016 :// 魔導AIのチカラ -2-
早速木を伐採したいところだが、ニャスタの指示により下準備からだ。
まず大人組は川辺へと向かった。
ニャスタは相変わらず喋りたくないようで、魔導ディスプレイに文字や動画を流すことで説明と指令を出すことにしたらしい。
一通り説明され、最初の指令は、石灰石を集めて粒にしろとのことだった。
石灰石と言えば、聞き覚えがある。
黒板に使うチョークや体育のライン引きの白い粉だ。
鉱物としては、白くて部分的にキラキラしている石だった気がする。
小さい頃に拾って宝物にしたのは、おそらく自分だけではあるまいとクロアは思う。
川辺に着くと1人に1ニャスタがつき、小さな魔導ディスプレイがゴーグルかの如く眼前に出された。
このディスプレイを通して見ると、石灰石が光って見える。
感覚的には、ゲーム画面で拾えるアイテムを示すエフェクトだ。
「こ、これがRPGの世界かー!」
「こいつは便利だな」
夢のある表示に、クロアは目を輝かせて拾った。
石灰石は結構大きく、小脇に抱えるほどのサイズのものが多かった。
拾った石灰石はニャスタの指示で、大きい黒い岩の前に集めて置いた。
この黒い岩に打ち付けたり、欠片で叩くことで割り、小石にするらしい。
艶のある黒い岩は、叩いてみればカンカンと高い音を返し、確かに硬そうだ。
斧では刃を傷めそうだし、これが最も良い加工方法なのだろう。
石灰石を叩きつけると、確かに割れるのだが。
元が大きいものは、何度も叩き付けなければ割れない上に、手で握れるサイズにしなければニャスタのOKを貰えない。
大人組は徐々に疲労で笑顔を失っていった。
「オレ事務仕事……だったからなぁ……きっついわ……」
「同じく……」
「えっ……まさかの全員……軟弱インドアか……」
まさかの大人組全員が内勤インドア派だったことが判明した。
この腕の感じ、明日の筋肉痛は間違いない。
日が高くなったので中断し、一度昼食のために拠点に戻ることにした。
寝泊まりは洞窟だが、食事などは住居建設予定地で行っている。
子供たちはすでに食事の準備をしてくれていて、大変ありがたい。
肉体労働後の食事は、体によく染みこむ。
食事をしながら子供たちの話を聞くと、ニャスタは大活躍だったようで、いつもの半分以下の時間で戻ってこられたらしい。
短時間なのに果物は山盛り採れており、見たことが無いものも混じっている。
定置網では魚の数が足りなかったが、そちらでもニャスタグラス(RPG的なディスプレイ機能をクロアが命名)により、魚がすぐに見つかったのだとか。
夕飯の分も充分とのことなので、この後の作業に子供たちも合流してくれることとなった。
それから加工した石灰石を本拠地まで運び、疲労で大人たちが倒れていると日が沈み、一日が終了した。
■□
翌日。
大人組は全員が腕や腰の痛みを訴えたが、子供たちに尻を叩かれた。
どこの世界でも子供のパワーとは恐ろしい。
石灰石は子供たちの手伝いのお陰で完了したので、今度は窯を作れとのことだ。
別の場所に案内され、指定の石を拾う。
今度はボーダーシリカという名の石で、深い青色と灰がかった白色による層状の見た目が特徴だ。
これは案内された小さな崖付近に多く落ちており、拾うだけなので比較的楽な作業だった。
拾ったボーダーシリカを拠点まで持ち帰ったら、次は土掘りだ。
シャベルなど勿論持っていないので、拾いものの椰子の実っぽい殻で掘った。
深さは4、50cmほどだろうか。
穴は深すぎなくてよいそうだ。
汗だくになって掘った穴の壁と床にボーダーシリカを敷き詰めていく。
土に埋めこむようなイメージでみっちりと詰めると窯の完成。
「ホントにこんなんでいいの?」
「にゃす」
クロアの中で窯と言えば、レンガでドーム状にしたものや煙突があるものだったので、本当にこれでいいのか怪しんだ。
ニャスタに仕組みを聞いてみると、ボーダーシリカという石が遠赤外線となんとか線(日本語に変換されなかった)を発するので、密封性がなくとも高温に出来るということだった。
よくわからないが、正しい窯の作り方も知らないのでニャスタを信じるしかない。
「それで、この窯に石灰石を入れて焼けって?」
「どれくらい焼くんだ?」
「にゃす~」
ニャスタの頭の上に、2日という文字が浮かぶ。
「2日!?」
「寝ずに火の番だと!? やだー」
ニャスタが首を振ると、ディスプレイでムービーが動き始めた。
窯の隣にニャスタが表示され、木の枝を投げ入れる。
「火の番はニャスタがやってくれるようですね」
「やったー!」
「よかった……!」
睡眠の心配はしなくて済んだが、充分な木の枝が必要になる。
