表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/73

ベタな修行

【前回の登場人物】

「ジェム・カブリ」

(種族)ムシ・ドラゴン

(年齢)18

(能力)龍の爪や翼、カタツムリを操る

(概要)探検隊の隊長。カビ助の父親の弟子。


 久しぶりの作戦会議を終え——

 城を出ると、空気は少しだけ冷たかった。


 真昼なのに、青空が見えない。

 雨は降っていないが、気味の悪い曇天だ。


 僕とシャドさんは、城門を抜け——

 そのまま街の外へ歩いていた。


 しばらく無言で進んだあと、僕はようやく口を開く。


「……あの。どこに向かってるんですか?」


 シャドさんは歩きながら答える。

「街中じゃ被害が出るだろ?」


 周りに被害が出る修行——?

 嫌な想像が頭をよぎりながらも、僕は頷いた。


「修行場所は、”あそこ”だ」


 そう言って顎で前を示す。


 街の外れ。

 街路が途切れたその先に——


 ”巨大な穴”があった。


 地面が抉り取られたような、円形の——

 いや、正確には半円状の窪地。

 家が何十軒も入ってしまいそうな広さだ。


 僕は思わず足を止めた。

「これ……!」


 前に聞いた話だが——

 ラッシャイタウンは十八年前に一度、滅んでいた。

 『ブラックホール』という大規模災害に襲われ、”全て”が抉られた。


 最近になって復旧したのだが——

 これは、その時に空いた巨大なクレーター。その一部だ。


 現在の街はクレーターを埋め立てた跡地に建っている。

 だが、当時の凄惨さを忘れさせないため——

 ラッシャイ市長は、これを埋めずに残しているらしい。


 シャドさんは穴の縁まで歩くと、振り返った。


「ここなら、いくら壊しても構わない」


 そして、軽く手招きする。

「降りろ」


「はい?」


「修行だろ」


 ……ですよね。

 僕は斜面を滑りながら、クレーターの底まで降りた。


 土と岩がむき出しの地面。草もほとんど生えていない。

 闇の残穢も感じる気がするほどに不気味だ。


 ——こ、こんなところで?


「師匠、何をすればいいんです?」


 シャドさんは大穴の中央に立つと、腕を組んだ。

 ——それから、あっさりと言う。


「まずは、俺に一発入れてみろ」


「……え?」


「ベタな修行だろ?」

 あまりにも当然の顔だった。


 ——あのシャドさんに、攻撃を当てる?


「無理……、じゃないか」


 僕は一度息を吸う。

 ——そして、構える。


「やるしかない!」


 僕は地面を蹴った。


 走る。師匠めがけて。

 距離を詰める。


 そして、拳を振りかぶる——

 次の瞬間。


 視界が揺れた。


 ドン!

 背中に衝撃。


「ぐっ……!」


 いつの間にか、僕は地面に倒れていた。

 シャドさんは、元の位置からほとんど動いていない。


「もう一度だ」


 短い一言。

 僕は歯を食いしばって立ち上がる。


 ——失敗しても何もなしか。


 もう一度、走る。

 今度はフェイントを——


 ドン。

 だが、また地面に倒された。


「武器を使ってもいいんだぞ?」


 また、一言。

 僕は初期位置に帰された。


「武器? 大丈夫なのか……?」


 ダガーを投げたりすれば、確かに戦術は段違いだ。

 危ないと思うけど——


 まあ、あのシャドさんなら大丈夫か。


「うおおおおおおおお!!」


 走り、ダガーを投げつける。

 コントロールは完璧——!


 だが、次の瞬間。


「……隙だらけだ」


 ドン。

 いつの間にか後ろに回った師匠に、また地面に倒された。


「ぐっ……!」


「もっと工夫してみろ」


 また、一言だけ。

 僕は初期位置に帰された。



 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎



 それから何分経っただろう。

 ——いや、”何十分”かもしれない。


「ゲホっ……ゴホッ」

 息が荒くなる。


 ——いろいろ、試してみたのに。

 未だにシャドさんに一撃も入れることができない。


 それでも僕は立つ。


「もう一回!」


 走る。距離をある程度まで詰める。

 『ツルピカフラッシュ』で視界を奪う。

 ダガーを投げる、が。

 ——これはフェイクだ。


 別の位置から、拳を振る!


 だが、全てが掠りもしない。


 ドン!

「まだまだ、だな」


 僕はまた、膝をついた。

 ——無理だろ、こんなの。


 そう思った瞬間、胸が苦しくなってきた。


「はぁ……は……」

 息がうまく吸えない。


 喉が焼けるみたいな、あの感覚。


「……っ、ゴホッ」

 咳が出る。


 何度も、止まらない。


「げホッ、ゴホッ」


 ——また、この症状かよ。


 体からカビが生える病気。

 最近は治ったと思ったら、また来やがった。


 やはり、”絶望”は——


「どうした? 立てよ」

 師匠は、冷たい声のまま一言を放つ。


「ゴホっ! 休憩させてください!」


 僕だって、頑張りたいところですけど——

 見て分かるでしょう?

 こんな状態では、継続不可能です。


 ……だが。


「言い訳、だな」

 師匠は声のトーンを変えなかった。



ゲホっ…ゴホっ…! 「ブックマーク登録」「いいね」「評価」を頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