟くとベアトリーチェは奥のウェルギリウスへの書斎に足を運んだ。後ろからジョルジュの声が響く。
「それでは…紅茶を淹れるわね」
彼女は一度振り向きながら微笑を浮かべた顔で頷いた。