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帰宅

【前回の登場人物】

「モグドン」

(種族)ドリル

(年齢)24

(能力)鼻をドリルに変形

(概要)探検隊の地中班長。フウロウから、カビ助らの引率を交代した。

********************************************



 村に入った瞬間、空気が少しだけ変わった。


 ——冷たい視線。

 それ自体は、前と何も変わらない。


「見ろよ、サボり野郎だ」

「……戻ってきたのか」

「補講がやばいんでしょ笑」

「どこに行ってたんだ?」


 道の端で、学園生たちが、声を潜めて話している。


 視線は、確かに僕に向いていた。

 ——けど。


「……なあ、隣の人」

「でかくない?」

「……ヤバそう。借金取り?」

「あいつの親父か?」

「馬鹿。あれは『ドリル族』だろ? 家族な訳ない」


 彼らの声は、途中から微妙に揺れた。


 僕の横に立つ人物。

 分厚い腕。大きな体格。地面を踏みしめるような立ち姿。


 モグドンさんが注目を集めるのに、時間はかからなかった。


「都会から来たっぽいぞ……?」

「関わらない方がよくね……」


 ひそひそ声は、すぐに距離を取る音に変わった。

 視線は残っているのに、近寄ってはこない。


「……」

 胸の奥が、少しだけざわつく。

 守られている、という感覚。それと同時に——


(やっぱり、僕は一人じゃ何もできないのか)


 そんな考えが、頭をよぎった。

 安心している自分がいる。それを、どこかで情けないと思っている自分もいる。



「ん? どうした、マスター」

 ゴハートが、気づいたように声をかけてくる。


 『いや、なんでもない』と言おうとして、口を止める。

 彼なら……何か響く言葉をくれるのではないか。


「いや、頼ってばかりでいいのかなって」


 勇気を出して、言葉にしてみた。

 だが——


「それでいいんじゃないか?」


 彼は、それだけしか言わなかった。


 前までだったら、きっとまた俯いていた。

 でも今は………それだけで、十分。



 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎



(まずは……家に帰ろう。)

 そう思ったのは、理由があったわけじゃない。ただ、足が自然とそっちに向いただけだ。


 ——モグドンさんは何も言わなかった。

 たぶん、聞かなくても分かったんだと思う。


「一旦、身支度してきます」

「おう。行ってこい」


 それだけだった。


 ——赤土の道を歩く。昔は、やけに長く感じた距離なのに……今日は妙に短い。

 家の扉を開けると、懐かしい音がした。


 ギィ……ときしむ音。変わってない。

 中も、そのままだった。

 まあ……当然だけど。家具の配置も、壁の傷も。


 そこで——

「……あ」

 床に散らばった、白いものが目に入る。


 鼻水や痰が止まらなくて当時、散乱させたティッシュ。……片付けてなかったんだ。胸の奥が、少しだけ重くなる。


「……ひどい」

 自分でそう思う。


 でも、笑えなかった。ここで、何度も座り込んで。考えても仕方ないことを考えて。泣いたり、何もできなかったりしてた。


 惨めだった、と思う。

 けど……だからって、全部間違いだったとも言えなかった。


「……まあ、必死だったんだろ」


 そんな時。

 ゴハートが小さく呟いて、ティッシュを拾い上げた。


「これがマスターの家ですか。お世辞にも素敵とは言えませんが……」


 土台モンも呟きながら、それをゴミ箱に入れてくれる。


 ——呟いた内容はちょっと……アレだけど。

 まあ事実だから言い返せない。


 適当に身支度を整えて、鏡を見る。顔は、特に変わってない。

(——別に、急に強くなったわけじゃないよな。)

 誰に言うでもなく、そう思った。


 そして、僕は玄関を出る時に……父さんの写真立てが目に入る。

 あれから大体一ヶ月……?

 誰も手入れしてなかったから、当然埃をかぶっている。


「父さん……」


 『行ってきます』は……もう言わない。返事は返ってこないから。

 ——だけど。


「絶対、また帰ってくるからね」


 それだけは、言った。

 僕は仲間と共に、玄関の扉を開ける。


 ——外に出ると、空気が少しだけ軽かった。

 何故だかやる気が込み上げてくる。


 そうだ。僕たちが帰ってきた目的は……

「……ピクコノさん」

 任務のことを思い出す。


 ドリル族の勧誘。そして、石化した人々を救い出す。

 ちゃんと、急ぐ理由があった。感傷に浸っている場合じゃない。


 モグドンさんと合流し、僕らは村の奥へ向かった。


「『ピクコノさん』っての家はわかるのか? カビ助」

「ええ。ご心配なく」


 以前泊まらせてもらったから、場所は覚えてたんだ。




 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎




 そして、数分後。

 僕は足を止め、インターホンを押す。


「ピクコノさーん! カビ助です〜」


 だが、返事はない。


「……留守か」


 もう一度ノックしてみたけど、やっぱり静かだった。

 ゴハートが後ろから覗く。


「久しぶりに会えると思ったんだけどな」

「……だね」


 少し前なら、ここで諦めてたかもしれない。

 でも——


「探してみよう。ドリあえず学園で聞き込みだ」


 自分でも意外なくらい、自然にそう思えた。

 特別な決意とかじゃない。ただ、やることが残ってるだけ。


「そうだな。他の『ドリル族』も見つかるかもしれないしな」


 モグドンさんはそう言って、僕らの前を歩き出した。




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