母と子
四人で食事を終えた後ウェルギリウスはベアトリーチェを書斎に連れ、扉を頑なに閉めた。
あまりアカトリエルとは一緒に置いておきたくは無かったからだ。
彼女がガドリールの魔道書の解読と講義に夢中だった事がせめてもの救いだった。
二人が篭った部屋を眺めるアカトリエルの前に暖かなハーブティーが差し出され、彼は初めて扉から目を外し隣の母を振り向いた。
「ダンテ飲みなさい…心が落ち着くわよ」
「シスタージョルジュ」
「またシスター? お母さんって呼んで欲しいわ」
いつもならここで「出家をしてしまっている身だ」と反論されるが今回はそれを否定はしなかった。
「いつもの台詞がないのね」
「……出家など私が言える立場では……」
カップを一口運ぶ息子を向かいの席で見つめながら彼女は三十年ぶりに造ったクッキーをポリッと噛み砕いた。
「…………あの娘さんが好きなの?」
「!!!」
唐突に言われアカトリエルの手が止まった。
「私は…………」
「いいのよ。あなたは私の息子なんだから隠す必要ないわ」
「この年になって…二十近くも歳の離れた娘に…愚かな事です」
「愚かなんて…年なんて関係ないわ。素敵な事じゃない」
「それでも! 私ではどんなに足掻いても手に入れられない物です!!!」
「ダンテ…………」
「頭で分かっていても心がそれを受け入れない……」
困惑している息子をしばらく見つめるとジョルジュはその小さな体でそっと彼の頭を抱きしめた。