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どちらが王妃?  作者: kanaria
番外編
44/45

誓いの花

小夜様からご依頼いただいた話です。

アーシア視点。

番外編「過ぎ去った日」「新しい命」とリンクしています。

「マリウス様、そろそろ休まない? そろそろマリウス様のお話し相手の方がくる、です。」


アーシアは紅茶の準備をしながら本を閉じるように促す。

するとマリウスが微笑んだ。


「アーシア、そろそろ休まない?じゃなくてそろそろ休みませんか?だよ。何度も言ってるけど変に敬語にしようとするくらいなら僕には普通に話していいから。母上にも敬語使ってないのに。」


「でも敬語使う方がいいと言われ……ました。」


「まぁ、アーシアは僕よりも弱いしね。だけど僕が良いと言ってるんだから気にしなくていいよ。むしろ変な言葉使われる方が気になる。」


「むむむ。」


笑いながらマリウスが椅子に座る。

眉間にしわを寄せながらアーシアは紅茶を差し出した。


敬語めんどう。

使わなくていいなら、そうしたい。

でもそうすると姉さまたちがうるさい……。


考えているうちにどんどんアーシアの表情が険しくなる。

マリウスはそんなアーシアを見ながら紅茶を飲み干した。

その時、扉がノックされ舞と少年が入ってきた。


「マリウス、元気そうだな。前々から言っていた話し相手を連れてきた。今14歳だそうだ。マリウスはまだ8歳だが大人びてるからこれくらいの年齢の方がいいかと思ってな。」


舞を出迎えるために立ちあがったマリウスを舞が抱きしめる。

その後も少しの間、微笑ましい親子の会話を舞とマリウスがしていたが、アーシアにはそれを聞く余裕がなかった。


まさか、フェル?

ありえない。

フェルは死んだはず。

それにこんなに若くもない。

髪や目の色もちがう。

でも魂がおなじ……?

なんで?


少年と目が合った瞬間固まって動かなくなったアーシアを少年が心配そうに見つめる。


「大丈夫ですか?」


「うん、だいじょうぶ……。」


声変わりが終わった声でそう話しかけられてアーシアはハッとした。

知らぬ間にペンダントまで握りしめていたようで手が真っ白になっていた。

ペンダントから手を離し、アーシアは舞と少年の椅子と紅茶の準備をする。


この少年はだれ?

フェルの親戚?

でも親戚というだけでは考えられないほど魂がフェルと一緒。

あってはならないはず。


紅茶の準備が終わったのでアーシアは部屋の隅に立つ。

このお茶会で分かったのは少年の名前がフォルグということと淫魔族であるということだけであった。

終わった後、様子のおかしなアーシアをマリウスが心配していたが、アーシアは問題ないと言って休もうとしなかった。


その後もフォルグはマリウスの部屋にやってきて世間話をしたり、魔法や剣の練習を一緒におこなったりした。

アーシアはその様子を眺め、適当なタイミングで休憩を提案する。

フォルグが来てからは舞が心配していた大人びすぎているというマリウスの性格が少し緩和していった。

その様子をアーシアは不思議な感覚で眺めていた。




フォルグがマリウスの話し相手になってから1月がたったころ、休みがとれたのでアーシアは自分の所有する不可侵の庭と草原に向かっていた。

普段は転移するが、たまには歩くのもいいだろうと徒歩で不可侵の庭に向かっていると結界付近に魔族の気配がする。


だれだろう?

ここの結界がかなり危険な結界だとわからないのかな……?

む?

この気配はもしやフォルグ?


