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075 :// 治水と思わぬ収穫 -1-

「…………もぉ……ムリかも……しんない……死ぬ゛……ぐええ…………」

「なんだい、だらしないねェ」

「半獣族とは……ペースも……足の長さも……違うん……だよぉ…………」


 朝出発して割とすぐ、クロアは疲労に音をあげた。


 最近忘れかけていたが何せ未開の地。

 木の根はうねり、土は前日の雨でぬかるみ、足場になると思って踏み込んだ先が崩れたり。


 割と近いので問題ないと思った道なのに、全然思うように進めなかった。


 一方で共に来た半獣族たちは、木の根は踏みつけ、ぬかるむ土も筋肉で何のその。

 崩れる足場は先に気付いて回避。

 そして何より速い。

 基本スペックも経験も違いすぎる。


「ホラ、乗んな」

「アァー……落ち着くぅ……私もう……バーチィールの……背中で暮らすぅ……」

「何言ってんだい。ちょっと貧弱過ぎるよ、クロアは。もっと鍛えな!」

「やだぁ……」


 結局、バーチィールにおんぶして貰った。

 なぜか疲れないはずのニャスタ3匹もクロアの頭の上に積み重なった。

 バーチィールのスーパーマッスルは固いが、今はその固さに安心感を覚える。

 クロアは筋肉の上でぜえはあと荒ぶる息と心臓を整えた。






 現在、目指しているのはルミナディアから北西にある山、カラカル山の麓付近。

 ちなみに山に名前がなかったので、クロアが雑に命名した。

 由来は故郷の動物、カラカルの耳にシルエットが似ていたからだ。


 この山に来た理由は、治水のためである。

 街を作る上で重要なことの一つ、防災対策として、この土地付近の自然災害や天候について知っていそうな人に片っ端から聞いて回ったところ、重要そうな話を2つ聞けた。


 1つはルジィによるもので、非干渉地帯(ホワイトライン)の南側は、よく大雨で地形が変わるらしい。

 特に川の形はよく変わるので、ガルル・ドラゴンたちはマッピングにおいて川を無視するという常識があるらしい。

 もう1つの証言はユガによるもの。

 ユガの住処を含むルミナディア付近には雨期が存在するとのことで、時期と頻度は不明。

 期間は1~2ヶ月ほどだそうだが、何日かは集中して豪雨になる日があるそうだ。

 気になるのはいつ来るのかだ。

 ユガは長いサバイバル生活で当然暦を把握していないので、本人の感覚によると『もう数ヶ月すれば来そうな気がする』とのこと。


 これらの話から、早めに対策した方がいいと判断した。

 ルミナディアの近くには、飲料水から水浴び、魚穫りと、住民のライフラインになっている大きめの川が流れている。

 この川は北西にある山から流れてきており、2人の話と地形から、大雨で氾濫する可能性があるとみている。

 これだけ一生懸命作ってきて、やっと文明を感じる形になってきたところを大雨で全て流されたら悔やみきれない。

 というか気持ち的に立ち直れないかもしれない。


 治水工事に数日は掛かる見込みなので、南魔国の使者が来たら行きづらくなるし、帰るまでに雨期が来てしまうと手遅れになるかもしれない。

 早々に片付けてしまった方がよさそうなので、半獣族を中心にクロア含む8名の治水チームを作成した。


 ルジィが不在だったのでその8名で遠征をはじめ、今に至る。






「バーチィールはこっちのチームでよかったの?」

「チーム?」

「ルミナディアで狩り放題したかったかなーって」


 天然魔獣避けであるクロアが不在になるので、おそらくルミナディア近辺では魔獣祭りが始まる頃だ。

 バーチィールは豪快に笑い出す。


「ンッハハハ! そんなに狩りしたがりなのは、チェーク兄だけだよ!」

「別になぁ、そこまでだよな?」

「そーだねそーだね」

