修行の成果?
【前回の登場人物】
「アリ店長のクローン」
(種族)ムシ・スシ
(年齢)43
(能力)砂糖を操る
(概要)ジェムの元仲間の複製体。働きアリを引き連れ、街を襲撃している。
「ヒアリ店長のクローン」
(種族)ムシ・スシ
(年齢)43
(能力)毒粉を操る
(概要)ジェムの元仲間の複製体。子ヒアリを引き連れ、街を襲撃している。
黒と赤の巨大な蟻が、無言のままこちらを見ている。
——動かない。
さっきまで街を破壊していたはずなのに?
僕を警戒しているのか?
風が、やけに静かだった。
甘い匂いだけが、残っている。
「……なんだよ」
嫌な感じだ。
まるで——
試されているみたいだ。
歓迎されているようで、一度入れば抜け出せないような……
そんな、がめつい商売人のような雰囲気。
喉が鳴る。
”逃げろ”とどこかで声がする。
でも……!
視界の端に、白に覆われた隊員たちが映る。
助けを求めている。
——僕がここでやらなきゃ。
息を吸う。
……甘い匂いが、肺にまとわりつくけど!
「『ツルピカフラッシュ』」
閃光が弾ける。
この隙に、僕から仕掛けてやる。
だが——黒い蟻は。
まるで予測していたかのように、鉢巻で目を覆っていた。
「は?」
そして、光が収まってしまった、
——まずい。
この瞬間は、逆に僕が隙だらけだ。
「…………!」
黒い蟻の腕が、振り上がる。
——大技だ。地面が軋む。
振り上げた腕から、白い粒子が一気に拡散した。
「っ……!」
その粒子は雪のように、降り注ぐ。
「隊員さん達を固めた技………!」
だが、あの粉自体が”固める効果”を持っているわけではないようだ。
既に地面に触れている粉は、硬化せずに散らばっている。
ならば……人体にのみ反応するのか?
僕は試しに、人差し指で地面の粉に触れてみた。
指だけなら固まっても支障はない、が……
——固まらない。
と、いうことは……?
「奴の意思で、硬化するかを選んでいる……⁉︎」
僕は問いかける。
「……」
黒い蟻は無言。
図星? ……いや、クローンは感情などないか。
「やりにくい相手だな……!」
意思を介するとはいえ——
触れたものを固め、逃げ場を奪う技に違いはない。
降りかかる粉を防ぐために。
”傘”を用意しながら戦おう!
「ふぅ……」
僕は息を整え、”能力”の発動準備を始める。
「ひとつの声は風に消え ふたつの想いは空に散る
みっつの祈りが重なる時 道なき道が開かれる
私の声を標とし 今ここに血の力を」
——呪文。
父さん以外の場合は、これが必要である。
面倒だが……今は落ち着いて実行しなければ。
「『隆起』!」
僕は叫び、足元を踏み抜く。
——土台モンの力。
地面が盛り上がり、そのまま頭上へとせり上がった。
「完成、即席の傘!」
降ってきた白い粉は、バラバラと傘にぶつかる。
よし、これで僕に付く心配はない!
見ると、黒い蟻は両手を合わせて握るような所作をしていた。
その直後、頭上の傘が白く固まる。
「当たってたら……終わってたな」
息が荒い。
だが、動ける。以前までと、違う。
単純な範囲攻撃。
——傘を展開し続ければいい。
そう思った瞬間……!
違和感。
足元が、おぼつかない。
「……?」
視線を落とす。
脹脛に、赤い粒が付着していた。
——これは、毒の粉⁉︎
ジリジリと、足を蝕み始めている。
「いつの間に……!」
敵は一人ではなかった。
粉が浴びせられる方向は、上だけと思っていた。
足が、ガクガクと震える。
敵がクローンでなければ『子鹿のようだ』と馬鹿にされていただろう。
「ふざけるな」
少しずつ、削られている。
——助けて。
不覚にも、シャドさんの方を見てしまった。
彼は隊員さん達を助けるのに手一杯だというのに。
『何があっても手は出さない』と言われたのに。
僕が震えている隙に……赤い蟻が動いた。
「…………」
一瞬で、距離を詰められた。
その体から、淡い粉が広がる。
甘い匂い?
