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人生の転機


【前回の登場人物】

「カビ助」

(種族)ヒト

(年齢)14

(能力)頭部の輝きを増加

(概要)この物語の主人公。


「カブ太」

(種族)ムシ

(年齢)14

(能力)カブトムシの角で突撃

(概要)クラスメイトでいじめっ子。


「メディ先生」

(種族)ヒト

(年齢)35

(能力)?

(概要)ドドリ学園の聖母と呼ばれる教師。

************************************************



「げ…………」


 補講を終えた帰り道。 最悪なことに――再び、カブ太と鉢合わせた。


「よう……カビ助」

 それだけ言うと、彼はゆっくり近づいてくる。


 反射的に身構える。……来るのか?

「っ!」

 いや、恐れるな。今の僕なら――。


 と思ったが、予想と違っていた。

 殴るでもなく、睨むでもなく……カブ太は少し視線を逸らし、頭を掻いた。


「今まで……悪かった」

「え?」

「いじめて、すまなかった。それが言いたかっただけだ……」


 一瞬、言葉が理解できなかった。

「え? え?」


「……じゃあな」


 彼は僕の戸惑いには答えず——

 それだけ言い残し、恥ずかしげに走り去っていく。


「……え?」


 取り残された僕は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 そして、ある結論に辿り着く。



「人って……説教されると、変わるんだなぁ……」



 正直、ちょっと気味が悪い。今まで、誰に対しても自分の非を認めなかった彼。そんな奴が、謝った? いじめを、やめる?

 一体この数時間に、何があったら、そうなるんだよ。


 分からない。でも、それ以上に——胸の奥が、妙に軽かった。

 世界が、少しだけ優しくなった気がした。


「もしかして……?」

 ついに、僕の人生、ようやく上向いてきたんじゃないか? 今日もめげずに、勇気を出して冒険に出たから、ついに報われたんじゃないか?


 足取りが、自然と軽くなる。家までの道が、いつもより短く感じられる。

 ふふ。楽しみだな。明日からは、いじめがなくなる? この調子なら、そのうち友達もできて、普通に学校生活を送れて——?



 なんだか今日は、物語の主人公になった気分だ!



 そう思った……。その時。

 胸の奥を、鋭い痛みが貫いた??


 ズキン。ズキン! ズキン!!


 絶望は、突然襲いくる?



「ゲホっ……! ゴホっ……! うっ……!」


 なに、これ……。

 ふざけるな。息ができない。


「ガハっ……‼︎」


 喉が焼ける。視界が歪む。

 く、苦しいなんてもんじゃない。

 苦しい……? 苦、苦しい苦しい。苦しい苦しい苦しい!

 誰か、助けて。早く、解放して。嫌だ、死にたくない。


 惨めだ。

 誰もいない地面で、僕はのたうち回っている。


 こんなこと、今までなかった。


「ガハっ……あ、ああそ、そういえば?」


 朦朧とする意識の中で、ある記憶が浮かんだ。

 死んだ父さんも、確か——?


 「弟子ができたんだ」とか嬉しそうに語った、その次の旅で?

 悪人に襲われて、死んだんだっけ?


 “希望”を見つけた、その直後……ってことか。今の僕と同じ?


「結局……そういうことかよ」


 希望など、見つけたところで。絶望が後からまとめて殴ってくるんだ。

 この世は無情。生まれ持ったもので、全て決まる。


 ははっ……夢なんて見せやがって。


「“希望”の馬鹿野郎ーっ!」


 そんな、情けない叫び声を最後に……僕の意識は、闇へと沈んだ。


 この日を境に——

 僕はこの苦しみを何度も味わうことになる。


 だが今は、そんなことを考える余裕すらなかった。

 これが人生の終わりだと、本当にそう思ったんだから。




 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎




 ………………はっ!


 目を開けると、見知らぬ天井があった。


「死んだ?」

 第一声は、間の抜けた声だった。


 体の痛みは、嘘みたいに引いている。ここが、天国?

 ……そうでもないと説明がつかない。そう思ったのだが。


 首を動かすと、布に囲まれた空間が目に入った。どう見ても現実世界。触覚だってちゃんとある。……まあ、天国での感覚がどうとか知らないんだけど。


 え……? 生きてる?


