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087 :// 報告と考察

「水道魔導具は予定箇所全てに配置完了、ストックも充分と。

 ゴミ処理場の方も切削が完了して、木材乾燥待ち。バーチャームの話だと、あと数日で完了しそうってさ。

 前回の評議会で組んだスケジュールも大体完了だよ」


 本日は評議会。

 いつものメンバーでテーブルを囲み、進捗報告を行っている。

 ちなみにもちろん政治ごとなので、ファグロの同席は不許可。

 きっと今頃、迎賓館で茶でも飲みながらヒマを持て余しているのだろう。


「いいわね~。街作り、順調だわァ!」

「そういえば、知らない間にヴォジャノーイとコカトリスの飼育小屋が出来ててびっくりしたわ」

「あの2つは我が人生の目標において、必要不可欠な存在なり……早期入手、誠にありがたき幸せ」

「なんで急に賢者なの」


 醤油と卵のための施設、ヴォジャノーイとコカトリスの飼育所は数名をシロネで雇用し、飼育担当者として働いてもらっている。

 如何せん初めてのことなので、飼育の前提として生態観察や安全確保から始め、今なお悪戦苦闘している。

 その2種の飼育はおそらく世界的にも初めてだろうということで、クロアも参加して手探り状態だ。


 ちなみに魔獣の飼育は、騎獣としてのスレイプニルくらいなものだそう。

 スレイプニルは魔獣ながら温厚な性格で、食事量が多いが普通の馬と同じ飼育で問題ないらしい。


「まぁそんなこんなで、思わぬ追加業務はあったものの、街作りは順調。

 あとは今回の重要な議題なんだけど———」


 皆がこくりと頷き合う。


「使者殿の件ね」

「まずシルフェアナ。報告をお願い」

「ええ。みんなは聞いてないかもしれないけれど、実はクロアから言われて使者殿の侍従たちに少し探りを入れてたの」

「そうだったの!? 大丈夫だったのォ!?」

「一緒に食事したり世話を焼いた程度よ」


 ファグロについてきた者は3人。

 2人は女性で、どちらもメイドとして身の回りの世話のために来たようだった。

 1人はクロアより少し年上くらいで、メガネが似合うスレンダーな女性。

 もう1人はまだ年端も行かない顔立ちで、そばかすのある田舎っぽい女性である。

 彼女たちは食堂から食事を運んだり、洗濯場にいたりするのをよく見かける。


 残りの1人は年老いた執事らしき男性。

 彼はファグロがクロアについて回る際にも常に迎賓館におり、何をしているのか最も謎である。


「彼女たちの話だと、こんな感じよ」



          ■□



『今日のゴハンは~お・に・く! 今日のはどんな味だろぉ~? マリネヴァは魚にしたの?』

『ええ。この醤油(ヴォーユ)っていう調味料、魚とよく合うわよ。相性100%ね。是非魔国にも欲しいわ』

『いいな~ちょっと味見させてよぉ』

『ジーシャ、自分で頼みなさい。追加注文出来るらしいわよ』

『これ食べたらしてくる!!』


 シルフェアナが遅めの昼食をとりに行った際、ちょうどよく食堂に例の2人がいた。

 出来れば怪しまれない程度に会話で探りを入れて欲しい、とクロアから頼まれていたので、食事のトレーを持って歩み寄った。


『こんにちは。隣、いいかしら?』

『あ、こんにちはぁ』

『シルフェアナさん、どうぞ』


 初日に食堂やトイレ、洗濯などの生活について教えたので、既に顔見知りだ。


『そろそろルミナディアに慣れてきたかしら?』

『そうね。最近は少しヒマになってきたわ』

『ドーラスト家なら、やってもやっても仕事が増えていきますよねぇ~。いっつも終わんないですもぉん』

『それはジーシャがドジするからでしょう。いつも注意力散漫なのよ、気をつけなさい』

『ひゃい……』


 マリネヴァの氷のような視線が突き刺さり、涙目になるジーシャ。

 2人の関係性がとてもわかりやすい。


『マリネヴァはしっかりしてそうね』

『私はメイド長だから』

『あら、そうなの! どおりで』

『でしょぉ? マリネヴァさんって、メイド長顔ですよねぇ。つよぉい』

『ジーシャ? それは嫌味かしら?』

『ひぃええ……違いますぅ……カッコイイっていう意味でぇ』


 目まぐるしくくるくる変わるジーシャの顔。


(純粋とおバカさんは紙一重ね……)


 ここまでの会話だけで、シルフェアナはジーシャがかなりのドジであることを確信した。

 もうこれ以上この話題には触れない方が、彼女のためになる気がする。


『そういえば、もう1人の……男の方はずっと見かけないわね?

