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許されざる告白

「アカトリエル様……何をおっしゃっているのです」

 部屋に呼ばれたクロノスは机の上に置かれていたアカトリエルの長剣を見て愕然(がくぜん)とした。

「双剣徒長にお前を任命する」

 無機質な言葉に彼は声を荒げた。

「双剣徒長など……今のあなたにしか勤められぬものです!! どうなさったのですか!!!」

「私にはもはやその資格はない」

 淡々と続くアカトリエルの声には覇気が無く常に窓の外を見つめていた。

 広い窓の外からは、自然の力によって一万の年月を守護され続けたエテルニテが見渡せる。

 東西南北を囲む切り立った山々がこの百万の民達に富を(もたら)し続けた。そして、その山々の中の一角に…あの魔城が(そび)え立っている。ここからでも小さくその姿が(うかが)える巨大な城………そしてその城の中に彼の心を激しく掻き乱す美しい女が居る。

 恋し焦がれ続けた女神と全く同じ姿を持ったベアトリーチェが………

 彼女は今何をしているのだろうか、あの魔道神の腕に抱かれながら耳元で愛を囁いているのだろうか……

 アカトリエルは唇を噛み締めた。

「私は…もう女神のためには働けぬ…」

「言っている意味が分かりません!!!」

 月明かりに照らされた男の顔が頼りなげにクロノスを振り向いた。

「ベアトリーチェ・レーニュの事しか考えられぬのだ」

 アカトリエルの視線が女神像に移った。その視線を追いクロノスも部屋に鎮座する女神像を見つめる。

「? ……それは何ですか?」

 像の首に包帯のように縛られる布に目を止め、それを見つめ続ける師に違和感を覚えた彼は像の首に手を伸ばした。

 結び目を解き、何十にも巻かれる布を全てはぎ終わる前に……女神の頭が床に転がる。

「なっ…………」

 勢いでしばらく床を転がり続ける首を見つめながらクロノスは言葉を失った。

「…私がやった」

 人形のような声にクロノスは恐怖の眼差しを向けた。

「だが、何とも思わぬ…所詮は人の手で創られた彫像だ。堅く、冷たく、血も流さない」

「………………」

 冷たく言い放つ彼をしばらく見つめるとクロノスは女神の頭をそっと手に取り、布に(くる)みながら祈る恰好をした。

「女神と同じ姿を持つベアトリーチェ・レーニュに混乱しているだけです」

「そうではないっ!!! 私はっ!!!!」

 叫ぶアカトリエルの前にクロノスは机に置かれた(おさ)の長剣を差し出した。

今宵(こよい)の話は聞かなかった事にします。あなたは少し休まれた方がいい」

 冷静にそう(ささや)くと布に包まれた首を大切そうに抱えながら彼はアカトリエルの部屋を後にした。


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