「黄色の……テント?」


 差し込む光からして、時刻は昼。

 僕が倒れたのは確か補講が終わった夕方だから? 一体、何時間倒れていたのか——考えたくもないな。


「ここは一体……?」


 誰にいうでもなく、そう呟いた時。

 隣から、低く落ち着いた声がした。知らない声だった。



「安心してくれ。ここは、私のベースキャンプだ」



 振り向くと、見知らぬ男性が立っていた。二十歳前後に見える。おかしな仮面に、小洒落た戦闘服という独特なファッション。そして腕は四本で、触覚があるから……「ムシ族」かな? 

 何の昆虫の血を引いているかまでは、見た目だけでは分からない。それでも、カブ太のような「危険」を感じなかった。


「あなたは……?」

「村の近くで倒れている君を見つけた。念のため、薬を持って来てよかったよ」

「いや、質問の答えになってませんけど……?」


 見た目はいかにも怪しいんだけど……何となく落ち着く声。それに、僕の命を救ってくれたみたいだし。

 不審者……誘拐……ではなさそう?




 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎




 しばらく休むと、体はかなり楽になった。僕は帰ることにする。


 その前に、あの人にお礼を言わなきゃ……。

 見渡すと、彼はテントの外で焚き火で魚を焼いていた。僕は落ち葉を踏み締め、彼の前へと踏み出した。


「助けてくれて、ありがとうございました。あの……お名前、聞いてもいいですか?」


「私の名は、『ドラゴンマスク』」

 ——即答だった。

「ラッシャイタウンに本拠地を構える、『探検隊』のリーダーをしている」


「ドラゴンマスク、さん……?」


 それに、探検隊——⁉︎ 未知の単語に、胸がどくんと鳴った。都会街が本拠地で、強そうで、自由そうで、かっこいい。

 この僕とは……まるで違う世界の人。


 ——ああ、そうか。

 今日はやっぱり、“人生の転機”なんだ。


「……あの!」

 気づけば、声が出た。

「僕を、この村から連れ出してくれませんか? 探検隊に……入れてください!」


 突拍子のない懇願。迷惑もいいところだった。

 ドラゴンマスクさんの、返事は……?


「ダメだ」

「あ……」

 やはりというべきか。彼は迷いなく答えた。

「君は、病気と戦うだけで精一杯だろう? 私たちの旅は、命懸けだぞ」

 そう……ですよね。


「はい。わかり……ました」

 納得はできた。でも、諦めきれない気持ちも、確かにあった。

 気持ちを抑えながら、命の恩人へと別れを告げる。


「本当に、ありがとうございました……!」

 そんな別れ際。


「すまないね」

 彼は、少し柔らかく笑った。

「……え?」


「じゃあ……またね。カビ助くん!」


 突拍子もない笑顔。彼は時々、人が変わったように柔らかい雰囲気になる。

 そんな人柄だからこそ、ついていきたいと思ったんだけどな。


 彼はテントの中へと戻っていく。

 それを横目に、僕は森の中へと……仕方なく、踏み出した。



 だが、数秒後。

「……あれ?」

 僕は彼の言葉に、遅れて不可解な点を見つけた。

「なんで、名前……?」


 ドラゴンマスクさんに、名乗った覚えはない。でも彼は確かに、別れ際に僕の「カビ助」という名前を呼んだ。


 どういうこと……?

 気になったのだが。振り返った時、彼の姿はなかった。




 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎




「……学生証、見られたのかな」


 それとも、 最初から知っていたのか? いや、それはないだろう。あんな特徴的な格好の人、一度あったら忘れるはずがない。


 ——薄暗く、やけに木の多い森の中。

 考えながら歩いていて、ふと気づく。


「あれ?」


 行き止まりだ。

 あとを引き返してみるが、先ほどのキャンプ地じゃない。


 これは、もしかして。

 まさかとは、思うけど⁉︎



「迷った…………?」



 はっ……。情けなくて、笑いそうになる。

 遠い星、地球では「GPS」とかいうものがあって、迷っても平気らしい。だがここは『DR星』。しかもその辺境の地だ。

 僕らは自らの力で、道を切り拓くしかない。


「ゴホっ……。これも、冒険か」


 そんな言葉で誤魔化しながら、僕は森を歩き続けた。


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