人として最期の記憶
息が出来ない…声も出ない…生きたまま身を引き裂かれるような痛み……この感覚は覚えてる……二週間前の時と同じだ……一度死んだあの夜と同じ……ほら、目の前に彼が居て…………
変わり果てた愛しい男の姿が目の前にあった。
止め処なくあふれ出す深紅の血液が池のように彼女の周りに広がっていく。
焦点の定まらない瞳…激しく痙攣する身体…
ガドリールの時が止まっていた。これは今までで最も恐怖したもの……もう二度と、永遠に見たくない光景だった。
「ベアトリーチェ!!!」
駆け下りようとしたクラージュの腕をウェルギリウスの左腕が引きとめた。
「ウェルギリウス殿!! 一体これはどういう事ですか!!!」
アカトリエルの叫びも響く。
ガドリールは今力を使っていない…使っていないはずなのに彼の血を飲み込んだ首枷は唸りを上げ強い抑制力を働かせていた。
終焉の魔道神を抑制するための同等の力は、この細い魔女の身体では受け止めきれない。
《あ・あ・あ・あ・あ・………………》
ビクンビクンと痙攣し続ける身体を白い腕が抱き起こした。
二週間前もそうだった……苦しむ身体を全く同じ状況で抱きかかえて……………そして………
彼女は死んだ。