「えー。そーかなー?」


 周りの半獣族も同意するが、クロアからするとそんなことはないと思う。

 半獣族の多くが、畑など狩りではない仕事のあとに『疲れた、狩りしたい』的なことを言っているのを何度も見た。


「目的が違うのさ。狩りが目的なのはチェーク兄。

 アタシは小家族(アム)の長だから、家族を護ることが目的なのさ。

 護るためには力がいる。力を得るために狩りで鍛える。鍛えることはただの日課さね」

「なるほどねー。バーチィールにとってはただの手段なのかー」

「そういうこった! 他の連中だって、そーじゃないかねェ。

 強きゃあ一族の中で地位が上がったり、いい配偶者を得られたりするよ」

「強いとオモロいほどモテるんだぜ~クロア」

「クロアは半獣族にはモテないモテない~」

「うっさいわ!」


 周りの半獣族が冷やかしてくるので、クロアはバーチィールの背中からギロリと睨みを効かせた。

 最近、半獣族の中でクロアの貧弱イジりがブームになってきている気がする。


「私はモテなくていいけどさー。

 めちゃつよのバーチィールもバーチェークも未婚だし、別に強いからってモテるわけじゃないんじゃないのー?」

「年に10件くらいは婚姻の申し込みされてるけどねェ」

「え!?」


 初耳。

 バーチィールの言葉に、クロアの目がぽーんと飛び出した。


「ウソ!? 2人とも!?」

「ああ。もう何十件も断っちまったよ」

「なんで?」

「そりゃアタシは獣化術持ちだからさ。アタシの子供は獣化術を継ぐことになる。

 いずれ多くの家族を護る立場になるだろう? だったら夫はアタシ並かアタシ以上に強くないとダメだね!」

「あー。そりゃ結婚出来ないわー」

「なんだよクロア! その目は!」

「こっち見んじゃねーし!」


 周りの半獣族を眺めながら納得した。

 彼らも一般人のクロアから見たら強いが、獣化術不使用のバーチィールと組み手で負けるのを何度も見かけた。

 自分より体が大きい男半獣族を相手にしてもバーチィールが勝ってしまうのだから、なかなか結婚相手は見つからないだろう。


「それじゃバーチェークはなんで断ってるの?」

「毎回、好みじゃないって言ってるねェ」

「なんだー。選り好みかー。チッ」


 何十人も選択肢があるなら、選ぶのも当然か。

 クロアの中でなんとなくバーチェークのポイントが下がった。

 なんとなく。別に悔しくないけれど。1ミリも悔しくないけれど。


「にゃすにゃす~」


 悶々としているとニャスタがクロアの額をちょいちょいする。

 魔導ディスプレイが出てきて、矢印と距離が表示された。


「目的地が近いみたい。よろしくバーチィール」

「任せな」


 バーチィールに背負われたまま、ニャスタのナビに従って進むこと5分ほど。

 木々が開けて到着したのは、目当ての川だ。

 ルジィに乗った時にニャスタに地形のデータを撮っておいてもらったので、事前に確認した上で決めた場所である。


「ここかい?」

「うん。対岸が作業場になるから、まずはこっち側にキャンプ作っちゃおう。

 ニャスタは一応近辺の地図作っておいてー」

「あいよ~」

「にゃす~」






 半獣族の家は1本の木を中心に作る特殊な家だが、こういった野営地にもしやすいのがメリットだ。

 周囲の木をなぎ倒し、持ってきた布であっという間に仮宿が完成した。


「それじゃみんなー! 計画について再確認してくから集まってー」


 全員を集めて、ニャスタのディスプレイで図解しつつ解説を始めた。


「作るものはダム! 早速だけど、第一段階の川の経路変更を始めるよー。

 ニャスタ、例のアレお願い」

「にゃす!」


 ニャスタがメンバー全員にいつぞやのニャスタバイザーを設置する。

 初めて使うメンバーが1人、びっくりして飛び上がった。