 食事しているところすら見ないけれど、問題ないかしら?』

『ゾルカスさんはいつも迎賓館で食事してますよぉ。今も迎賓館でお留守番ですぅ』

『まさか食事が合わないとか? それとも種族問題?』

『ううん。ゾルカスさんはファグロさまの護衛だからぁ———』

『ゴホン。そういうわけじゃないの。彼は彼の仕事があるだけだから、問題ないわ。

 料理も毎日美味しいって言ってるわよ』


 ジーシャの言葉が、明らかに咳払いで遮られた。

 何か言いたくないことがあると直感する。


『……そう? 何か困ったことがあったら、いつでも言ってちょうだいね』

『ありがとう。助かるわシルフェアナ』


もっと今の会話について突っ込んでいきたいところだが、不信感を持たれては元も子もない。

シルフェアナは追撃を諦めた。

少しずつ仲良くしていけば、あちらが勝手に欲しい情報を漏らしてくれる気がする。


『実はジーシャ、ちょっぴり困ったことがありましてぇ』

『あら、どうしたの?』

『ルミナディアはごはんがとっても美味しくてぇ、太っちゃった気がするんですぅ……。夜にその辺を走ったりしても、いいですかぁ?』

『全然問題ないと思うわ。早朝なら筋トレ会もあるわよ』

『参加しようかなぁ……そうすれば、もぉっとルミナディアごはんが食べられますよねぇ!』

『ジーシャの頭は99%がゴハンで出来ているわね』



          ■□



「———ということなの。使者の目的については収穫がなかったけれど」

「いや、充分だよ。ありがと、シルフェアナ」


 シルフェアナは想定よりもいい情報を持ってきてくれた。


「迎賓館にずっといるのに護衛なのか? ってことは、血統術ってやつか?」

「きっとそーだね」


 血統術、魔族の『魔法』である。

 それは自然現象にイメージを依存する人族の原魔法とは異なり、自然法則以上、あるいはそれ以外の魔法である。

 代々血によって受け継がれることから、血統術と呼ばれる。

 血統術持ちはそれを持つというだけで身分が高くなることが多く、希少性があるのだとか。


「でも人族と違って、能力を予想しづらいなぁ……どう思う? バリラン」


 やはり魔族のことは魔族に。

 と思って話しかけたものの、バリランは何故か遠くを見ている。


「バリラン?」

「!!」

「!?」


 顔の前で手を振ると、急に魂が戻ってきたかのように飛び上がった。

 バリランが飛び上がったことで、クロアもビックリして震えた。


「……聞いてた?」

「……わりー。いい尻とは何か考えてた。なんだっけか?」

「ヘンタイ成敗!」


 シルフェアナの拳がバリランの脳天に直撃した。

 話を聞きたいのに、鉄拳制裁のせいでバリランの意識がまた空へと飛んでいった。


「———で。遠隔で他人を護衛って出来るもんなの? 血統術で」

「あー……具体的なやり方は人それぞれだろうが、出来るぞ」


 帰ってきたバリランが思い出すように顎をさすった。


「西魔国の王城警備副隊長がそんな能力持ってたな。

 人物を指定して、手元で駒として操るんだ。距離はどれだけ離れててもいい。

 手元に糸のついた人形が出てきて、その糸を操ることで、その人形と対象人物が同じ動きをするらしい。

 本人に何が見えてるのか知らねーが、ド素人を熟練の武術家に出来るんだとよ」

「血統術ってそんなことも出来んのか」

「まるで個性ね。想像できないわァ」

「はっきり言って、想像するのは時間の無駄だぜ」


 バリランの言う通りだ。

 そんなにも幅のあるものなら、想像を簡単に超えてくるだろう。


「……まぁ、護衛って目的がハッキリしてるならいいね。

 アイツ、護衛なしでどこにでもついてくるから結構ストレスだったし」


 皆が同情の顔をクロアに向ける。

 言葉にしないが、皆クロアの苦労は察してくれていたようだ。


「問題はジーシャって子だね。あの子も血統術持ってるんじゃないかな」

「えええ!?」


 シルフェアナが素っ頓狂な声をあげる。


「……あの子が?」

「その気持ちはよくわかるけどさー。

 日数のかかる遠征をします。場所は味方がいない場所で、どんな劣悪な環境かわかりません。

 人数は3人と限定されています。そしてそこでは政治的なアレコレが発生します。

