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第四章「襲いくる強敵」

前章の登場人物まとめ

・「ゴハート」:カビ助の気持ちが増幅して召喚されたゴースト族。

「な、なんだってーーー⁉︎」

僕らの会話が一区切りした時、少し離れたところから声が聞こえた。

その声の主は、草まみれな帽子を被り、大きなシャベルを持っている。農家さんのようだ。

「あんた、さっきご先祖さまのご遺体が、盗まれたと言ってたよな?」

「う……聞こえていましたか……。ところであなたは?」

「ああ、勝手に聞いてすまねかった。おらは『ディグ・ピクコノ』だ」


ピクコノさん……が話を続けようとすると、ゴハートが僕に耳打ちする。

「おい、マスター。この人……」

そうだな、何となく察していた。どうやら彼にはゴハートの姿が見えていないようだ。

だとしたら、ゴースト族は普通の人と関わってはいけない存在ってことか?

「ゴハート、万が一ばれないよう、今は隠れてて……!」

僕は小声でゴハートにそう告げ、ピクコノさんとの話を続けた。

「不安ですよね……。でも大丈夫です。僕がこれから犯人探しの旅に出ますので!」

「あ、あんたが旅に……? やめとけ、まだ子供でねえか! しかもその身体……相当な病を抱えていると見える…………!」

「えっと……? じゃああなたが代わりに旅に出てくれるんですか…………?」

……しまった。つい、皮肉めいた言葉を発してしまった。

しかし、ピクコノさんは純粋すぎて皮肉には気づかなかったのか、普通に返答した。

「ああ、仕方ねえ! おらが保護者としてあんたの旅についていくだ‼︎」


……これは困ったことになった。

あの流れで人の優しさを無下にするわけにもいかず、結局ピクコノさんも同行することになったが、彼にはゴハートは見えない。

「つまり、マスター。これからオレは喋ってはいけないってことか……?」

「『仲間』なんて言っておいて、いきなりこんなことになるなんて……ごめんな。ピクコノさんには申し訳ないけど、なんとか僕が一人でもやっていけるってことを証明して帰ってもらおうか…………」

僕らはドリあえず、犯人の手がかりを探すことにした。

そのためには聞き込みだ。人の多く集まる場所、学校に戻ることにした……。



校庭のドリルスシ石像の前で待っていると、ピクコノさんが手を振りながら来た。

僕にとってこの石像が、意味をなす日が来るなんて……! 感動だ。

「あ、ピクコノさん! 昨晩は泊まらせていただきありがとうございました」

「おお、気にせんでええ。あん時は暗かったからなぁ。それにしても、おら学校なんて来るのいつぶりだったかなぁ……? 忘れるほど農作業に必死だったってことだべ?笑」

「は、ははは…………」


申し訳ないけど……疲れる。

優しい人なのはわかってるし、僕を笑わせようと話してくれているのも分かってる。

だけど僕のコミュ力では、こういうタイプの人への最適な返答は思いつかない。

そろそろ気休めにゴハートと話したい……!

そんな時、僕に声をかけたのはゴハートでもピクコノさんでもなかった。

「……よう、カビ助」「聞きましたよ、旅に出るんですってね」

げ、カブ太……! と、メディ先生だ。


「お前、また学校サボるんだって?」

「なんだよ……! 家庭の事情で休むんだ。仕方ないだろ?」

「っ…………! 冗談だよ、冗談。もういじめていた頃の俺とは違うんだ。別に怒ってるわけじゃねぇよ。ただ、心配なだけだ……」

カブ太、本当に変わったな。相変わらずちょっと気持ち悪いくらいだけど……笑

僕は気を紛らわすため、ダメ元で先生に尋ねることにした。

「ところで、先生。例の事件ですが……何か心当たりとかありませんか? 他の先生や生徒から聞いた、うわさ程度の話でも構いません」

「ふむ……。残念ですが、私には何も分かりませんね……」

うーん……。分かってはいたが、メディ先生は何も知らなそうだ。

「結局手がかりゼロか……。どうしましょう、ピクコノさん?」

「そうだべなぁ……。ドリあえず、都会にでも行ってみるべか?」

都会か……。最寄りのものでいうと、「ラッシャイタウン」とかになりそうだ。


……ん? ラッシャイタウンといえば……!

