018 :// 弟子入り志願
家作りのための最後の下準備。
それが呪石あさりである。
オルウェンが持ち込んだ物はどれも使い古されてボロボロだが、何も持たないクロアたちには神の救いも同然だった。
斧、ナタ、ノコギリのような剣。
ついでに、その余生を鍋として過ごすこととなった、盾。
金属ばかりはイチから作り出すことの難易度が高すぎるので、大変助かる。
しかし、もう少し欲しいところ。
具体的にはノミとナイフだ。
ノミがあれば削り作業が出来るので、木製の小道具を作れる。
ナイフは言わずもがなサバイバル生活の必需品だ。
呪石がその代わりになるのではないかということで、こうしてクロアがあさりに来た訳だった。
呪石は地中の母岩から六角柱状に生えているのだが、その根元には欠片が落ちていることがある。
巨大な呪石のまわりをウロウロしては、使えそうなものを拾っていく。
ニャスタにも求めているものを説明したので、3匹の彼らも手分けして探しては持ってきてくれる。
(ニャスタは呪石、大丈夫なんだなー)
生体ではないので当然といえば当然か。
理解が難しいほどの超高度な技術で作られ、感情すらあるらしいが、痛覚はないようだ。
たまに転んだりぶつかったりして痛がるが、それはフリだとベルガミュアに教わった。
「ヨシ、こんなところかなー」
「にゃす~」
最もノミとナイフに適したものを選び終え、クロアは大変満足していた。
自分しか使用出来ないのが残念だが、ないよりずっといい。
そろそろ昼食の時間帯なので、呪石の山から戻らなければ。
と歩いていた時だった。
「クロア」
呪石の山の入り口で、ベルガミュアに出くわした。
「あれ? 早いね、戻ってくるの」
「お腹が痛いと言って、私だけ早めに戻ってきました。その……」
ベルガミュアがそわそわして口ごもる。
「頼みたいことが、ありまして」
「へー。なんか意外だねー。人を頼るの、苦手そうなのに」
「……頼らなかった場合の方が、面倒なことになりそうなので」
図星だったようで、ゴホンと咳払いするベルガミュア。
いつもの冷たい無表情が、ちょびっとだけ恥ずかしそうにしていて面白い。
なんと言っても、水浴びは絶対に誰とも入らない。食事の場も1人だけ数歩離れたところに座る。寝る時は皆から離れて壁と恋人の如く寄り添っている。
そんなベルガミュアの頼みとは、なかなか無いチャンスなのではないか。
思って、クロアは悪い顔をした。
「じゃー交換条件で」
「交換条件?」
「ベルガミュアって、名前長くて呼びづらい。愛称とかで呼ばせて」
少しむむっと身構えるベルガミュア。
「………………ミュア以外ならいいでしょう」
長い沈黙のあと、困惑顔のベルガミュアが了承した。
「やったー! ベルガはどう?」
「構いません」
「やりぃー!」
ベルでもいいのだが、なんとなくキリッとした麗人にはベルガの方が似合う気がする。
仕方なさそうに頷くベルガミュアを前に、クロアはガッツポーズで喜びを表現した。
「それでベルガ。頼みってのは?」
「呪石を触ってみたいので、見守って欲しいんです」
「えっ、呪石触るの!?」
予想外の話で、驚いた。
クロアのニャスタのみならず、ベルガミュアが連れているニャスタたちも驚いた顔をしている。
「私の時代には無かったんです」
「呪石が?」
「はい。鉱物として見覚えがないですが……ルミナスというものに似ていると思ったら、気になってまして」
ルミナス、といえば先日ベルガミュアから聞いた覚えがあった。
「ルミナスって、魔導具作るのに必要って言ってたやつ?」
「そうです。本来は青、緑、黄色の3色ですが、形状が非常に似ています」
出会った頃まもなく、当然すぐに便利な魔導具を作って欲しいという話をした。
ベルガミュアも乗り気だったが、ミスリルとルミナスがあればすぐにでもと言うと、オルウェンに即座にムリと断言された。
ミスリルは最高級金属で、ミスリル製の武器などは貴族かBランク以上のハイクラス冒険者でないと買えない高級品だそうだ。