 その状況で私が雇い主なら、ドジっこは連れて行かないな」

「ああ……」


 スン、と全員が納得した顔になって頷く。


「貴族ならメイドなんていっぱいいるわよねェ。たしかに聞いた感じ、その子じゃ口も軽そう」

「それでも連れてくるほどの何かを持ってるかも、ってことか。しっくりくるな」

「必ずしも、とは言えないけどね。

 例えば南魔国の貴族権力の問題で、親にねじこまれたお嬢さまとかって可能性もあるだろーし。あとは愛妾とか」

「愛妾なぁ」

「雰囲気、違うけどね」


 南魔国の情勢が分からないが、そもそも使者の話が出た時点でソルマンはある程度人を決めていた節があった。

 確かいい人材がいる、みたいなことを言っていた記憶がある。

 その従者3人にねじ込む政治的または権力的な問題があったとして、ルミナディアへの使者訪問、それも初回という大事な時にソルマンがそんなものを送る気がしない。

 個人的な見解だが、あの男は見た目以上にしたたかだと思う。


「まぁとりあえず頭の片隅に入れておく感じで。

 あと問題なのは使者サマの目的というか、動向だね」

「ずっとクロアにひっついてるみたいだけど、どーなの? その……ベルガは大丈夫なのォ?」

「一応私でも調査しててねー。コレをまず見て」


 ニャスタが魔導ディスプレイを展開する。

 表示するのはルミナディアの全域マップ。

 赤い点が現れ、それが線を引いて移動していく。


「なーにコレェ?」

「使者サマの初日からの移動経路。ニャスタにずっと追跡させててね」

「……ルミナディア・パレスには近寄ってもないな」

「そー。想定していた魔導具関連の懸念は、かなり可能性が低くなったよ。

 想像もつかない血統術さえなければねー」

「結局、問題は血統術ね」


 皆でうーむと唸る。

 こればかりは時間を費やしてもどうしようもなさそうだ。


「使者様の目的、本当に名目の通りなのかしら」

「…………ちょっと思い当たるところがないわけじゃないけど———まぁまだ警戒継続のまま様子見で」

「おうよ」

「そうね」

「それじゃ次に、今後の街作りについての話を———」






 その後ベルガミュアを呼んで街作りの計画について会議が終わり、解散したあと。


「ねェ、クロア。ちょっと」


 オルウェンがヒソヒソと手招きする。

 他のメンバーの動きを気にしているので、何か人に聞かれたくない話のようだ。


「どーしたの」

「あの、ちょっと気になることがあるのよ」


 もじもじとして、言葉を探しているようだ。

 やああって、オルウェンはやっと口を開く。


「バリランのことなんだけど。最近、ちょっと様子が変だわ」

「様子が変?」

「今日もなんだか、上の空じゃなかった?」

「たしかに……」


 どちらかと言えば、評議会ではバリランはうるさい方だ。

 なんならバーチェークはそれに気後れすらしている。

 それが今日は随分大人しく、バーチェークの口数もいつもより多かったように思う。


「それに最近、昼夜問わず徘徊してるらしいのよ」

「徘徊?ボケた老人みたいな?」

「ううん。そうじゃないの。けど……」


 言いよどむオルウェン。

 オルウェンはキャラの強いオネエだが、常識があるし察する能力が高い。


「……個人的に思うこと、でもいいよ。とりあえず言ってみて」

「あの……」


 ごくり、と唾を飲んで。


「……バリラン。クロアがいなかったとき、南魔王様とちょっと変な雰囲気だったわ。それがずっと気になってて」

「ソルマンと? 変な雰囲気って……?」

「言葉にしづらいんだけど。なんか2人だけの世界って言うか」

「えっ、ラブ?」

「違うわよォ! なんかもっと貴族みたいな遠回しの話してて、でもアタシじゃ意味わからなくて」

「ふーむ」


 オルウェンはそう、良くも悪くも一般的なのだ。

 だから逆にその感覚は信用出来る。


「……わかった。一応気にしておくよ。でも徘徊については気にしなくていいと思うよー」

「そうかしら……? とにかく、なにかこう……気をつけてよねッ!」


 ソルマンとバリランの組み合わせ。

 あまり考えたことがなかったが、少し情報を集めてみてもいいかもしれない。



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