数日目の再会
石畳で舗装された道を走る馬車に身をゆら付かせ、窓から入って来る風を浴びながらしばらく進むと不意にオランジュが声を上げた。
「ヴェント!! ヴェントあれ!!」
「何だよ……」
窓から外を指差しながらオランジュにぱしぱしと肩を叩かれ彼は仕方なしに外を緩やかに流れる街の景色に目を移した。
人々が横行する大通りの向こうに一際目立った男が歩いている。
「おっ!!!」
「降ります降りまーす!!!」
ヴェントが言うより先にオランジュが片手を上げた。
「早く! 早くヴェント!! 足長いから見失っちゃう」
「足長いって……何だよその言い回し」
オランジュに急かされながらもヴェントは二人分の運賃を支払った。
「早くっ!! は~や~く~!!!」
支払いを済ませたヴェントの手を取り、オランジュが行きかう人々の間を縫いながら小走りに走り出す。
「おい…おいって…お前……うわっ! すいません」
迷惑そうな顔を向ける通行人に代わりに頭を下げながらその人物を追う。
「待って!! 待ってよ!! アカトリエルさんでしょ~!!」
他の人間よりも頭二個分ほど背の高い男の背に向かって叫ぶと同時にオランジュは振り向いた彼の身体にしがみ付いた。
「!!」
「あ~! やっぱりアカトリエルさんだ~!!!」
「オランジュ……それにヴェント・エグリーズか?」
茶色の厚いマントに丈の短いローブ。そしてブーツ……フードを被った姿は同じだが、あの真っ白な修道士の恰好はしていない。
「よく私が分かったな」
「そりゃ分かるだろ。あんたこの国の人間の中に居たら巨人だぜ。目立たないカッコしてても目立っちまう」
「アカトリエルさん。いつもの洋服は?」
「さすがに街中では着れまい。双剣徒という存在はあまり公にするものではないしな」
「今日は双剣徒お休みなの?」
「休暇というものは無い……私はこれを受け取りに来ただけだ」
長いマントを軽く捲ると隠されていた右手には白い長剣が持たれていた。
「それ、あんた達のシンボルの一つじゃねぇか」
「長きに渡って受け継がれてきた長の剣を再び鍛え直してもらったのだ」
「そう言えば悪い神様に噛み砕かれちゃったわよね」
「へぇ~ここら辺にあんた達の剣を作ってる鍛冶屋があんのか?」
「鍛冶屋………ではないな。我々の剣はいわゆる神具だからな……教会の修練者だ。今年で齢85を迎える方だよ」
ふ~んと唸りながらもヴェントはマントの下からのぞく短剣を意味深に見つめた。白いローブを羽織ってはいないが、その胸にはあの短剣が同じく鎖に繋がれ携わっている。
「そんな恰好でもそれ付けんのな………」
「これは外さんよ。それが掟だ」
そう言うとアカトリエルはマントを整えた。
「これから帰るの?」
「いや、教会本部に寄って行く。鍛え直された剣に最後の仕上げをしなくてはならない」
「それじゃ私も行く~!!」
「お前行くって…俺は行かねぇぞ。南自警団本部ってまだ先なんだからな!」
「何でよぉ!! 大丈夫よ。コンデルは逃げないから」
アカトリエルのマントの端を軽くつまみながらオランジュが口を尖らせた。
「コンデュイール・レヴェゼならば我々の本陣に居るが?」
その言葉にオランジュとヴェントは目を丸くした。