神学者護衛僧
中は以外にも岩山を彫って造られた建造物だとは思えないほどにしっかりとした造りになっていた。
壁に均等に備えられた炎が照らす長い廊下には女神の彫刻の施された柱が延々と続き、床にはレンガまで敷き詰められている。言い方を変えれば、少し厳つい神殿と言った感じだ。
「何か教会の中みたいね…」
「そうだね。騎士って肩書きを持つ人たちだけど…一応聖職者の方々だから…」
「女神の逆ハーレムってやつだよな。アカトリエルさんもクロノスさんも、さっきのタナトスって人も、揃いも揃ってよくもまあ、あんなに外見上ランクの人たちが揃ったもんだ」
そこまで言ってヴェントの頭に一人の人物が浮かんだ。剝げ頭のヨエルだ。
「あ……一応女神の旦那だったけどあの人はそうでもねぇか…つってもアカトリエルさんに強制的に女神と離婚させられちまったけどな。あの人今何やってんだろうな」
「? …ヴェント、何言ってるの?」
「いやいや何でもねぇ。ちょっと可哀相な人の事を考えてた……」
ははは…と軽く笑うとヴェントの視線が廊下の先から歩いてくる若い男達を捉えた。
コンデュイールと同じような白く短いローブを着込んだ少年に近い男達だ。胸にシンプルな短剣を備えているが布を巻きつけただけの腰の帯には長剣も差されていない。
ヴェントの視線を感じてか、一人の少年が笑顔で片手を上げて来た。
「コンデュイール、彼らが客人か?」
友人のようにコンデュイールに声を掛けて来た少年の顔はヴェント達がよく知る双剣徒とは程遠い。
「うん、ヴェントとオランジュだよ」
「一緒に魔神と戦ったっていう友達か」
「女の子だ。久しぶりに見たな」
二人の少年は愛想よく二人に挨拶をすると「それじゃ」と言って廊下の奥に何事も無かったかのように談笑しながら歩いて行った。
「あれ誰? すごく愛想がいいけど…双剣徒よね」
「にしては軽装じゃねぇか? 短剣は付けてるけど…ほらアカトリエルさんとかみたいな黒い皮製のネックアーマーとか篭手とか付けてねぇじゃん」
「彼らは僕と同じ見習いだよ。ここは双剣徒たちを育成する場所でもあるからね。双剣徒候補は神学校の修行を終了して神学者護衛僧っていう特殊な過程を終えた子達の中から内密にスカウトされるらしいんだ。……十五歳で女神と婚姻の儀式を終えるとここで修行するんだってさ」
「あのお城に行った人たちが全部じゃなかったの?」
「魔城に行ったのは双剣徒の中でも班長クラスの腕の立つ人たちばかりらしい。半数以上は亡くなってしまわれたけど……」
「みんな偉い人たちだったのか? マジかよ」
よく考えればそんな人たちの目の前でヴェントはかなり失礼な事をずばずばと言ってきた。それこそ下手をすれば切り捨てられるような事を………
「知らぬが仏ってこういう事だな」
「そうだよね。僕だってさそんな事知らなかったから。…その人たちの上に立つアカトリエル様とクロノス様にはとんでもなく失礼な事を言っていたよ」
「特にオランジュがな…………」
コンデュイールの言葉にヴェントはそ知らぬ顔の少女をチラリと見下ろした。