課題1 : 病弱な身体
僕は地面に手をついたまま、息を整えようとする。
「は……は……?」
シャドさん。やっぱ不器用なあんたには無理だよ。
まあ、頼んだのは僕の方だし——初めての“師匠”という経験だから、自分より弱い人に対して、調節が難しいんだろうけど——。
「……『加減してくれ』ってか?」
僕の心を読んだみたいなタイミング。
シャドさんは声を大きくした。
「そう……ですよ。ゲホ……死んじゃいます!」
僕の必死の訴え。だが、シャドさんは表情を変えてくれない。
——どうせ、ベタなあれだろ?
『本当の戦場で、敵は加減してくれない』ってやつ。
「いいから、やってみろ」
「ゲホ……。はい……」
その通りだけど、違うんですよ。
その考えは、“普通の人”に対して適応すべきものだ。
病気に関しては、どうしようもない——!
僕は、悪い意味で“普通”じゃないんです。
「ゴホッ! はぁ……はぁゲホっ、ゴホッ‼︎」
——ああ。何だか、さらに苦しくなってきた気がする。
ドリあえず、言われるがまま、やり直した。
ダガーを投げる。そして、殴る。
だが、やはり——全てが、掠りもしない。
ドン!
僕はまたまた、膝をついた。
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
「だから……無理ですって……!」
『本当の戦場で、敵は加減してくれないぞ』
シャドさんの声だ。
(ほら、やっぱりそう言う——!)
いや……何かがおかしい。
シャドさんの口は、微動だにしていなかった。だとしたら……その声は、脳内で勝手に聞こえていただけ? ああ、もう限界だろ。
「あああああ!!!」
これ以上続ければ、本当に死ぬかもしれない。
本当に、やめましょう!?
敵に勝てるようにするのが、修行でしょ?
だから——この戦いの結果は“死”。
一旦リセットして、万全の状態にしましょうよ!
そう思った時。
「お前の“それ”は、本当に『病気』なのか?」
再び、シャドさんの声。
——また空耳?
かと思ったが、違う。今度は……彼の口が動いていた。
「俺の知る限り、お前がその発作症状を出したのは“自殺未遂”以来だ」
え……そうだっけ? あの時から、なってなかったっけ?
戸惑う僕を横目に、彼は淡々と続ける。
「ジェムから『カビが生える病気』と聞いたが——お前の“それ”は、病気ではなく“感情”の問題じゃないのか?」
「……は?」
ちょっと待ってください。それが事実ならば、今までの苦労は……!?
身体にカビが生える……このクソみたいな病気がなければ。周囲から偏見の目を向けられることもなく、家に引き篭もる必要なんてなく。僕の人生は“普通”だった。
(そんなわけないだろ……!?)
そう言い返そうとしたのだが——『病は気から』という言葉がある。
父さんが僕を看病する時、励ますためによく使っていた。
もしかしたら、“師匠”の言う通り……なのかもしれない。
身体から生えているカビに、そんな害はない? 日常生活では、倒れるほどに支障をきたすほどの、発作症状は……なかった?
だって、生えているカビは常に一定なのに——咳き込むのは、決まって絶望している時だった。
病気の、せいじゃない……?
そう思った時、喉の奥が少しだけ楽になる。
それを見て、師匠が僕を見下ろす。
「……咳が止まったようだな?」
「は……い……ぇ……」
少しだけ沈黙。それから、言う。
「原因が“感情”ならば、お前はもう絶望するな」
僕はふらつきながら立つ。
「いや……そんなの、どうやって?」
僕の実力では、すぐに絶望的な状況になってしまう。
そうならないためには——?
うだうだ考える僕に呆れたのか。
師匠はため息をついた。
「絶望する余地がないほど……強くなればいい。そのための修行だろ?」
——あ。
「まずは、体力をつけろ。基礎がつけば死ぬ確率は減る」
(……うう、反論できない。)
そして、彼は背を向け言った。
「筋トレ、毎日“全種300周”だ」
「……え?」
僕は目を瞬かせる。
「300!?」
思わず声が裏返った。
背を向けた師匠は、クスリと笑う。
「ちなみに、これでも少なくしてやった方だ」
「え、ええ〜……」
腕立て、腹筋、スクワット。
分割して休憩を挟んで良いとはいえ、合計900回はやばすぎる。
——僕の修行に、“地獄の作業”が加わった。




