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教師、狂気そのもの

【前回の登場人物】

「魔王」

(種族)ダーク

(年齢)15

(能力)洗脳

(概要)ドドリ村を襲撃した怪物。死んだメドゥーサの息子の複製体。


「クローン……?」

 声が、かすれる。


 確かに、「魔王」は何も言わない。ただ、そこに立っている。

 巨大で、歪で、禍々しくて。一人で何でもできそうなのに――

 彼女に依存しているように。ただ、母親の一歩後ろに浮き続けている。


「この子は一度、裏切りました。ですが私の愛は死にません」


 裏切った……のに、死んだのに、愛する……? 

 ーーどこかで聞いたことのある話だ。


「ですから、死体を探し出して……もう一度生まれていただきましたの」


 ぞわり、と背筋が冷える。

 彼女は魔王の頬に触れる。巨大な怪物は、ぴくりとも動かない。


「この子は、優しいのです」


「優しい……?」


「ええ……。文句を言いません。反抗もしません。命令すれば、必ず従います」


 メドゥーサの声は、狂気そのものだった。

 諭すようで、優しくて、狂っている。


「……それが、愛だと思っているのか」

 ゴハートが低く唸る。


「ええ、完璧な愛です」

 即答だった。


 その瞬間。

 魔王が、ゆっくりとこちらを向いた。

 赤い瞳が、僕らを捉える。村人たちの動きが、一斉に止まる。


 そして次の瞬間――

 全員が、再び襲いかかってきた!


「……来るぞ!」

 モグドンさんが叫ぶ。


 僕は、拳を握る。逃げない。目を逸らさない。

 ーー現在から、背を向けない。


「僕は、お前のようにはならない」


 右から三人。左から二人。

 後方からも足音。


「散開しろ! 囲まれるな!」

 モグドンさんの号令。

 地面が波打つ。彼のドリルが地面を掘り進め、村人たちの進路を分断する。


「『鼻硬散』」

 ズガンッ!

 一人が足を取られ、転ぶ。

 別の一人は土台モンの作った、隆起した土に弾かれる。


「カビ助、右!」


「はい!」


 飛び込んできた学生の腕を、受け流す。

 力を抜き、体勢を崩し、足を払う。

 倒れた体を、土台モンが柔らかい土で包む。

 即席の拘束。


「ゲホ……っ」

 息が荒い。

 頭が熱い。

 殴らない。

 壊さない。

 でも止める。


 ーーこんなに難しい戦い、あるか。


「落ち着け」

 ゴハートが横で低く言う。


「マスター、今は感情が先に出てる」


「分かってる……!」

 けど、目の前で知っている人が襲ってくるんだ。


 一体、どうすれば、止められる……?


 その時。

 カブ太が、動いた。


「先生……!」

 彼は魔王ではなく、メドゥーサへと駆け出す。


「カブ太!」

 止める間もない。


 ――魔王の視線が、彼に向いた。

 空気が、ぐにゃりと歪む。


「っ……!」


 次の瞬間、カブ太の前にピクコノさんが立ちはだかった。


「く……邪魔すんなよ……っ!」

 カブ太の動きが止まる。


「やめろ……!」

 叫びながら、僕は飛び出した。


「ピクコノさん、目を覚ましてください!」


 ――当然、返事はない。


「ふふ。『メディ先生』はこの場に存在しません。忘れてしまいなさい」

 メドゥーサが、静かに笑う。


 その台詞に、僕は引っかかった。

 一瞬、こう思った。

 先生として潜伏していた彼女が正体を現し、もうメディ先生は存在しない……そういう意味かと。


 でも、それなら「この場に」なんて言い方はしないはずだ。


「本当に、お前が先生なのか……⁉︎」

 思わず問いかける。


「は……? どういうことだよ、カビ助!」

 カブ太が振り向く。


「分からない……。僕もさっきまで同一人物だと思ってた。でも、違う……けど、あまりにも似すぎてる。もしかしたら双子とか……」


 僕らはピクコノさんの攻撃を受け止めながら、言葉を交わしている。

 ……一言ごとに息が詰まる。


 そこへ、ゴハートが駆けつけた。


「双子? クローンの線もあるだろ」


「ゴハート……後ろは?」


「地中班長と土台モンに任せてある。今は大元を叩くべきだ」


 クローン。

 その可能性は、確かにある。もし双子なら、ここまで情報が共有されるのは不自然だ。

 ラッシャイタウンで戦った時、奴は僕の名前だけでなく、学園の授業単元まで把握していた。

 ……人間同士なら、どんな関係であれ意思が介在する。

 そこまで細かい情報を共有できるのは……同一人物か、機械のような存在くらいだ。


「でも……クローンは喋れない」


 僕が言うと、カブ太も強く頷いた。

 まあ、初恋の相手が「感情のないクローン」なんて言われたらそうだよね。


「それに……先生の優しさが全部作り物だったなんて、信じられねぇよ!」



 メドゥーサは……僕らのやり取りを聞きながら、楽しげに笑っていた。


「ふふ。冥土の土産に教えて差し上げましょうか?」


「冥土の土産だとぉ……?」

 ゴハートが歯軋りする。


「僕たちは、こんなところで死ねない!」


 叫びながら、覚悟を決める。


 ――同じ手は食わない。

 石化光線も、今回は看破してみせる。


 その瞬間。


「まずは、耳障りな幽霊さん」

 メドゥーサが、魔王に視線を送る。


「まずい……。逃げて、ゴハート!」


 魔王は無言。

 だが、洗脳の波が静かに広がる。

 村人たちの動きが統制され始めた。……さっきまでの無秩序な暴走ではない。


「この量、キリがねぇ……!」

 ゴハートが舌打ちする。


「本体を叩くしかないか……⁉︎」


 だが、僕らの前にはピクコノさんが立っている。

 ――石化を救う唯一の希望。

 僕らが最も傷つけにくい人物は、メドゥーサを守るように配置されていた。


「ピクコノさん……!」

 呼びかけても、答えはない。


「おのれ、魔王め……」


 カブ太は立ち尽くす。

 怒りの言葉とは裏腹に、ただ不安そうな目をして。


「安心なさい」

 メドゥーサが微笑む。


「わたくしはただ、愛が欲しいだけ」


「今のように……この子がわたくしを愛してくれていれば、それ以外は何もいりません」

 その言葉に、魔王の指がわずかに動く。


 ――愛。

 それは、命令と同義なのか。


「あまり他人を害したくはありませんが……私たちの愛を邪魔する『探検隊』の皆さまには、消えていただきます」


「お前らが、世界を害しているから……隊長達は、守ったんじゃないか!」

 僕は思わず叫ぶ。


「……ですから」

 だが奴は無視して続けた。


「カブ太くんは怖がらなくても大丈夫ですよ?」


 ……不気味な笑みと、鋭い眼差し。

 カブ太はその目の虜になるどころか、蛇に睨まれたように膝から崩れ落ちた。


「……歪んでる」

 ゴハートが吐き捨てる。


「ええ、存じております」

 だが……あっさりと肯定。


「ですが、ボスの思想は完璧です」


「ボス……だと……? クローン達の元凶か!」

 ジャックの言葉が、脳裏をよぎる。


 その瞬間――

 魔王が、腕を振り上げた。


 村人たちが一斉に襲いかかる!


「総員、防御優先!」

 後ろから、モグドンさんの怒号が響いた。


 土が舞い、石が跳ね、叫び声が交錯する。

 その中心で。

 ……メドゥーサは、変わらぬ微笑を浮かべていた。

 


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