「川が流れたまんまじゃ、ダムつくるのに邪魔だよねー。

 てことで、この川の蛇行した部分に、川の近道を作ってやる形で一時的に川を変形させるよ。

 ニャスタバイザーで、どこをどれだけ掘ればいいか見えるようになるので、それを参考にして作業よろしく!」

「おうよ!」


 ニャスタが地形をチェックしてくれていたお陰で、ベストな位置取りが出来たと思う。

 ダムが作りやすいところで、川の蛇行があるため作業量も少なくて済む。


「そうだ! クロア、魔獣寄ってくるようにしといてくれよな」

「あーそうだったねー」


 魔術式【魔力放出抑制(マナーモード)】実行。

 完全な抑制ではないが、目に見えないレベルのマナの放射性を遮断する魔術式だ。

 これで魔獣もこの付近に寄ってくるようになる。

 作業中に魔獣が出現すると面倒だと思ったが、こうしておかないと泊まり込みなのに、今晩の夕飯が抜きになってしまう。


 大規模工事、開始。






 今回のダム工事は、便宜上ダムと言っているがクロアの思うダムではない。


 故郷日本のダム。

 実際のものをクロアは見たことがなかったが、ダムと言えば山間部に貯水や水力発電も兼ねた大規模なものがイメージだ。

 貯水が溢れそうになったら放水し、水力発電は高い箇所から落下する位置エネルギーによる発電だったような。


 記憶を辿ったところで、ダムの仕組みについてはそもそもさほど知識がない。

 インターネットで調べられないことが、こんなにもどかしいとは。


 魔族と人族はどうしているのかを聞きながら評議会で話し合い、現在の技術レベルと知識の寄せ集めによって、今回のダム計画を練った。


 作るダムの機能は、日頃は通常の川の流れをそのまま妨げないものにした。

 川の水位が通常ならば、ダムに開いた穴をそのまま川の水が流れていく。

 ただし一定の水位以上になると高い壁が水を堰止め、貯水池となって水を貯めることで、下流にあたるルミナディアへの水量を調節する。

 というものだ。

 知見のない者が作るので不備が出るのは織り込み済みで、まだどれほどのものか預かり知れない初めての雨期を乗り越えたあとに、適宜改善していく予定だ。







 半獣族のメンバーがせっせと掘り進めて、あっという間に川の移動が完了した。

 魔国で特注しておいた半獣族専用大型スコップが大活躍してくれて、予定よりも遙かに速いスケジュールだ。


 次は、地盤作りだ。

 建設予定地の地盤が強いのか弱いのか、判断する方法すらわからないので、とりあえず深さ3メートルほど掘って貰った。

 ここからはクロアの出番。


 ダム建設地のすぐ脇に作ってもらっておいた、プールのような大きな穴の前に立つ。


「【建設魔術環境(クリエイトモード)有効化(アクティベート)———座標指定OK、形状指定OK、硬度設定OK……手動入力完了。【固定(ロック)】。【土壁(ウォール・ソイル)】実行」


 3D座標で次々に必要項目を指定する。

 実行の言葉で魔術式が展開し、土の壁によってプールに仕切りが入る。

 仕切られた片方には、すでに準備しておいた砂利やらが雑に入っている。

 その前に立ち、クロアは次の魔術式を展開する。


「【硬土作成コンクリート・クリエイト】.bat———量指定、完了。実行」


 実行の言葉とともに、3つの大きな魔術式が光り、動き出す。

 1つめはセメント作成の魔術。

 石灰や粘土を主とした材料を混ぜて高温火力で焼成、指定空間の空気を振動させると同時に風を送り込むことで、粉砕して冷却。

 これでセメントが出来上がる。


 2つめは移動の魔術。

 出来上がったセメントを、次の工程を行う場所へ移動させる。


 3つめはコンクリートの練り上げ魔術。

 移動したセメント魔術で作成した木の板で混ぜる。


(わかってたけど、過去最大魔術式がコンクリ作りとはね)


