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埋葬式

「お前もう少しまともな言い訳考えろよな」

 家から少し離れた所でマントを羽織い、馬車に乗り込むと彼は深い溜息を付いた。

「だってぇ………」

「親方って確か三十七歳だよな。アカトリエルさんと同じぐらいだろ? どうしてああも違うかね」

「う~ん…父さんは嫌いじゃないけど…アカトリエルさんみたいなパパなら自慢できるよねぇ。カッコいいし……お爺ちゃんもダンディだし…」

「俺はご免だぜ。あの人らに囲まれたらストレスで死んじまう」

「そうかな………」

「そうだよ」

 市場で賑わう馬車の外を眺めながらヴェントは再び溜息を付いた。

 想定外の事が起こって朝早く家を出てきてしまったが、待ち合わせは夜の七時だ。まだ十二時間以上ある。

 教会本部までの片道時間を入れても九時間暇を潰さなくてはならない。

「何するかなぁ………」

「取り合えずクラージュ司祭の所行こうよ。食べられなかった教会食が食べられるかも」

 その言葉にヴェントは首を(すく)めた。



「おや? ヴェントさん。ずい分お早いですね…予定では…」

「ちょっと色々あってな……」

 献花台の花を片付ける神学者たちを指導しながら、大聖堂に入ってきた二人にクラージュは目を丸くした。

「? クラージュ司祭…なんでお花片付けちゃうの?」

 大きな荷物を抱えながら、オランジュが次々と取り払われていく花をまじまじと見つめた。

「ええ。今日、埋葬式が午後から開かれるんです。その為の準備を……」

「埋葬って…だってあの柩には教皇は……」

「…ええ、でも民たちは埋葬が既に行われている事を知りませんから………」

「空の柩を土に埋めるのかよ」

「……教皇は土葬とは少し違いますからね…」

「燃やしちゃうの?」

 オランジュの言葉にクラージュは「いいえ」と首を横に振った。

「教皇様や教会有力者の方々の遺体はこの教会本部の敷地内にある墓地の地下に安置されています。ですから埋葬式も地下墓地に運び込まれるまでしか公開されません」

 教会本部の敷地内と言っても、そこはエテルニテ一の巨大墓地だ。

 女神の膝元としてエテルニテの功労者や信仰深い国民は皆そこに埋葬される。

 もちろん暴君ドミネイトの遺体もその一角に収められているが、そこに訪れる者は誰一人として居ない。

「そんじゃアレか? 埋葬の体裁を民衆の前でして…後で空の柩を引き出すのか?」

「ええ。そう言う事になりますね」

「はぁ~全く大変だね。お前も…………」

「ヴェントさんたちもご予定が無ければ埋葬式に参加なさいませんか? 教皇様の弔いになります」

 その言葉にヴェントは「いや」と答えた。

「俺はそういうの苦手なんだよな。ワリィけど別の所で冥福を祈っとくよ」

「ねぇクラージュ司祭! 私、朝から何も食べてないの。教会食食べたいな」

 ヒョイっとヴェントの影から顔を出し、目を輝かせながらオランジュは両手の平を胸の前で組んで司祭を見つめた。

「…そうなんですか。それでは、あと三十分程で配給が始まりますから、よろしければどうぞ」

 苦虫を噛み潰したような顔を向けヴェントは肩を落とした。


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