当然この呪いの地に転がっているようなものではない。
地下都市に落ちているのではないかと言えば、ベルガミュアが首を振った。
居住区は崩落などの危険があるため閉鎖されており、現在の地下都市で入れるエリアは行政地区のみだとか。
行政地区にあるミスリル、つまり魔導具はすでに完成品であり、ベルガミュアには作れない技術の塊なので素材にはしたくないそうだ。
そしてオルウェン曰く、ルミナスという鉱物は聞いたこともないとのこと。
マナが入った鉱石だとベルガミュアが説明すると、魔鉱石かもしれないが、とオルウェンが溜息を吐いた。
魔鉱石もミスリル同様に高級品なので、自生しているものを見つけるしかないそうだ。
「じゃあ呪石はルミナスってやつの色違いかもしれないってこと?」
「はい。触ればわかると思うので、試したいです。ただ、もし皆さんの言うように気絶に至った場合……」
「ちょっとした事故があったということで、私が周りに説明しておけばいい? あと気持ち介抱しとけばいい?」
「お察しの通りです。お願いします」
フム、と頷く。
「いいけど……なんか怖いから、触るのは指先ちょんくらいにして?」
「もちろんです」
呪石の山から離れた芝生に移動し、2人で座った。
座っていれば、転倒ダメージがないだろうという考えである。
クロアが2人の間に指先ほどの小さな呪石片を置く。
6体もいると半分は遊び始めるニャスタたちだが、気になるようで全員が2人を囲むようにして、息を呑んで見守っている。
「では始めます」
ベルガミュアが左手を持ち上げると。
「!?」
手首に着けていた太いバングルが急に変形した。
銀色の金属が溶けるように手の甲へと広がり、指先まで覆う。
不思議なデザインをした、金属の手袋のようなものになった。
「何ソレ!?」
「魔術式記述義手。魔導具を作る魔導具です。これで触ればルミナスかどうか分かります」
銀色に尖る指先を、ゆっくり呪石へ近付けていく。
クロアは人ごとながらドキドキして息を止めた。
3、2、1。
「ィ゛!!」
弾かれたようにベルガミュアが跳びはねた。
口を一文字にぎゅっと結び、ぴょんぴょん跳ねる。
これはアレだ。
タンスの角に足の小指をぶつけた時の動きだ。
「だいぶ痛かったみたいだけど……ダイジョーブ?」
「……だい、じょう、ぶ、です……」
余程痛かったようで、シグのような喋り方になっている。
触った手を撫でまわし、やっと落ち着いたらしい。
「……正解でした。やはりコレはルミナスです。魔術式記述義手に反応がありました」
見ればベルガミュアの手にある魔導具に、まるで血管のように青い光の筋が出ている。
これが反応ということのようだ。
「つまり呪石はルミナスだった———。なんかカッコイイ展開」
「これで魔導具が作れます」
「でも触るたびにそんなに痛いなら厳しいんじゃ?」
「魔術式の記述は、直接触れなくていいんです。この通り」
ベルガミュアの指先からレーザーのような青い光が出て、呪石に触れずとも表面にチリチリと線を刻む。
確かにこれなら触れなくてよさそうだ。
「へー、そうやって作るんだねー。それなら平気か……いや、私以外に持ち運びが出来ないことだけはなんとかしないとね」
「そうですね。運搬や設置については検討してみます。加工のための魔術式も組まなければなりませんね」
まだやらなければならないことが多い、とベルガミュアがにわかに肩を落とした。
自分で持ち運びも出来ないなら製造過程も面倒なものになる上に、使用上の安全を考えると人の手が触れないようなものしか作れない。
魔導具作りの詳細は知らないが、トングや手袋のような道具が必要になりそうだ。
あとは作った魔道具のカバーも必要になるのかもしれない。
前途多難だ。
「ところで魔術式の記述ってなに?」
よく考えると魔導具作りについて何も知らなかった。
地下都市遺跡の不思議などこでも扉やニャスタの存在が魔導具にあたるようだが、どのような仕組みなのだろう。
