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エテルニテ -終焉の魔道神と癒しの魔女-  作者: 黒埜騎士
第9章 新たな道と使命
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戸惑い

「どうしたんだろうアカトリエルさん。ぼーっとするなんてアカトリエルさんらしくないわよね」

「………だな。何か考え事でもあるんじゃねぇか? 偉い人ってのは悩みが尽きねぇもんだ」

「そっかぁ。それじゃ私は偉くならなくていいや」

 うんっと大きく頷いたオランジュの腹が不意に大きく鳴った。

「お前、腹で返事しなくてもいいんだぜ?」

「うるさいなぁ! お腹が空いたのよ!!!」

 ほぼそれと同時に鎮魂のミサの終了を告げる教会の鐘が大きく鳴り響く。

「おや、もう正午ですか。どうです? 教会でお食事でも召し上がって行きますか? そろそろ修道士達も来るでしょうし……」

 その言葉にヴェントが顔を引きつらせた。

 投獄されている間に何度も教会仕様の食事を口にしたが、あまり美味しいものではなかったのを思い出す。

 しかし、そんな事はいざ知らず、オランジュはがぜん乗り気になって片手を上げた。

「本当?! 私教会食って食べた事ないの!!」

「いやいやっ!! いいや。俺達は外で食ってからそのまま帰るし」

 有無も言わさずの断わりの言葉にオランジュが口を尖らせる。

「何で? 何でよぉ!! 私、教会で食べて行くぅ!!!」

「お前、教会の食事ってな、ある意味拷問だぞ。それに門限四時だろ? 今から喰って帰ってギリギリの時間だぞ」

 声を潜めながら耳打ちされオランジュは仕方無しに頷いた。

 確かにここに来るまでの時間を換算するとあまりゆっくりはしていられない。デグバッドがあれ以上口うるさくなってしまったらまさに軟禁状態だ。

「そうですか? それは残念です」

「また後でなクラージュ司祭。それとアカトリエルさんよ!」

クラージュのお誘いを早々に断わるとヴェントは一人、何かを考え込んでいるアカトリエルを呼んだ。

「…何だ」

「俺、ちょっとコンデルに会いてぇんだけど…どうすれば会えるよ」

「コンデュイール・レヴェゼは我々の本陣に泊まり込み、修行中だ。どうしても会いたいのならばお前が足を運ぶしかない」

「足運ぶったって……あんた達の本部の場所なんて知らねぇぞ。地図にも載ってねぇんだろ?」

 しばらく考えるとアカトリエルはマントの下から女神の紋章の刻まれた銀のコインを一枚取り出し、ヴェントに向かって投げた。

「何だこれ………」

「我らの通行手形だ。明日の夜七時、それを持ってこの教会に来るがいい。部下を迎えに来させる」

「通行手形って…そう簡単に手渡しちまっていいのかよ」

「お前ならば特例が利くだろう。部下達も知っているしな……何よりも共に戦った仲間には変わりない」

 そう言われヴェント恥ずかしげに頭を掻いた。双剣徒たちにそう呼ばれると悪い気はしない。

「ねえ! 私は? 私も行くぅ!!」

「構わんが、我々の本陣は騎士以外の者を招き入れる時は夜しか開かぬ。あまり道を知られるわけにはいかないからな。明日はもとより、翌日の夜にしか帰す事も出来ぬ」

「大丈夫大丈夫! 父さんには今日の夜から説得に入るわ!!」

「お前大丈夫かよ」

「絶対説得してやるもん!」

 両手で拳を作り、オランジュは力強く頷いた。

「説得できればいいけどな」

 そう呟くとヴェントはアカトリエルとクラージュに「それじゃ明日」と手を振ると少女の腕を引きながら帰っていった。


「アカトリエル様はどうなさいますか? あなたがいらっしゃれば他の司祭や修道士の方々も喜ばれると思いますが……」

「………私も結構だ。この(なり)ではかえって失礼に当たろう………大聖堂の女神像と教皇に拝礼してから戻る」

「………?………」

 何気に放たれたアカトリエルの言葉にどこか違和感を覚える。クラージュは程なくその違和感に気付くと、ヴェント達に次いで廊下を歩む彼の背を見えなくなるまで呆然と見つめ続けた。

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