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エテルニテ -終焉の魔道神と癒しの魔女-  作者: 黒埜騎士
第9章 新たな道と使命
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抱き始めた幼い恋

 あれはまだ自分の気持ちに気付く事の無かった十七歳の時………

 ベアトリーチェは珍しくガドリールに案内されて城の一階にある大きな部屋に連れて行かれた事がある。

 まだ城の構造を理解しておらず、徘徊する異形の従者たちにも怯えていた頃。

 後方を気遣うでもなく、ひたすらに無言で歩調を進める二メートル以上の黒魔道師を小走りで追ったのを覚えている。

 開け放たれた大きな扉の向こうには朽ちた礼拝堂があった。

 エテルニテの教会本部のような立派な聖堂が埃に(まみ)れていた。

 彼は何も言わずに彼女を宙二階に案内すると布が被された大きなものの前で止まり、手に持っていた一冊の魔道書を手渡すと、その布を勢いよく()いだ。

 埃が雪のように舞う中でベアトリーチェは思わず目を輝かせた。

 布の下にあった巨大な物は今まで見たことが無い程美しい大きなパイプオルガンだったのだ。

 ガドリールはベアトリーチェに魔道書の最後のページを開くようにだけを言いつけると自らその荘厳な楽器の前に腰を下した。

 開いた本は魔道書ではなく、覚えたてのデザスポワールの言葉が歌詞として書かれた譜面だった。

 しばらく娯楽というものに触れていなかったベアトリーチェが興味を示した始めての本だ。

「違う。最後のページだ」

 目を輝かせながら色々なページを見つめていた彼女は黒魔道師に叱られ慌てて最後のページを開いた。

「読めるな。その本はお前にやる……だからこの歌を確実に覚えられるようにしろ」

 きっとこの歌が好きなんだとその時は思っていただけだった。

 するとガドリールは白く細長い指で鍵盤を爪弾き、美しい音色を奏で始めた。

 天に向かって聳え立つパイプが発する音は城中に広がり、いつしか目の前の演奏する男の姿から目を離せなくなっていた。

 思えば恐怖の対象であった黒魔道師に恋心を抱き始めたのもその頃だったような気がする。

 その曲を弾いているときの彼はとても穏やかで元々端正な顔立ちだったその横顔に胸が熱くなった。


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