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サバイバル生活

【前回の登場人物】

「ドラゴンマスク」

(種族)ムシ

(年齢)18

(能力)?

(概要)「探検隊」の隊長。カビ助の命を救う。

************************************************



 結局どれだけ歩いても出口は見つからない。僕は、えんえんと森をさまよっている。


『……これも、冒険か』


 とは言ったものの……普通に、命の危機じゃないか⁉︎


 この森の名前すら分からない。

 分かっていれば、そもそも迷っていないはずだ。


 見渡す限り、森。どこまで行っても、森・森・森。

 ヒトどころか、ムシ一人とも出会わない。かなり特徴的な森のはずなのだが。


 ——僕は、今まで引きこもっていた。


 だから、見える風景と知識が、まるで結びつかない。



「……ゴホッ」

 胸の奥が、じわりと痛む。



「薬の効果も切れたのか……? また、苦しくなってきた……!」



 もう、無理に脱出を目指すより、助けを待った方がいいかもしれない。



 最悪の場合、ここでサバイバルすることも考えないと?

 ——やるしかないのか?


「たしか人間は、何も食べなくても三日は……」


 自分に言い聞かせるように呟き、僕は覚悟を決めた。


「……まずは、焚き火だ」


 そうは言っても。引きこもりの僕に、サバイバル経験なんてあるはずがない。

 知識も、せいぜい幼い頃に父さんから聞いた話くらいだが——


 それでも、何もしないよりはマシだ。


 僕は、ドリあえず枝を拾い集めながら、食べられそうなものを探すことにした。





 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎




 ——数時間後。


 いつの間にか、日が傾いていた。

 普通の人なら、心細くなる時間帯だろう。


「〜〜♩」


 でも、僕は一人に慣れている。

 長時間の作業の末、素朴ながら、拠点らしきものは完成した。


「……うん。よくやった、僕」


 鞄とタオルを組み合わせた、冷たい寝床。

 火のついていない薪の山。


 どれも未完成だけど、基礎知識があったからこそここまで辿り着けた。


「不思議だな……」


 小さく笑う。

「父さんの土産話が、こんなところで役立つなんて」


 一生引きこもってばかりで、生涯を終えるものだと思っていた。

 やっぱり、知識に無駄なものなどないのか。


 とはいえ……


「どうやって、火をつけるんだ?」


 確か……

 枝を擦り合わせて、摩擦で火を起こす、だっけ?


 その理屈はわかる。わかるよ。


 だけど——。


「無理だろ、普通……」


 引きこもりの僕に、そんな根性があるわけがない。

 それでも、やらない選択肢はなかった。


「……やるしか、ないか」


 そう決意して、両手で棒を握りしめる。


 だが、そんな時。



「火なら、オレがつけてやろうか?」



 突然、どこかから声がした。


「……っ⁉︎ だ、誰⁉︎」


 驚きで心臓が跳ねる。

 だが同時に、胸の奥が一気に軽くなる。


 声が聞こえた。ってことは!

 ――やっと、人に会えた!!



 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎



「……木の上に、いたのか……!」


 声の主は、驚くことに()()()降りてきた。


 真っ赤な体。黄色いクチバシ。背中には、燃え盛る羽根。


 ——この特徴は、まさか。


「ああ。自己紹介しとくか」


 胸を張る。


「オレは『トリ族』のファイアブルだ」


「トリ族……!」


 なるほど、木の上にいるわけだ。


 DR星でも、「ヒト族」とほとんど関わりのない種族。

 本で見ただけの存在が、まさか目の前にいるなんて。


「で、お前は?」


「ぼ、僕はカビ助。この森で迷ってて——」


 助けを求めるつもりで、事情を説明する。

 トリ族なら、空を飛べる。村の方角くらい、すぐ分かるはずだ。




「と、いうことなんだ。ちょっと手を貸してくれないかな?」


 ……そう、思っていた。


「あぁ!?」

 ファイアブルは、突然声を荒げる。


「ひっ……!?」


「呑気だな、ヒト族。まさかオレが……他種族をタダで助ける、お人好しだとでも思ったのかぁ!?」


「……え?」

 言葉が、喉に引っかかる。


 ——困っている人を助ける。

 そんな常識は、誰にでも通じるわけじゃなかった。




「だが、取引といこう」

 ファイアブルは、にやりと笑った。


「オレがお前を助ける。その代わり——」


 嫌な予感がした。

 何とか、話の空気を変えたい。



 あ、トリだけに、取り引き……?


 いや、やめておこう。冗談が通じる相手ではなさそうだ。



 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎



 そして——取引の結果。

 僕は、彼の指示を聞くことになりました。


「よろしく……」


「まあ、お前ら『ヒト族』はなぁ」


 ファイアブルは、愉快そうに言う。

「暖を取らなきゃ、すぐ死ぬ。従うしかないだろうなぁ?笑」


 ……うざい。

 何だか釈然としない。本当に無事で帰れるのか?


 いやでも、いきなり襲ってこないだけ、まだマシ……なのか?


 


 ファイアブルは取引の説明を始めた。


「お前にやって欲しいことは"敵の殲滅"だ」


 ん……?

 いきなり、物騒な単語だな。


「この森じゃ、縄張り争いが絶えねぇ。オレたち以外にまだ二つ、敵組織が残ってる」


 嫌な言葉しか、聞こえてこない。


「——そいつらを潰すのに、協力してもらう」


「ちょっと待て……!」

 僕は思わず叫んでいた。


「敵の殲滅って……。それ、僕に"人を殺せ"って言ってるのか⁉︎」


 冗談じゃない。いくら命の恩人でも、それは——。


「甘いな、ヒト族」

 ファイアブルは、冷たく言い放つ。


「嫌ならいいんだぜ? そのまま出口も分からず、野垂れ死ぬだけだ」


「……っ!」

 喉が、詰まる。


 ——まだ、死にたくない。

 それだけは確かだった。


「分かった……」


 そう答えた時、胸の奥が重くなった。




 こうして僕は、ファイアブルの後をついていく。

 他種族を助けるためでも、正義のためでもない。


 ——生きるために。


 人を殺すかもしれない、その可能性から目を逸らしながら。

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