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崩れた信仰

 エテルニテの街が夕日に染まる頃、ミサを終えたクラージュは聖堂の蝋燭(ろうそく)を一通り変え終わると人っ子一人居なくなった静かな教会の中で女神像に祈りを捧げていた。

 (ひざまず)きザグンザキエルの冥福を祈っていると後ろから低い男の声に呼び止められる。

 いつの間に居たのか教会の片隅に真っ白なローブを羽織った男が(たたず)んでいた。

「アカトリエル様」

「クラージュ司祭……話がある」

 その言葉にクラージュが目を丸める。

「話?」

 軽く頷くとアカトリエルはゆっくりと女神像の前に歩み出た。

「ヴェント・エグリーズからお前の言伝を聞いた。ザグンザキエル教皇の埋葬式の祭司(さいし)を任された事がそんなに不服か?」

「そんなっ…不服なんて…そんな事はありません…ただ……私はまだ相応(ふさわ)しくありません」

 自分より遥かに修行を積んだ司祭はこのエテルニテに山ほど居る。

 それに教皇の死因を作ってしまったのは他でも無い…自分だ。

 本来なら教会から追放されてもおかしくない立場にも関わらずに、あれ程神聖な儀式を任されては心が痛む。

相応(ふさわ)しいか相応(ふさわ)しくないかはお前が決める事ではあるまい……人々から不満の声があがったか?」

「それは………」

「ならばよかろう…お前は役を(まっと)うした。お前はまだ若いが、信仰心は厚い…もう少し時が経てば十分に教会を任せられる」

 アカトリエルの言葉にクラージュは顔を上げた。何故か彼の言葉には引っかかるものがある。

「任せられるって…あなたがいらっしゃるじゃないですか……」

 司祭の顔をしばらく見つめるとアカトリエルは首を振りながら軽く笑った。

「……………私の信仰は……………」

「どうされました?」

 数秒口を(つぐ)むと彼は一度女神像を見上げ、真剣な面持ちでクラージュを見据えた。

「……クラージュ司祭……ベアトリーチェ・レーニュをどう思っている」

「え?」

「ベアトリーチェ・レーニュとエテルニテの民……どちらか一方を選べと言ったら…どちらを選ぶ」

「アカトリエル様? 何をおっしゃっていらっしゃるのですか…彼女と人々を天秤にかけるなど…………」

「……選べぬか?」

「…………………」

 無言の彼を見つめるとアカトリエルは「それでいい」と小さく呟いた。

「迷っているのなら…それでいい…」

「アカトリエル様?」

「私は迷う事も出来ない…」

 次の言葉にクラージュは絶句した。

「今の私は…恐らく…躊躇(ためら)わずに民を見捨てる」

「あなた…何をおっしゃってるか分かって………」

「分かっている。許しを()うつもりもない…私の信仰は…完全に崩れた。近い内にこの立場からも降りるつもりだ」

 そう伝えるとアカトリエルは、エンブレムの中から取り出した、あの小さな紙をクラージュの手に握らせた。

「ザグンザキエル教皇からの遺言(ゆいごん)だ………」

 白いフードを深く被ると背の高い双剣徒は女神像に軽く一礼をし立ち去った。

 手の中に眠る女神の紋章の入った小さな紙…クラージュはそれを開くと言葉を失い、ただ呆然と女神像を見上げていた。


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