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父親の弟子

 ——城内。

 『探検隊』の拠点として使われている一室。


 石造りの壁。簡素な机と椅子。

 以前と違い、必要最低限のものしか置かれていない。


 その奥の椅子に——

 一人の男が、ぐったりと身体を預けていた。


「……隊長」

 思わず声が漏れる。


 彼はゆっくり顔を上げた。

 シャドさんの話によると——

 半日前に、あの『武蔵』と戦っていたらしい。


 力を使い過ぎたのか、顔色は悪い。

 それでも視線は穏やかだった。


 そしてすぐにシャドさんを見る。


「……無事に救出できたんだな」

 短い言葉だった。


 シャドさんは軽く肩をすくめる。

「まあな」


 そしてそのまま話を切り出した。

「村での件を報告したい」


 隊長は身体を起こし、静かに頷く。

「聞こう」


 ドドリ村で起こった、メドゥーサ達との戦闘。

 ——シャドさんは淡々と言った。


「奴は『ダクト』のクローンを用いて、村人達を洗脳していた」


「あ……」

 その言葉に、ピクコノさんが下を向く。

 ——彼も被害者の一人だから。


 てか隊長とシャドさんは、村に誰が来たのか知っていたんだな。

 部屋の空気が少しだけ重くなる。


 隊長の眉がわずかに動いた。

「洗脳魔王に、八岐大蛇……! 倒せたのか?」


「ああ」

 シャドさんは顎で示す。


「ギザンが魔王を、俺が大蛇を倒した」


 改めて、すごい字面だ……!

 洗脳魔王と八岐大蛇。彼らは本当に強かった。

 隊長が、”倒せたのか”と問いかける程に。


 ——ギザンさんのおかげだ。

 シャドさん単騎では、敵わなかったのかもしれない。


 それを聞き、隊長の視線がギザンに向く。

「ギザン? ああ、そちらの……」


 ギザンは静かに一歩前に出て、胸に手を当てる。


「お初に。石化されていた古代の王、『ギザン・トライアングル』と申す」


「トライアングル……⁉︎」

 隊長は聞き覚えがあったのか、一瞬目を丸くした。


「以後、よろしく頼む」


 彼の挨拶に、隊長は小さく頷いた。


 僕は隊長に補足する。

「メドゥーサの対応については、今モグドンさんが処理しています」


「そうか。モグドンなら安心だな」



 それで、報告は終わり——

 かと思った時。


 シャドさんは僕の肩を軽く叩いた。

「それともう一つ。コイツが俺の弟子になった」




「………………ええ?」


 隊長のその声は、完全に間の抜けたものだった。


 僕は思わず苦笑する。

 この反応、何度見ても面白い。


 隊長は僕とシャドさんを交互に見る。


「……どういうこと? ”真実”は伝えたんだよね?」

 あまりの衝撃に彼の口調は素になった。


 シャドさんは平然としている。

「ああ。コイツはその上で……俺を利用したんだ」


 ジェムは僕をもう一度見る。


 少しだけ目を細めた。

 それから——

 妙に納得したように息を吐く。


「……まあ。君ならやりそうだな」


 え? 

 そこで納得するんです?


 ——空気が少し落ち着いたところで。


 隊長は少し、真面目な顔になる。

「私が君のお父さんの仇として、シャドを殺そうとしてたことも……聞いたかい?」


 僕は頷く。

 聞いてはないけど、察していたから。


「……そうか」

 隊長は短く、それだけ言った。


 僕は少し迷ってから聞く。



「父さんは……どんな師匠でしたか?」


 ”ジェムさん”は少しだけ遠くを見る。

 そして、小さく笑った。


「強くて、優くて……大事なことを教えてくれたよ」


 静かな声だった。


「あの人のおかげで、今の”僕”がある」


 その言葉には、迷いがなかった。

 ——胸の奥が、少しだけ温かくなる。


 隊長はシャドさんを見る。

「これも運命、だね」


 シャドさんは鼻で笑う。

「——そうだな」



 話はそれで終わり——

 隊長は、ゆっくりと椅子の背に身体を預けた。


 部屋の空気が少しだけ緩む。

 長い報告が終わり、全員が小さく息を吐いた。


 けれど——

 隊長の視線はまだ仕事の顔のままだった。


 彼は一度、部屋の全員を見渡す。


 ゴハート。土台モン。ギザン。ピクコノさん。

 そして僕と、シャドさん。


 隊長は静かに口を開いた。

「二人が修行してる間に——」


 その声は、さっきまでの柔らかいものとは違う。

 『探検隊』をまとめる”隊長”の声だった。


 僕は思わず背筋を伸ばす。


「私は散り散りになった探検隊員たちを、集結させる」


 石化事件のせいで連絡が途絶えたため、隊員たちは各所に散っている。

 状況は、まだ完全に落ち着いたわけじゃない。


 隊長は指を軽く組みながら続ける。

「ゴハート&土台モンは、石化した人々を集めてくれ」


 二人は顔を見合わせる。


 そしてゴハートが、いつもの余裕のある笑みを浮かべた。

「分かったよ」


 土台モンも穏やかに頷く。

「任せてください」


 僕の成長には、”仲間”が側にいない方がいい——

 たぶん隊長は、そう想定しているんだろう。


「今は敬称は省かせてもらいますが——」

 彼は次に、部屋の端に立つ二人へ視線を向けた。


「ギザン&ピクコノは、二人が集めた石化の解除をしてください」


 この大陸には、まだまだ石像が残っているらしい。


 田舎村から都会街、森林の中まで。

 メドゥーサが残した影響は大きい……!


 以前まで普通に生活していた人たちが——

 そのままの姿で残されている。


 彼らが腕を組み、静かに頷いた。

 この大陸に残された、石化解除の希望。


「了解だ」

 ギザンの声は低く、頼もしい。


 ピクコノさんも少し真面目な顔を見せる。

「分かったべ、隊長さん」


 この二人なら任せられる。

 ——いや、彼らしかいないのだ。


 隊長は一度、目を閉じた。


 武蔵との戦いの疲労が、まだ身体に残っているはずだ。

 それでも、声には迷いがない。


 そして最後に——

 僕の方を見た。


「……じゃあ、カビ助くん——」


 さっきまでの隊長の声とは少し違う。

 ほんの少しだけ、優しかった。


「シャドの修行、頑張ってね」


 僕は小さく息を吸った。

 胸の奥で、何かが静かに燃えている。


「はい!」


 シャドさんが横で笑う。

「俺も、初めての経験だからな?」


 僕もつられて笑った。

「ええ。加減は期待してません」


 こうして——

 僕の修行が、始まる。



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