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炎瀑布

 不意にガドリールの下にあの漆黒の影が出現する。

(いかんっ!!!)

 肩を襲う激痛に耐えながらアカトリエルは駆け出した。振りかぶった剣が魔神の首に触れる寸前に姿が消え、切っ先が(むな)しく空を切る。

「!!!」


 魔道神が消えた…先ほどのベアトリーチェの時と同じ現象だ。


 嵐が過ぎ去った後のような静寂の中、シャンデリアを無数に照らす炎の音だけが響き渡っていた。

 喉元を通る唾の音さえも大きく感じる。

「何処から姿を現す………」

 ベアトリーチェにも緊張が走る。

 彼は自分の気配を完全に殺す術を持っている。魔女として授かった鋭い五感もまるで当てにならない………

 数秒の時間が一生のように感じられる中、突如ベアトリーチェの体内に宿る警告音が作動した。

「っ上!!!!」

 その声と共に場に居た全員の視線が高い天井に向けられた。

「!!!!!」

 アカトリエルの真上の天井から魔神の身体が生え、ダラリとぶら下がっていた。長い漆黒の髪とベールが不気味に揺れている。

 いつの間にか彼の周囲には天井いっぱいに不気味な文字が浮き出てきた。

 ガドリールを中心に唸りを上げる呪文………そこから湧き上がる激しい蒼炎。

「ガドリール!! やめてっ!!!」

 アカトリエルの遥か頭上の空中に直径二メートル程の魔方陣が現れる。そして……

 魔道神の不気味な叫びと共に天井を渦巻く業火が魔方陣に集結し、巨大な火柱となって渦中のアカトリエルに滝のように降りかかった。

【ジゥ・ディーゼ・ノ・ワレス・フォ・サンミール】

 反射的に滅びの国デザスポワールの呪文を唱えた瞬間、重い強烈な音と共に大量の炎の滝が剣を掲げる彼の前で分散した。

 見えない壁が炎を受け止め火の粉になって次々と消滅する。

《!!!??》

 ガドリールの無数の瞳が見開いた。


 手練(てだれ)とは言え相手は所詮人間の男。黒魔道師でも何でもない………それなのにベアトリーチェでも防ぐのがやっとだったあの術よりも強力な力を、白いローブの双剣徒は受け止めていた。それ所か粉砕された炎の渦は見えない壁に阻まれるやいなや消滅している。


………こいつは自分が支配する黒魔道とそれとは対極に位置する白魔道を併せ持った危険人物だ。

 ………砕け散った何万もの心の欠片の一つがそう言っていた。

 たかが一匹の地を這い(つくば)る小さき者に己の世界であるベアトリーチェを奪われるわけにはいかない………


 一番初めに感じた能力の意味が何なのか理解したガドリールは再度力を解放した。

「ぐぅっ………」

 増幅された力にアカトリエルは低く唸った。右手で剣の柄を握り締め、左手で刃の側面を押さえ凄まじい力に必死で(あらが)う。

 左肩に巻き付け染まった真っ赤な布から、抑えきれなくなった血液が吹き出す。


 膝を付きながら床に押し付けて来る炎の滝を何とか(こら)えるが、限界がそろそろ近付いている事に気付いていた。

 皮膚が裂け、額に浮き上がった血管から血が零れる。

 この防御を解いたらたちまち炎に呑まれ、一瞬で跡形も無く消え失せてしまうだろう…

(ここまでか………)

 その言葉が脳裏によぎった時…………

「アカトリエルさん!!!」

 階段の上からヴェントたちの声が響いた。


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