「そうだ! ドラゴンマスクさんなら、何か知ってるかも⁉︎」

僕がそう叫ぶと、周りのみんなはキョトンとした顔で僕を見つめる。

「ドラゴンマスク? 誰だ、それ?」「変な名前だべなぁ……」

僕は上機嫌でみんなに説明する。

「ラッシャイタウンにある『探検隊』のリーダーって聞いたよ! カブ太と同じ『ムシ族』で、とってもかっこいいんだ!」

今いけばベースキャンプに戻ってるかな……?

僕は、彼に命を救ってもらったことを思い出し、ウキウキで駆け出した。

「……おい、待てよ! カビ助‼︎」

カブ太の声だ。


そういえば、別れの挨拶を忘れていたな。一応言っとくか……。

「しばらくの間だけ、行ってきます! じゃあな‼︎」

僕は振り向いて、先生とカブ太に向けてお辞儀をした。

しかしカブ太は引きつった声で、必死に何かを叫んでいる。

なんだ……?

「ちげえよ、馬鹿! 後ろ……後ろにやばいのがいる!」

「後ろ……?」


ザシュっ!


「ひ、ひいいいいいいい! 危なっ!」

カブ太のおかげでなんとか、掠っただけで済んだが、これは斬撃だ。

いきなり僕を殺すつもりで……? 一体誰が…………⁉︎

「『探検隊』と言ったな。お前、奴らの仲間か……?」

すごく低いが、若い男の声だ。声の主は草むらの中から姿を現した。

「俺の名は『武蔵』。お前たち探検隊を殺す使命を受けた者だ」

男はどす黒い甲冑を身にまとい、頭には大きめの兜を被っている。

兜の隙間から見える黄色の瞳は、鋭く僕に向けて殺気を放っていた。

「ちょ……待ってくれ! 確かに言ったし、何で『探検隊』を狙ってんのか知らないけど、僕は『探検隊』じゃないんですが⁉︎」

「問答無用……。疑わしい者は全て殺せと言われている……」

武蔵はそう言うと黙って僕に刀を振りかざす。

「うわっ! 話が通じる相手じゃなさそうだな……」


僕は迫り来る刀を避けるのに必死で、技を打てる状況じゃなかった。

だが……そんな時、頼りになるのが「仲間」だ!

「……マスターに近づくな‼︎ 『人魂シュート』!」

ゴハートの放つ、青白い炎は武蔵に向け、放たれた。

しかし、彼はいとも簡単にそれを回避する……! 実力が、違いすぎる……?

…………ていうか、あいつはゴハートが見えている⁉︎

「ゲホっ、ゴホっ! はぁ、はぁ……。体力の、限界だ……」

そんな僕をお構いなしに、武蔵はどんどん切り掛かってくる。その時。

「おらだって保護者なんだ……。カビ助くん、今助けるべ!」

ピクコノさんの声だ。こんな状況の中、勇気を出せるなんて!

「ピクコノさん‼︎ 戦えるんですか⁉︎」

「いんや、戦えるわけじゃねぇべ。でもおらは『ドリル族』だからな。『穴を掘る』、つまりは『弱点を見つける』ことができるんだべ!」

「ゲホっ……おお! それで、こいつの弱点はどうだったんですか⁉︎」


ピクコノさんはしばらく目を閉じて唸ったのち、僕に向けて情報を伝える。

「……えーと……わかったべ! 兜についている三日月の装飾‼︎」

ドリル族の能力では、それがどういう弱点かまでは分からないようだが……十分です!

「おいお前……。僕がただ逃げ回るだけの弱者だと見くびっているだろう?」

「…………?」

避けながら、技は打てない。確かに絶望的な状況だ。

でも、僕はお父さんに、「粘り強くしつこく喰らいつけ」って、教わったんだ!

「手足は避けるのに使っていても、人間には『歯』という武器がある!」

「いっけぇぇ! カビ助くん!」「頑張れ、マスター!」

「うおおおおおおおおお‼︎」


……ガキィン!


僕の渾身の噛みつきは武蔵の刀に防がれていた。

「…………は?」


なんでだ……? 刀を振りかざすタイミングを見計らって仕掛けたのに!

「残念だったな、俺は本来、『二刀流』だ」

……っ! 畜生、またかよ。希望が見えたと思ったら、またこれだ……!

「逃げろーっ! 逃げてくれ、マスター‼︎」

「ゴホッ……ゴハート、もう、無理だよ。限界だ……!」

「体力が尽きたか……いや、病でもあるのか? まあ…………死んで楽になれ」


ザシュっ!