着火が出来るラーシスを待ちながら、大人組は木の枝拾いをした。
昼食後。
ラーシスが窯に火をつけてくれたので、石灰石はニャスタに任せて一旦放置だ。
ここからはクロアが別行動。
オルウェンとベルガミュアは、ついに木の伐採を行う。
なぜ別行動になるかと言えば、太股の傷も治りきっていないこともあるが、一番の理由は切った木を運ぶのに1人だけ身長が低いクロアが入ると運びづらいためだ。
身長の近いオルウェンとベルガミュアの方が、バランスがとりやすい。
「身長が低いとは失礼だなー」
「では代わりましょうか?」
「いえ、ダイジョーブです」
目測ではオルウェンとベルガミュアは175cmくらいだろうか。
150cm台のクロアとは骨格の違いさえ感じる。
故郷にいる時から日本人だからと諦めてきたが、不条理だ。切ない。
2人に別れを告げ、作っておいた背負いカゴを抱えてニャスタと森を進んだ。
ニャスタが魔獣の接近を警戒してくれるので、今までより気持ち的に歩きやすい。
かなり歩いて、草原に辿り着く。
「わー」
金色の草原だ。
故郷で見かけたことのない景色に、感嘆の声が漏れた。
「ん? まさか小麦!?」
金色と言えば小麦だ。
大発見かもしれない、と慌てて草原を調べる。
加工されていない小麦を見たことがないが、稲穂のようなものを発見してドキリとした。
「ニャスタ、これって小麦!? もしかして食える!?」
「にゃす~」
ビー、という音がしてディスプレイが開かれる。
図鑑の如く写真と灰麦という名称が表示された。
詳細には小麦によく似ていることと、毒性があるので非食用であることが書いてあった。
期待した分、がっくりと肩を落とす。
「……それでこのニセ麦を持ってくの?」
借りてきたナタで刈り取っては背負いカゴに入れた。
農業の刈り取りと言えばハードなイメージがあったが、そんなに量が必要な訳ではないのでさほど苦労せずに済んだ。
早々に食えもしない麦とは別れを告げ、ニャスタの導くままに森を進む。
思えばだいぶ楽になったものだ。
何の準備もない状態で見知らぬ森に放り出され、獣が怖くて眠れなかった日を思い出した。
あの頃はこんなに惨めな勇者ないわと思っていたが、ニャスタのお陰でやっと安全が当然の日常が近付いた。
きっとニャスタこそが勇者召喚時のサービスなのだ。
たまに踊るような仕草を見せたり、様子を窺うようにチラリとこちらを見るニャスタはただのゆるキャラだが、まだ様々な可能性を秘めている。
落ち着いたらきちんと機能について調べなければと思う。
そして辿り着いたのは、特筆すべき特徴もない森の中。
到着したという合図らしく、ニャスタがクロアの周りをくるくると飛び、困る。
「何もなくない?」
「にゃす!」
するとニャスタが木の根元へとふわふわ飛んでいき、ディスプレイを出した。
毎度の図鑑では草のようだが、下まで見てクロアは目を見開いた。
「芋!!」
目の前の草の下に芋があるとは、誰が想像しようか。
このポタイモという名の芋、ニャスタによると食用可。
念願の炭水化物だ。
ニセ麦でかなりガッカリしたが、芋を見た瞬間に悲しい記憶は消し飛んだ。
早速、土を掘り引っこ抜く。
根についてきた塊にクロアは目を輝かせた。
ゴツゴツとした掌サイズの芋は、見た目はジャガイモに似ている。
「た、炭水化物だぁ……!!」
「にゃっす~」
泣き出しそうなクロアの喜びようを見てか、ニャスタも踊りを始めてわいわい騒ぐ。
もちろんニャスタの指定数以上に、カゴに山盛り詰め込んだ。
それから最後に灰色の木の、妙にねっちょりした樹液を取らされてから、拠点に帰った。
既に皆が戻ってきて話をしていた。
「クロア、おかえり」
「おかえり~! それなに!?」
「ポタイモじゃねーか!? 珍しい!」
「ラーシスたちは王国出身か? ダエアじゃよく見るけどな」
「ダエアってどこ?」
「神聖国さ。オレの出身国。シグもか」
ポタイモはベルガミュアも含めて、皆知っているようだった。
ラーシスたちの村の近辺では土が合わないらしく、商人が時折持ってくる珍しい芋なのだそうだ。
やはり焼くかスープ煮にするのが一般的な食べかたとのことなので、味の確認もあって今日は焚き火で焼いた。
火で炙った芋は表面が茶色く焦げ、ぽろぽろと皮が取れる。
あつあつと手で転がしてかじりつく。
熱くて、ほくほく。
口の中でほろりとほどける芋は、じんわりと優しい甘みがある。
ほんのり土臭いのも、むしろ甘みを引き立ててくれる。
塩かバターが欲しくなるこの味は、ほぼじゃがいもだ。
クロアはいつか油を入手し、この芋たちをカリッカリに揚げてやることを決意した。




