人生の転機
【前回の登場人物】
「カビ助」
(種族)ヒト
(年齢)14
(能力)頭部の輝きを増加
(概要)この物語の主人公。
「カブ太」
(種族)ムシ
(年齢)14
(能力)カブトムシの角で突撃
(概要)クラスメイトでいじめっ子。
「メディ先生」
(種族)ヒト
(年齢)35
(能力)?
(概要)ドドリ学園の聖母と呼ばれる教師。
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「げ…………」
補講を終えた帰り道。 最悪なことに――再び、カブ太と鉢合わせた。
「よう……カビ助」
それだけ言うと、彼はゆっくり近づいてくる。
反射的に身構える。……来るのか?
「っ!」
いや、恐れるな。今の僕なら――。
と思ったが、予想と違っていた。
殴るでもなく、睨むでもなく……カブ太は少し視線を逸らし、頭を掻いた。
「今まで……悪かった」
「え?」
「いじめて、すまなかった。それが言いたかっただけだ……」
一瞬、言葉が理解できなかった。
「え? え?」
「……じゃあな」
彼は僕の戸惑いには答えず——
それだけ言い残し、恥ずかしげに走り去っていく。
「……え?」
取り残された僕は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
そして、ある結論に辿り着く。
「人って……説教されると、変わるんだなぁ……」
正直、ちょっと気味が悪い。今まで、誰に対しても自分の非を認めなかった彼。そんな奴が、謝った? いじめを、やめる?
一体この数時間に、何があったら、そうなるんだよ。
分からない。でも、それ以上に——胸の奥が、妙に軽かった。
世界が、少しだけ優しくなった気がした。
「もしかして……?」
ついに、僕の人生、ようやく上向いてきたんじゃないか? 今日もめげずに、勇気を出して冒険に出たから、ついに報われたんじゃないか?
足取りが、自然と軽くなる。家までの道が、いつもより短く感じられる。
ふふ。楽しみだな。明日からは、いじめがなくなる? この調子なら、そのうち友達もできて、普通に学校生活を送れて——?
なんだか今日は、物語の主人公になった気分だ!
そう思った……。その時。
胸の奥を、鋭い痛みが貫いた??
ズキン。ズキン! ズキン!!
絶望は、突然襲いくる?
「ゲホっ……! ゴホっ……! うっ……!」
なに、これ……。
ふざけるな。息ができない。
「ガハっ……‼︎」
喉が焼ける。視界が歪む。
く、苦しいなんてもんじゃない。
苦しい……? 苦、苦しい苦しい。苦しい苦しい苦しい!
誰か、助けて。早く、解放して。嫌だ、死にたくない。
惨めだ。
誰もいない地面で、僕はのたうち回っている。
こんなこと、今までなかった。
「ガハっ……あ、ああそ、そういえば?」
朦朧とする意識の中で、ある記憶が浮かんだ。
死んだ父さんも、確か——?
「弟子ができたんだ」とか嬉しそうに語った、その次の旅で?
悪人に襲われて、死んだんだっけ?
“希望”を見つけた、その直後……ってことか。今の僕と同じ?
「結局……そういうことかよ」
希望など、見つけたところで。絶望が後からまとめて殴ってくるんだ。
この世は無情。生まれ持ったもので、全て決まる。
ははっ……夢なんて見せやがって。
「“希望”の馬鹿野郎ーっ!」
そんな、情けない叫び声を最後に……僕の意識は、闇へと沈んだ。
この日を境に——
僕はこの苦しみを何度も味わうことになる。
だが今は、そんなことを考える余裕すらなかった。
これが人生の終わりだと、本当にそう思ったんだから。
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………………はっ!
目を開けると、見知らぬ天井があった。
「死んだ?」
第一声は、間の抜けた声だった。
体の痛みは、嘘みたいに引いている。ここが、天国?
……そうでもないと説明がつかない。そう思ったのだが。
首を動かすと、布に囲まれた空間が目に入った。どう見ても現実世界。触覚だってちゃんとある。……まあ、天国での感覚がどうとか知らないんだけど。
え……? 生きてる?
