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置いていくな、カップ麺  作者: のりと


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1/7

付き合ってよ、おっさん #1

野尾秀隆のおひでたか。三十歳、会社員、独身。

 その日も、いつも通り会社を出た。


 別に達成感があるわけではない。仕事をして、時間になったら打刻し、駅へ向かう。毎日がだいたいそういうふうに過ぎていく。


 電車に揺られながら、野尾は扉近くの席で目を閉じた。

 人は少しずつ減っていき、車内もだいぶまばらになっている。


 ……のだが。


 目の前に、誰かが立っている。

 しかも退く気配がない。


 仕方なく席を移ろうと、野尾は静かに目を開けた。


 金髪の男だった。若い。場違いなくらい明るい髪色。

 妙に人懐こい顔をしているくせに、目だけは細く、こちらを観察するみたいに見下ろしていた。


 ……なんなんだ、この男。


「ねえ、おっさん」


 男は少しだけ笑って言った。


「俺と付き合ってよ?」


 ……。


 野尾は眉をひそめた。

 疲れて目を閉じるのはよくない。こういうのに絡まれる。


「すみません。相手いるので」


 そう言って脇を抜けようとすると、男はすぐ後ろから声を投げてきた。


「嘘だね?」


 野尾は足を止めて振り返る。


「だってホーム画面、なんにもない初期設定だったじゃん」


 一瞬、言葉を失った。

 いつ見たのか分からない。分からないのに、妙に見ている。


 気味が悪い。早く離れたほうがいい。


「……全員が全員、待ち受けにしてるとは限らないでしょう」


 少しだけ低い声で言う。


「もういいですか」

「まあまあ、待ってよ」


 金髪男は悪びれもせず、むしろ少しだけ真顔になった。


「……おっさん、今、危ない目してたっしょ」

「……は?」


 問い返す野尾を見ながら、男はコンビニの袋をがさごそと漁り、中からカップ麺をひとつ取り出した。


「これ、あげる」


 野尾は反射的に受け取ってしまった。

 受け取ってから、自分でも意味が分からなくなる。


 手の中にあるのはカップ麺だった。湯を注げば三分で食べられる、ごくありふれたもの。


「……なんなんですか」

「俺さ、人助けにハマってんだよね、最近」


 軽いのか本気なのか分からない口調で、男は言った。


「だから連絡先教えてよ。相談窓口ってことで」

「……えぇ?」


 困惑がそのまま声に出た。


「いいからいいから。ほら」


 押し切られるようにスマートフォンを取り出し、半ば強引に連絡先を交換させられる。

 画面には新しく、三井という名前が表示された。


「あ、そうそう」


 男はにやっと笑った。


「俺、三井翔雅みついしょうが。しょうがでいいよ。しょうがないなあ〜、ってね」


 ……。

 野尾は無言でその顔を見た。


 知らない金髪男。うるさくて、馴れ馴れしくて、どう考えても面倒な種類の人間だった。


 けれど、その日、自分がどんな目をしていたのかを言い当てたのは、たぶんこの男だけだった。

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