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世界の存亡を掛けて

 清清しい風と鳥の(さえず)り……既に日は空高く昇っていた。

 今まで激戦を繰り広げていた魔城を遥か後方に望みながら生き残った面々は歩いていた。

 元居た人数の半分以上が死亡し、完全に無傷な者はオランジュとクラージュの二人しか居ない。

 中でもウェルギリウスとクロノスは重症だった。

 アカトリエルも決して無事とはいえないが、女神の騎士達を指揮する側としての責任からか、何とか一人でしっかりと足を踏みしめている。


「………どうした。沈んでいるな……」

 自分の体を支えて歩く一人にウェルギリウスは声を掛けた。その言葉にクラージュは軽く首を振り、「いえ……」と答える。

「そうよ。せっかく生きて帰れるのに何でそんなに暗い顔をしているの? さっきのクラージュ司祭は男らしくてカッコ良かったわよ」

「………そんな事………あの時は何も考えずに飛び出していただけです…」

 どうやら未だにベアトリーチェの事が心に引っかかっているようだった。

「クラージュ司祭もそうだけど………」

 ヴェントが前を率先して歩く背の高い男の後姿に目を移した。

「ジィさんの息子も何かおかしくねぇか?」

「………………………」

 アカトリエルが何を考えているのかはウェルギリウスは(おおよそ)の所、理解していた。

 自分の身を(てい)して他を守る女神と全く同じ姿の魔女。恐らく自分が気を失っているうちに彼女と何らかの関わりを持ったのだろう……ウェルギリウスが目を覚ました時から彼は時折何かを考えていた。

 ベアトリーチェが一人でガドリールと戦っていると聞いた時もアカトリエルは何を考えるでもなくすぐに加勢に向かった。


「もう少し出会うのが早ければ良かったのだがな………」

 ウェルギリウスの言葉にヴェントとオランジュは首を傾げた。

「いや、それより早く戻ろう……私はもう疲れた……家でゆっくりと休養をとりたい」


 遠くの眼下にエテルニテの街が霞んで見える。完全なる封印とまでは行かなかったが……


 ウェルギリウスは胸に手を当てた。(ふところ)には部屋から持ち出して来たガドリールの書物の一つが入っている。

 この書物には人であった頃のガドリールが神としてのもう一人の自分を完全封印するための研究成果の一部が記されていた。


 一時あの天才の師として共に数年を過ごした身、魔道神の完全封印術を編み出せるのもガドリール自身しか居ないという事は分かっていたが、完成する前に弟子は己から魔道神を受け入れてしまった。


「もう少し時間があればお前は魔道神の封じ方を習得する事が出来たかもしれん……」

 遠ざかる魔城を見つめながらウェルギリウスは一人ガドリールに向けて小さく呟いた。

「この私の頭でお前の術を完成させる事が可能なのかは疑わしいが……恐らくこれが私の最後の大仕事なのだろう」


 魔道神の完全封印。それが今の世界の命運を握る大きな鍵だった。



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