 なんだか夢がない。

 焼成の熱で額に汗がふつふつとわき出ながら、目の前の簡易コンクリート製造工場を見て思う。

 大きい魔術式は3つだが、その中にも火力と範囲をしていした火魔術や、風魔術など、結構な数の魔術陣が含まれている。


(ベルガの世界がコンクリート世界だったら楽だったのになー……)


 少し余裕が出てきて、作業しながら贅沢なことを思ってしまう。


 魔術の仕組みとして、多くの人が認識しているものなら魔術文字になる。

 わざわざ式を組まなくても、1文字で済むのだ。

 しかしベルガミュアの時代ではコンクリートは古代技術であり、魔術文字にならなかった。

 コンクリートの代替品があるが、それは工場のような整えられた場で精密作業がなくては作れない。

 よって、コンクリートを作る方法をニャスタのライブラリから情報得て、魔術式を組む。

 という手間のかかる回り道の作業をした。


 前にベルガミュアから聞いた万能物質(マルチマテリア)があれば、こんな地味な作業は必要なかったのに、とぶう垂れ気分のクロアである。


 『万能物質(マルチマテリア)』。

 ベルガミュアの説明によると、プレーン状態の物質に魔術式で形状、色、質感などの情報を入れることで投影具現化するそうだ。

 そうして製品となり、その後『万能物質(マルチマテリア)』は情報固定の5年が経つと塵になるので事前に所定場所へ廃棄し、廃棄場で洗浄を経てもとのプレーンな『万能物質(マルチマテリア)』に戻る。

 それがまた工場で別の製品になる、という循環で成り立っているらしい。

 ゴミも出ない素晴らしいサイクルだ。


 イニティムス付近の建築は都市機構なので、周期入れ替えよりも持続性に特化した別の素材によるものだそうで、万能物質(マルチマテリア)でなくともそちらの技術を転用出来れば、と思ったのだが。

 それもマナを組み込んだ複雑な素材で、にわか魔術師のクロアには再現不可能だった。


 結果的にこのコンクリート作成が一番手頃に扱えるものだったので、夢のない魔術式を組むに至ったのだった。


 出来あがった生コンクリートを、半獣族のメンバーが運搬道具に入れてダム建設予定地へ持っていく。

 土壁の魔術で指定した範囲に流してもらったら、クロアが魔術を並行起動して風を起こし、コンクリートを乾かす。


 何度かこれを繰り返して、所定の高さまで達したら追加作業だ。

 植物魔術で巨大な木の幹を作り出し、積み上げたコンクリートに横たえる。

 幹の邪魔な部分を切り落とし、また土壁を伸ばし、さらにコンクリートを注いでは乾かす。






 コンクリートなんて使ったこともなかったので具合がわからず、乾かしている間に作った生コンが乾燥し始めるなど、細々したアクシデントに見舞われつつ、およそ二日で目的の形まで出来上がった。

 たぶん故郷の技術と機械をもってしても、こんな速度で仕上がらないのではないだろうか。

 素人仕事だとしても、半獣族たちのスーパーパワーのお陰で想像以上に速かった。


 型として作った土壁を破壊すると、思ったよりも立派な巨大コンクリートの城が出来上がった。


「おお~」


 手で叩いてみると、こんこんと音がしてしっかり硬い。


「『炎よ、焼き払え【火放(ファイア・ブレス)】』」


 コンクリートに挟んでいた木の幹を魔法で焼き払う。

 巨大なコンクリート壁に穴が開いて、向こうの景色がよく見えた。

 これで川の水は常に安定して流れてくるようになるだろう。


「なぁ、オモロそうだから全力出してみていいか?」

「バカ。壊れたらどーすんの」

「指だけ! 指だけならいい?」

「ダメ」


 浮き足立つ半獣族たち。

 初めて見るコンクリートの壁に興味津々で、色々試したがったが断固拒否した。

 半獣族の力とコンクリート、どちらが強いかは知りたいが、今ここでではない。

 またイチから作る羽目になるのはご免だ。






 ニャスタによると1か月ほどの乾燥が必要とのことで、泊まり込みで作業していたチームは一度、ルミナディアに戻ることになる。



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