だが、黒蟻のやつよりも濃い。
「固めた後に……毒で仕留める、か」
無言のくせに、やることはえげつない。
——確信した。
この二人の連携は、単騎では対処できない。
僕が寝ている間に、師匠が手を出さなかったことも頷ける。
「それでも、僕が任せられた理由は——」
分析しつつも、僕は距離を取る。
足が重いが、努力を信じて何とか動かした。
「ひとつの声は風に消え ふたつの想いは空に散る
みっつの祈りが重なる時 道なき道が開かれる
私の声を標とし 今ここに血の力を」
——再び、呪文。
この状況には、”彼女”の力が必要だ。
「打ち消してくれ、ミツバ!」
叫びと共に、手を振り抜く。
「『浄化の花粉』!」
——技名は聞いてないから仮付けだが。
手のひらから、淡い光が弾けた。
花粉の粒子が、毒の粒子へと突っ込む。
「…………っ!」
僕が任せられた理由——
それはおそらく、四人分の力で対応できるから。
『浄化の花粉』が触れた瞬間、毒は静かに消えていった!
——しかし。
まだ、僕の力は不安定だった。
「切り替えたから……”傘”が制御できない⁉︎」
頭上の地面は瓦礫となって、僕に降り注ぐ。
幸い、量は少ない。
埋もれてしまうことはないだろう。
だが、傘が無ければ白い粉をくらう!
「だったら——」
瓦礫を抜け、毒の薄い方へ、踏み込む。
咳が出る。
喉が焼ける。
「げほっ…ごほっ…!」
だが、これは毒粉のせいだ。
「”絶望”じゃない……!」
僕は、止まらない。
白い粉で、硬化させないためには——
距離を詰める。
作戦を考えながら、黒い蟻へ。
「手を握らせる隙を与えなければどうかな?」
ダガーを抜く。
投げるような構えでビビらせて——
実際には、投げない。
……懐に入り、振り下ろす。
ギィン!
「っ……! 嘘でしょ⁉︎」
細い腕なのに、弾かれた。
想像以上に、硬い。
そのまま、腕が振り上げられる。
この蟻、肉弾戦も得意なのか⁉︎
「やばっ……!」
咄嗟に、地面を蹴る。
——無理やり後ろへ跳んだ。
だが。
背後には赤い蟻が構えていた。
毒粉が腕に、付着する。
重い。
痺れる!
このままじゃ、負ける!
「『浄化の粉』!」
自分の身体に粉を振り撒き——
死に物狂いで距離を取る。
呼吸が荒れる。
流石は、隊長の元仲間だ。
——削られてる。
修行の成果で、かっこよく圧勝……
なんて訳には、いかせてくれない。
このままじゃ、ジリ貧だ。
だけど——
僕にはそんな戦い方が丁度いい。
「まずは、身の丈に合った成果を出そう……」
短期決戦。
どっちか一体を、先に落とす。
視線を上げる。
身体を固める黒い蟻。
毒を浴びせる赤い蟻。
どっちにする⁉︎
——いや、悩んでる暇はないか。
厄介な、”動きを止める方”を潰す。
「ひとつの声は風に消え——!」
——呪文。これを終えれば大技を打てるが。
この最中は、隙だらけだ。
「…………」
「…………」
三度目。学習したのか?
当然のように、奴らは殴りかかってくる。
黒い蟻の腕が振り下ろされる。
地面が砕け、衝撃が足に伝わる。
紙一重で横へ転がる。
「ふたつの想いは空に散る——」
立ち上がる暇もない。
赤い蟻が間合いを詰めてくる。
腕を振るうと同時に、毒の粉が舞った。
「っ……!」
咄嗟に息を止める。
視界が滲む。
それでも、止まれない。
「みっつの祈りが重なる時——」
足に力を込めた。
スクワットの要領でしゃがみ込み——
踏み込む。跳ぶ。
白い粉が頭上をかすめる。
さっきまでいた場所が、白く固まり砕け散る。
着地と同時に膝が軋む。
——遅い。まだ遅い。
「道なき道が開かれる——」
赤い蟻が目前に迫る。
すぐに腕が振り上げられる。
——間に合わない。
それでも。
歯を食いしばれ!
「私の声を標とし——」
その時、赤い拳が顔面に炸裂する——!
……痛い。逃げたい。
けど、止める訳にはいかない。
一歩、踏み込む。
「い……ま、ここ……に血の力を——!!」
黒い蟻へ、拳を向ける。
右手の甲に、熱エネルギーが集まる。
——この場に眠る死者の怒り。
「『人魂シュート』ッ‼︎」
青白い炎を弾状に。
それを……発射する。
逃がさない。
こいつは複製体だし、何より……隊の人々を傷つけた。
隊長、ジェムさんの元仲間だからって……
「遠慮はいらない!!」
僕は今を生きる仲間のために、戦う。
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