普段別の魔族の気配がしたら転移で直接結界内に入るか入ることを諦めるが、フォルグの気配ということで近くまで歩いてみる。


「どうしたの?」


黙って結界を見つめているフォルグにアーシアが声をかけた。

するとフォルグは驚いたように振り返った。


「あ、アーシアさん……。この結界って誰が管理しているかご存じですか?」


「……なんで?」


「なんだか気になりまして。来たこともないはずなのになぜか懐かしい……。」


結界を熱心に眺めてたことから結界の中が気になることは想像できたいた。

しかし懐かしいと言われアーシアは驚く。


「懐かしい? でもあなたは……。」


フィルではないと言おうとして言葉を飲み込んだ。


出会ったときにフィルと一緒で魂から惹かれた。

でも彼はフィルじゃない。

だからこの気持ちも間違いなはず。

彼がここを懐かしいと思うのも間違っているはず……。


フォルグと話していると勝手に高鳴る心臓をなだめる。

しかし、フォルグもまたもどかしそうな表情を浮かべた。


「そう、私はここを知らないはずなんです。なのに、なぜこんなにも感情があふれるのでしょうか? なぜ、こんなにもアーシアさんが愛おしいと感じるのでしょうか……。」


どうようもならないという様子で話された言葉にアーシアは愕然とする。

それと同時にフォルグの伴侶にはなれないと思った。


「フォルグの感情は間違いだと思う。アーシーにはすでに伴侶がいる。」


伴侶とは1人しかいないものである。

すなわち伴侶がすでにいるということはその人の最愛の人にはなれないという意味を含んでいる。

拒絶の言葉をかけられてフォルグは顔をしかめ、その場から転移していった。

それを見届けてアーシアは結界の中の屋敷に向かう。


フォルグはフィルの生まれ変わりなのかな……。

こんなこと聞いたことないけど。

でも、それなら魂がおなじことも納得できる。


ただ、そうだとしてもフォルグの伴侶になるわけにはいかない。

フォルグはフィルじゃない。

無意識のうちに前の記憶に引きずられてるだけ。

アーシーがフォルグを拘束するなどあってはならない。


ベットに横たわりゴロゴロする。

しかし気持ちが落ち着かず、結界を出て舞のいる場所に向かった。

扉の前に立つと何やら話し声が聞こえる。


「…………はそこで…………るのか?」


「それはありえません! 僕はアーシア以外考えられない!!」


「それなら…………すればいい。」


「でも、僕は……。」


マイ様とフォルグが話してる?

それなら今は行かないほうがいいかな。


扉がほんの少し開いているため、聞こえてくる声にアーシアは難しい顔をする。

そして転移をしようとした時、内側から扉が開いた。


「あ、アーシアさん!?」


幽霊でも見たような顔をしてフォルグが叫んだ。

近くで叫ばれてアーシアは耳を押さえる。


「……うん。」


「あ、すみません。」


フォルグはバツが悪そうな表情を浮かべる。

それに対してアーシアは首をゆるく左右に振った。


「だいじょうぶ。でも、邪魔したみたいだから家に帰る。」


耳から手を離し、再び転移をしようとする。

しかしフォルグが赤くなりながらアーシアの手をつかんだ。


「あの……、あの!」


アーシアの方が身長が高いため自然とフォルグが上目使いになる。

言いたいことがあるけれども、うまく言葉にできないようでほんのりと涙まで浮かべている。


「うん?」


アーシアが先を促すように首をかしげるとフォルグはアーシアの手をつかんでいるのとは反対側の手を差し出した。


「2番目でもいいので僕と結婚してください!!」


フォルグが手に持っていたのは結界内でしか咲かない花であった。

アーシアの目からは涙が零れ落ちる。

なぜ、ここにこの花があるのだろうという疑問さえも浮かばずにアーシアは花を手に取った。

フォルグとフィルはたとえ同じ魂を持っていても同じ人ではない。

そう考えてももう駄目であった。

アーシアはもらった花を傷つけないようにフォルグを抱きしめた。


「あの……、同意してくださったということで良いのでしょうか?」


不安そうに聞いてくるフォルグにアーシアは頷いた。


「うん、うん。」


遠いような近いような位置から舞やアリシアたちの拍手が聞こえた。


これからはフォルグを愛そう。

フィルには表現できなかった分もぜんぶ。

それだけしかアーシーにはできないから。

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