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心の箍

 魔法を使うのも忘れベアトリーチェは暗い夜道を無我夢中で走っていた。

 ウェルギリウスの言葉は信じたくない。

 この心が計算し尽くされ、神の手の中で踊っていたなんて…あまりに酷すぎる。

 枯葉で埋まる大地を踏みしめる音が木霊する中不意に凄まじい力で腕を引かれ彼女は後ろを振り向いた。

 後方に自分の腕を掴む修道士の姿がある。

「アカトリエル?」

「………っ………」

 何も考えずにとってしまった腕にアカトリエルは困惑するものの、月明かりの元に浮かび上がった美しい女を前に、彼は思わず手首を掴む手に力を込めた。

 彼女の頬は………涙で濡れていた。

 五年前教会で見た少女が再び泣いている。

「………待て………どうした? 一体ウェルギリウス殿と何があった」

「何も無いわ。嫌な事を言われただけ………」

 はやる心を抑えながらやっと出した言葉にベアトリーチェが呟いた。

「嫌な?」

「そうよ!! とっても嫌な事!!! あんなの(ひど)いわ!!!!」

 泣き叫ぶその姿が再び五年前と被る。

 後悔してもし切れないあの姿。

 胸に携える短剣を握り締めアカトリエルは唇を噛む。

 短剣の下に眠る心の何かが外れるような気がした。

「?」

 不意にベアトリーチェは言葉を詰まらせた。

 身体の自由が利かない……気付いた時彼女の細い体はその広い胸に抱きすくめられていた。

「? ……何? ……な……」

 暖かく逞しい身体の中から心臓の鼓動が聞こえる。

 人であったガドリールと同じ身長、背に回された腕が痛いほどに締め付けて来る。

「あなた……アカトリエル…? 何? 慰めてくれているの?」

「………違う……だが、こうせずにはいられなかった…」

「女神に怒られてしまうのではなくて?」

 このままではいけないような気がして必死で離れようとするも、彼の腕はしっかりとその身体を縛り付け離そうとはしない。

 どうしようかと戸惑いながらもベアトリーチェは胸の中で逃れる(すべ)を探していた。

「女神の夫でしょ? …私は女神ではないし…ガドリールが………私、困るわ……」

「構わん…私はベアトリーチェ・レーニュ、お前で十分だ………」

 幼い頃から女神に焦がれ続けた自身の声がアカトリエルの脳裏に響く。

 生身の女ならばどれ程良かったか………と


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