「ええと……まず魔法と魔術の違いについて、聞いたことはないんですよね?」
「私の世界ではなんとなーく違う気がするけど、ここではどう違うの?」
個人的には魔法はなんでも理論なしで起こせるミラクルで、魔術はその魔法を学問にしたもの、みたいなイメージだ。
「ラーシスが使うようなものが魔法。これは簡単に言えば、自然現象を具現化しただけのものです。
私の時代では原魔法と呼んでいました。おそらく今の人族は、この原始的な魔法しか使えないのだと思います。
そして魔術。これは自然現象の具現化しか出来ないという、魔法の限界を突破するために作られた技術です。 見た目の違いとしては、魔術では必ず魔術文字とそれを記した陣、魔術陣を使うことです」
「なるほど」
(限界突破。すごくファンタジーワード)
内心とてもわくわくする一方、魔法と魔術について自分の雑なイメージを言わなくてよかったと冷や汗をかいた。
危うく恥を晒すところだった。
魔法が超能力で、魔術が超能力を利用した高度技術。
思ったよりも定義がきちんとしている。
「具体的には魔術文字という記号によって、自然現象に限らない事象を引き起こします。
もちろん原魔法で属性適合がない自然現象も起こせます。例えば……」
ベルガミュアが魔導具の指先を呪石に向ける。
青い光が呪石を焦がし、魔法陣を刻んだ。
すると魔法陣が動きだし、ボッと火が上がる。
「おー」
ついた火はライターのように安定して燃え続けた。
「これが火とか、燃やすみたいな魔術式ってこと?」
「そうです。円の中にある記号が魔術文字で、複数あるでしょう?
こうやって魔術文字を組み合わせることで、複雑な事象を発生させたり、操作したりします。
火の魔術文字の他に、火力の調整や維持時間などが記述されているんです」
「へー、じゃあこれは何の魔術式?」
「マシュ……おやつを炙る魔術式です」
プッ。
無表情にマシュマロを焼くベルガミュアを想像して、クロアは小さく吹いた。
かわいい。
「べ、別に誰でも使う魔術式ですからね……!?」
「わかった、ゴメンゴメン。じゃあ、魔術式を構築することを記述って呼んでるの?」
「そういうことです。これはもう消去しますね」
かわいい姿を想像をしたことがバレている。
ほんのりムッとしたベルガミュアがもう一度指先を呪石に向けると、魔術陣がすっと消えて鎮火した。
「“半物質”という特殊な物質に魔術式をマナで刻むと、魔術を使える道具、つまり魔導具が出来上がるということです。
先ほどの呪石も魔術式を記述したままなら、魔導具と言ってよいです」
「つまり半物質がルミナスやミスリルってことかー」
確かにその仕組みなら、ルミナスやミスリルが無ければ魔導具作りが不可能だ。
疑問が晴れて、すっきりした。
それと同時に、一つの考えが頭を過ぎった。
「……てことはさー、私も勉強すれば魔術が使えるようになる?」
「ええ。マナさえあれば、魔術は誰でも習得可能です。でもこの魔術式記述義手は貸しませんよ。大事なものなので」
「えー、じゃあ記述は出来ない?」
「いいえ。私とは違うやりかたで出来るかも……または別の補助魔導具を作れば」
つまり魔術が使えるということだ。
この最高に便利な技術を。
クロアはこの世界に来てから、最高の速度で額を地面にこすりつけた。
「ベルガさん! お願いします!! 魔術教えてください!!」
「何してるんですか? 別に構いませんよ。魔術がわかる人が多いほうがいいでしょうし」
「やったー!」
土下座は通じなかった。
元の世界でも日本以外では通じないのだから、当たり前か。
「後日タイミングを見て教えましょう」
「ありがとー! ヨシ、とりあえずそろそろごはんの時間だから戻ろう!」
クロアとベルガミュアは立ち上がり、拠点への道を歩き始めた。
「……思ったんですが、私の最初の頼みの交換条件が、魔術を教えることでよかったのでは?」
「フフンフンフーン!」
鼻歌で誤魔化しておいた。




