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想い意志

【前回の登場人物】

「ゴハート」

(種族)ゴースト

(年齢)9 ※転生してからの歳

(能力)人魂を呼び出す

(概要)カビ助の気持ちが増幅して召喚された"仲間"。石化させられた。


「土台モン」

(種族)モンスター

(年齢)173

(能力)土台の設定変更

(概要)カビ助の気持ちが増幅して召喚された"媒質"。同じく、石化させられた。


 ——絶望の雰囲気が、周囲を覆う。


 叫び声が、次々と途切れていく。

 ゴハートの石像も、人波の向こうに飲まれた。


 それに気を取られていると、ピクコノさんの一撃が骨に響く。

 ……膝をつく。


「ゲホっ……ゴホッ……」

 息が、うまく吸えない。


 ——やはり、強い。

 村人たちは統率され、無駄がない。

 魔王は無言のまま、圧力を放ち続ける。


「もう終わりですよ? ここから何ができると言うのです——」

 メドゥーサは、ただ微笑んでいる。


「地中班長も、カブ太くんも。誰も戦意なんて残っていません」


「でも、死ぬまで試してみるさ」


 僕がそう言うと、彼女はため息をつく。

「はぁ……カビ助くん」


 その声は、やけに澄んで聞こえた。

 まるで、生徒を諭す教師のように。


「あなたは、今まで()()()()()()()()だったじゃないですか——」


「……っ!」

 痛い所を突かれた。


 僕の技は『ツルピカフラッシュ』だけだ。あの技は、ただの目眩し。

 ——敵を倒す力ではない。


 僕は今まで、絶望に立たされた時……自分の力で立ち直ったことなど一度もない。

 隊長、ゴハート、博士、ミツバ、カルマさん、土台モン。

 ——彼らの言葉と、力があったからここまで来れたんだ。


 物語の主人公なら、ここで敵を驚かせる、『新技』の一つでも繰り出すのだろうけど。

 僕らは目の前の任務のことばかり見ていて、そんなもの考えていなかった。


「修行、しとけば良かったなぁ……」


 カブ太は膝をつき、目を塞いで震えている。

 ゴハートも、土台モンもいない。

 モグドンさんも、傷だらけで……肩で息をしている。


「何か……ないか。この状況を、どうにか……!」


 僕の額に、冷や汗が垂れる。

 ——絶望。


 いつもは、冷や汗より先に涙が垂れていた。

 何も考えず、ただ現実から目を背けるだけ。こんなに焦ったことはなかった。


 その時。

「石化を解きたいですか?」


 メドゥーサが語りかける。

 ——僕は咄嗟に頷いてしまった。だが。


「ふふ、残念。私の力は、人体の周囲を石で固めるだけ。解除はできないのです」

 奴は、笑うだけ。


「だったら、どうやって解くんだ」

 敵が希望をくれるとは思わないが、念の為尋ねる。


「それは貴方もご存知でしょう? 『ドリル族』の力を使うんですよ」


 だが……それは、お前たちが誘拐やら洗脳やらで潰した芽だろう……⁉︎


 モグドンさんのドリルでは、中にいるゴハート達は死んでしまうし。

 ——結局、奴は僕を嘲笑っているだけだった。


「ちっ……。で? なんで、早くトドメを刺さない?」


「決まっているでしょう?」

 メドゥーサの口角が急激に上がる。


「貴方達のような——心の弱い殿方の心を折るのが嗜好だから、ですよ?」


「……………っ!」

 もういい、分かった。対話など無意味だ。

 隊長が以前言っていたように……こいつらには、感情論が通じない‼︎


「もういい……カビ助……」


 モグドンさんの声。

 彼はこの(かん)、村人達に殴られ続けていた。


「何言ってるんですか! モグドンさん‼︎ 石化はまだ……」


 ん? 石化は、まだ?

 ゴハートらの他に、この村のどこかで見たような——


 その時。石像に意識を向けた時。

 ——視界の端に、一つの石像が映る。


 学園の校庭にあった、待ち合わせの目印。

 よく知らない、英雄らしき男性の石像。ずっと、ただの飾りだと思っていた。


 でも……。もしかして。

 この星では、()()()()を持つ者だっている。


 胸の奥が、ひとつ鳴る。

 ……可能性。根拠はない。


 けれど……今は!


「モグドンさん!!」

 すぐに叫ぶ。


「一か八か、あの石像の“核”を破壊してください!」


「はぁ⁉︎ 俺のドリルじゃ、中身ごと粉砕するって言ったろう⁉︎」

 怒鳴り返す声。


 当然の反応だ。

 彼のドリルは、地盤を穿つためのものだ。それは間違いない。


 背後で、くすりと笑い声。


「ふふ……。追い詰められましたね」

 メドゥーサの目が細まる。


「藁にもすがるとは、愚かな——」


 違う。藁じゃない。


 僕は、歯を食いしばる。

「もし……あれが本当に、かつての英雄が石化したものなら」


 ——足が震える。

 でも言うのをやめない。


「モグドンさんの力にも、耐えられるはずです!」



 一瞬、静寂。



 風が抜ける。

 モグドンさんの目が、石像を見る。


 校庭の中央。腕を掲げた姿勢の、あの石像。

 何十年も……何百年も? 誰も疑わなかった存在。


「……中身が死んだら、どうする」

 低い声。


「その時は——僕が責任を取ります」

 喉が乾く。


「どうやってだ」

 モグドンさんは、僕をまっすぐと睨む。


 ——人を、殺す。

 その責任は、自殺という()()では何も解決しない。


 だから、目を逸らさない。

 ヤクザ達も、子熊のことも、忘れない。


「人を、助けます」


 メドゥーサが、それを聞き、肩を震わせる。

「ふふ……はは。幼稚な感情論ですね」


「ええ、そうです」

 視線を外さない。


「でも……あなたが一番分かってるはずだ」


 彼女の瞳が、わずかに揺れる。

 何を……誰を、思ったのだろうか。


「強い意志は、制御できない」


 空気が張り詰める。

 魔王が一歩踏み出す。僕は急いで石像に駆け寄った。


「ゲホっ、ゴホッ! く……重い……!」


「……カビ助」

 モグドンさんが立ち上がる。

 村人達を振り解き——血を吐きながら。


「俺の故郷では、紛争が絶えなかったんだ」


 彼の目は、絶望を写しているが……

 声には、光が戻っていた。


「博士と出会い、世界を知って……俺は今、『探検隊』にいる」


 (おも)い、(いし)ならば——


「モグドンさん、頼みます‼︎」

 僕は、彼の足元に向け、石像を転がした。


「後悔するなよ」


 ギュイイイイイイン‼︎

 巨大なドリルが唸りを上げる。


 地面が、震える。


 メドゥーサの笑みが、ほんのわずかに歪む。

「中ごと壊れるだけですよ」


「だったら——僕らも、英雄も」


 僕は叫ぶ。

「それまでだったってことだ‼︎」



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