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苦悩

 彼女が一瞬気を削いだ瞬間、一人の男がその細い腕に飛びつき、杖を遠くに投げ捨てた。

「!!!」

 それを合図に無数の男達が彼女の両腕と両足首を羽交い絞めにする。

「放して!!! ここから離れないと……」

(アカトリエルが近付いている。今はまだ彼には会えない)

 心の中でそう続けていた。

「どけ! 俺が先だ!!」

 リーダー格の男は彼女の上に馬乗りになると赤いフードを剝いだ。

「っおい…何だこいつ…目の中に何か入れてんのか?」

 赤く光る瞳を見て一瞬男の手が止まる。

「どいて!! 彼が来る!!! …もし仮にも私があなた達の言う双剣徒の女ならば早く逃げた方がいいわ! 殺されるわよ!!!」

 気丈なベアトリーチェの姿にリーダー格の男が「はっ」と笑い飛ばした。

「好きなだけ吼えてろよ。両手両足を男に抑えられてんだぞ? 俺たちを逆なでする前に優しくしてって哀願でもしろよ」

「あなたは大馬鹿者だわ!!」

 不意にリーダー格の男の後ろから悲鳴が上がった。

 反射的に振り向くと腕を切り落とされ(うずくま)る仲間の横に一人の大男が立っていた。

 闇でも映える白いマント…銀の剣に胸の短剣…その姿にベアトリーチェは絶望の顔を向ける。

「あなたは…きっと死ぬ」

 彼女の哀れみにも似た言葉にリーダー格の男は眉を吊り上げる。

「あなたが言っていたアカトリエルよ……せっかく()けていたのに…あなたのせいよ」

 大地に押さえつけられる思い人…その上に(またが)る男の手が彼女の胸元に掛かっているのを見つけると白いローブの男は何も言わずに傭兵達の中へ飛び込んでいった。

 彼を止めようと立ちはだかる男達から真っ赤な鮮血が飛び散り、たちまち数人の傭兵の身体が崩れ落ちる。

「なんだっっっ!!!」

 フードから覗く、ゾッとするような冷たい瞳は真っ直ぐにベアトリーチェの上に馬乗りになる男に向けられていた。

「何やってる!! お前ら殺せ!!! 相手は一人だぞ!!!」

 尋常ではない双剣徒の姿にリーダー格の男は彼女を押さえつけている四人を怒鳴りつけると腰を低くし剣を構えた。

 リーダーに促された血気盛んな男達は勢いも手伝い、それぞれの武器を手に走り向かってくる一人の男の元に飛び込んで行く。

 右手で操る銀の長剣が空を切りながら回転し、浴びせられる刃を弾いて行く。それと同時に吹き出す仲間の血…… 

 あっという間にリーダー格の男を射程圏内に捕らえたアカトリエルの剣が相手の防御する剣に触れた。

 大きな剣戟音が静かな森に木霊した。

「なっ……………」

 受け止めた刃の重い衝撃に男が体制を崩したとほぼ同時に……その首は胴から離れ、宙を舞っていた。

 剣を汚した血液を振り払い、鞘に刃を収めたと同時に最後の首が大地に転がる。

「………………」

 十体の傭兵の遺体が転がる中に、何事も無かったかのようなアカトリエルは立ち尽くしていた。そして、その瞳がベアトリーチェに向けられた時…彼女は反射的に地面に(ほう)られた杖に手を差し伸べていた。

 だが…杖に手が届くといった所で、それは別の人物に取り上げられていた。思わず上を見上げた彼女の前にはあの双剣徒の姿があった。

「……アカ…トリエル………」

 彼は無言のままベアトリーチェを見つめると取り上げた杖を遥か後方に投げ捨てた。

「ずっと……待っていた……」

「言ったでしょ…私は…あなたの思いには応える事が出来ないって………」

「奴のように全てを捨てればその資格を得られるのか?」

 奴とはガドリールの事だろう…

「そういう問題じゃないわ」

 その言葉に彼は彼女の腕を掴み、その身体を引き起こした。

「それでは私はどうすればいい!!!!」

「!!!」

 悲痛の叫びを上げるアカトリエルにベアトリーチェは言葉を失った。

 既に彼が壊れ始めている。

 脱げたフードの下の顔が限界を迎えつつある事を物語っていた。人間であった頃のガドリールと彼の顔が重なる。


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