「黄色の……テント?」
差し込む光からして、時刻は昼。
僕が倒れたのは確か補講が終わった夕方だから? 一体、何時間倒れていたのか——考えたくもないな。
「ここは一体……?」
誰にいうでもなく、そう呟いた時。
隣から、低く落ち着いた声がした。知らない声だった。
「安心してくれ。ここは、私のベースキャンプだ」
振り向くと、見知らぬ男性が立っていた。二十歳前後に見える。おかしな仮面に、小洒落た戦闘服という独特なファッション。そして腕は四本で、触覚があるから……「ムシ族」かな?
何の昆虫の血を引いているかまでは、見た目だけでは分からない。それでも、カブ太のような「危険」を感じなかった。
「あなたは……?」
「村の近くで倒れている君を見つけた。念のため、薬を持って来てよかったよ」
「いや、質問の答えになってませんけど……?」
見た目はいかにも怪しいんだけど……何となく落ち着く声。それに、僕の命を救ってくれたみたいだし。
不審者……誘拐……ではなさそう?
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しばらく休むと、体はかなり楽になった。僕は帰ることにする。
その前に、あの人にお礼を言わなきゃ……。
見渡すと、彼はテントの外で焚き火で魚を焼いていた。僕は落ち葉を踏み締め、彼の前へと踏み出した。
「助けてくれて、ありがとうございました。あの……お名前、聞いてもいいですか?」
「私の名は、『ドラゴンマスク』」
——即答だった。
「ラッシャイタウンに本拠地を構える、『探検隊』のリーダーをしている」
「ドラゴンマスク、さん……?」
それに、探検隊——⁉︎ 未知の単語に、胸がどくんと鳴った。都会街が本拠地で、強そうで、自由そうで、かっこいい。
この僕とは……まるで違う世界の人。
——ああ、そうか。
今日はやっぱり、“人生の転機”なんだ。
「……あの!」
気づけば、声が出た。
「僕を、この村から連れ出してくれませんか? 探検隊に……入れてください!」
突拍子のない懇願。迷惑もいいところだった。
ドラゴンマスクさんの、返事は……?
「ダメだ」
「あ……」
やはりというべきか。彼は迷いなく答えた。
「君は、病気と戦うだけで精一杯だろう? 私たちの旅は、命懸けだぞ」
そう……ですよね。
「はい。わかり……ました」
納得はできた。でも、諦めきれない気持ちも、確かにあった。
気持ちを抑えながら、命の恩人へと別れを告げる。
「本当に、ありがとうございました……!」
そんな別れ際。
「すまないね」
彼は、少し柔らかく笑った。
「……え?」
「じゃあ……またね。カビ助くん!」
突拍子もない笑顔。彼は時々、人が変わったように柔らかい雰囲気になる。
そんな人柄だからこそ、ついていきたいと思ったんだけどな。
彼はテントの中へと戻っていく。
それを横目に、僕は森の中へと……仕方なく、踏み出した。
だが、数秒後。
「……あれ?」
僕は彼の言葉に、遅れて不可解な点を見つけた。
「なんで、名前……?」
ドラゴンマスクさんに、名乗った覚えはない。でも彼は確かに、別れ際に僕の「カビ助」という名前を呼んだ。
どういうこと……?
気になったのだが。振り返った時、彼の姿はなかった。
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「……学生証、見られたのかな」
それとも、 最初から知っていたのか? いや、それはないだろう。あんな特徴的な格好の人、一度あったら忘れるはずがない。
——薄暗く、やけに木の多い森の中。
考えながら歩いていて、ふと気づく。
「あれ?」
行き止まりだ。
あとを引き返してみるが、先ほどのキャンプ地じゃない。
これは、もしかして。
まさかとは、思うけど⁉︎
「迷った…………?」
はっ……。情けなくて、笑いそうになる。
遠い星、地球では「GPS」とかいうものがあって、迷っても平気らしい。だがここは『DR星』。しかもその辺境の地だ。
僕らは自らの力で、道を切り拓くしかない。
「ゴホっ……。これも、冒険か」
そんな言葉で誤魔化しながら、僕は森を歩き続けた。




