017 :// 土器作り
今日はまた別の作業をしている。
家作りに必要になる土器を作るとニャスタから指令が下り、川近くから粘土と謎の砂を集めてきた。
川は近いのでいいのだが、問題は容器だ。
そう、容器が椰子の実っぽい殻しかないので、大量な物の運搬に適していない。
つまり何度も往復しなければならないのだ。
そんな訳で足がちょっとマナーモードが如く、疲労でブルブルと震えている。
早く異世界っぽい、森を歩きやすい靴が欲しい。
持ってきた粘土と砂を詰んでいた平らな岩の上にクロアも乗っかり、作業を始める。
粘土と砂、そして水を少しだけ混ぜて、こねる。
小学生以来だ、この動き。と郷愁にかられた。
ざらついた粘土はこねていくと、それっぽくまとまりが出てきた。
「にゃす~」
ニャスタがえいっと短い手を振ると、岩の上に土器のホログラムのような立体映像が表示された。
どういう仕組みか謎だが、どの方位から触っても映像が途切れない。
不思議だ。
「これに沿って作れって?」
「にゃすにゃす」
満足そうに頷くニャスタ。
どうやらこの立体映像が製作ガイドラインらしい。
「ふむ。万年美術5の力を見せてやろう」
そこまで好きだった訳ではなかったが、何故か最高評価を落としたことがないクロア。
手をわきわきさせて作業を開始する。
作った粘土を手で広げ、底を作る。
手で押し広げただけではボコボコなので、拾ってきた石で面を整える。
底が出来たら、側面だ。
粘土を千切って手に取ったら、棒状になるよう手で転がして伸ばす。
細長い紐状になったら、底のフチにのせるようにして丸める。
また別の細長くした粘土を、その上に乗せる。
この繰り返しだ。
時折、ちょっとだけ水を混ぜて馴染ませてやる。
順調に高さが増えていった。
「クロア、何してんだ?」
「土器作ってる-。見たまえ、このフォルムを。どーだ、美しいだろう」
「私もやりたい!」
「これは家作り道具だからね、みんなは食器作ってくれない?」
「食器、ってお皿?」
「うん。スープを入れる深めの皿と、果実とか乗せる平べったいお皿。あとフォークとスプーンとかあるといいよねー」
そういえば前に食事の際に話したが、この世界の一般的な食器はフォークとスプーンらしい。
期待していなかったが当然箸というものはないようだったので、あとでササッと作ろう。
子供たちも参加して、ひたすら土器作りに励んだ。
木の枝を集めたら、その上に土器を置く。
さらにその土器を覆うように木の枝で囲み、土器が見えなくなったら枯れ葉を大量に掛ける。
「『燃えろ【火】』!」
このまま火が燃え切って鎮火したら、焼き上がり。
土器の作り方など知らなかったが、結構雑でいいんだなと思った。
待ち時間になるので、皆で火を囲んで休憩した。
「ラーシスってさー、まだオルウェン信頼できないの?」
ふと思い出して聞いてみた。
シグとリーシアは、もうオルウェンに対して精神的な距離はない。
ラーシスもクロアにはすぐ慣れたのに、今回ばかりは随分かかるのが不思議である。
「信頼できねーよ!」
「オルウェン、いい人」
「そーだよ、お兄ちゃん! オルウェンはポタイモの皮だってむいてくれるのよ!」
いい人である証明が、芋の皮むきってどうなんだ。
話がそれてしまう気がして、すかさずクロアが言葉を挟む。
「なんで?」
「なんでって……」
ラーシスはムスッとしてそっぽを向いた。
「なんか、アイツの方が壁作ってるってーか、嘘くさいってか……よくわかんねーけど、胡散臭ェんだよ」
「そーゆーことかー。じゃあ仕方ないねー」
「えっ? そうなの?」
納得は出来た。
クロアもそれは感じていて、あえて放置していた。
それはオルウェン自身の問題で、他がとやかく言うものではない。
あまりにも問題になるなら忠言した方がいいかもしれないが、出来れば本人に解決して欲しい。
その方が色々と後腐れもないだろう。
異世界でも人間同士というのは複雑なんだなと、少し厭世染みた気持ちになった。
「おー! 出来るもんだねー」
その後、燃えカスを除けてみるとしっかり出来上がった土器が出てきた。
まだほんのり温かい壺を指で叩くとコンコンといい音がする。
地面に落としたら割れそうだが、水漏れもせず申し分ない。
実に順調である。
「食器も出来てんのか?」
「うん、ホラ。ちゃんと出来てるよー」
ラーシスに促されて、子供たちに作って貰った食器たちが埋もれているあたりを掘り返す。
「ん? あ、コレ割れちゃったみたい?」
焼き場の端っこの方に、歪なものがいくつかあった。
残念ながら焼き途中で壊れてしまったらしく、元の形状も何かわからない。。
持ち上げて子供たちに見せると、リーシアが何かを我慢するようにぷるぷると震えていた。
どうやら制作者はリーシアだったようだ。
「また作ればいいしさ? 気にしない方がいいよ、リーシア」
「………………もん」
「え?」
「…………壊れてないもん」
「ん?」
壊れていない。
どういうことだと頭に疑問符を浮かべて、数秒してから気がついた。
(最初からこのカタチだったのか!?)
事実に気付いて、クロアは口をぱくぱくさせた。
たぶん、単純に超絶不器用だっただけだ。
ニャスタのガイドラインもあったが、一人だけ明らかに逸脱したものを素で作ってしまったのだ。
知らなかったので壊れたもの扱いしてしまった。
ここまで言ってしまったら、どうフォローしていいものか。
泣いてしまうのではというリーシアを前に、焦りで冷や汗がダラダラと垂れた。
(た、たたたたすけて……)
励ましがたいレベルの形状に口ごもったクロアは、さりげなく遠くから見ているオルウェンに強い視線を送った。
「……スプーンだろう? 個性的でかわいいな」
「!!」
苦笑いでやってきて言ったオルウェンの言葉に、リーシアが驚く。
「わかるの!?」
「あ、おう。ここの、このあたりがスプーンにしか見えないだろ? 上出来だよ上出来。うさぎみたいで可愛いぞ」
オルウェンの顔を見るに、たぶん消去法で判断したっぽい。
さりげなく褒めていくことでリーシアの泣き出しそうな顔が少しずつなんとか通常に戻り、すごいの一言に尽きる。
クロアは心の中で拍手した。
感謝しつつ、ラーシスの先程の言葉に心から納得した。
なるほど、オルウェンは嘘つきだ。