僕の人生はこんなところで…………終わりなのか。


しかし痛みは何も感じることがなく、目を閉じたままの時間は過ぎていた。

「っ…………あれ? え? …………生きてる!」

そうつぶやくと、隣から声がした。聞くところ、十八くらいの男だろうか。

「……ふぅ、間に合ってよかった……!」

声の主は変な形の仮面をかぶっているムシ族の青年だった。

「あ……! ドラゴンマスクさん‼︎」

彼は、いつも絶望の瞬間に助けてくれる。やっぱり最高にかっこいい……‼︎

ところで、どうやって僕は助かったのだろうか。

僕があたりを見渡してみると……そこには、青い空と小さいドドリ村が広がっていた⁉︎

「ええええ⁉︎ 空を飛んでる⁉︎」

「そうか、君たちは『ドラゴン』を知らないんだったね。私はこの仮面の力で……。いや、今はそんな場合じゃないか……!」

「『探検隊』の隊長……、逃がさん!」


ビュン! ビュン‼︎


「武蔵め……まだ斬撃を飛ばしてきやがる……! 逃げるよ、カビ助くん!」

「あ……ちょっと待ってください! まだゴハ……仲間が!」

僕がそう言うと、ドラゴンマスクさんはにこりと笑った。

「分かってるよ。幽霊の彼に頼んで、『ピクコノさん』は運んでもらってる!」

「え……?」

そう言った彼の視線の先を見ると、ゴハートがピクコノさんを抱えて飛んでいた。

「あ、カビ助くぅん! なんかよう分からんが、おら飛んでるべ‼︎ 夢みたいだぁ!」

そうか……彼にはゴハートの姿は見えていないから、勝手に浮いている認識なのか……。

それにしても、普通生身で空なんて飛んだら怖いだろうに……。面白い人だべ。笑

「あれ……? てかドラゴンマスクさんは、ゴハートが見えるんですか……⁉︎」

僕がそう尋ねると、ドラゴンマスクさんは遠くの山を指さして言った。

「その事情は、ひとまず安全な場所で話そうか」



……はぁ、はぁ。ここまで来れば奴に追われる心配もないだろう。

「一体、あの武蔵とかいう奴は何ですか⁉︎ ゴハートの件も……色々説明してください!」

「そうだね……。こうなってしまったからには仕方がない。事情を話そう」

ドラゴンマスクさんはまず、武蔵について説明を始めた。


「奴は、とある団体から私たち……『探検隊を殺せ』という依頼を受けている殺し屋だ。それで、その団体というのが『ダークスター団』。目的は不明だが、各地にクローン人間を送り込んでいる。我々は探検の道中、人々に襲いかかっていたクローンを倒してしまった」

なるほど。それで命を狙われて…………? いやいやいや、怖すぎるだろ!

「探検隊の皆さんは人々を守るためにやったのに……そんなの逆恨みじゃないですか!」

「そうだね、理不尽だ。だがそんなことを言っても奴は殺意を止めてくれない」

「っぐ…………『奴』とは、『武蔵』のことですか?」

「そうだ。我々は数ヶ月間、幾度となく奴に襲われてきた。その度に対話を試みているが、どれも失敗に終わった。……どうやら奴には感情がないみたいなんだ」


感情が、ない…………。

そんなの考えられないや。確かにあいつは絶望とか希望とか、何も感じていなさそうだった。

……けど、そんな人間ありえるのか?

まあ、ドラゴンマスクさんの憶測に過ぎないだろうけども……。

うーん……駄目だ。頭が痛い。他の話を聞こう。

「……それで、あなたはどうしてゴハートが?」

僕が話題を変えようと提案したため、彼は次に自身の能力について説明を始めた。


「ああ、それは簡単な話だ。私も『召喚者』だからだよ」

…………召喚者? どういうこと?

「なるほど、そういうことかよ……」

僕とピクコノさんが「簡単な話」に首を傾げていると、ゴハートは目を見開いていた。

「どうやったかは知らないが、あんたは『ドラゴン族』をこの世界に呼び出したってところだな? 『あちら側の世界』に触れた経験があるから、俺が見える、と……」

ドラゴンマスクさんはゴハートの言葉に深くうなずいた。完全に二人の世界だ。

意味のわからないことだらけの話に、僕は口を挟むことができなかった。

「……あのトカゲどもを、どうやって手懐けた?」

ゴハート……そもそも『ドラゴン族』とは何なのか、まずそれを教えてほしいものだ。

ドラゴンマスクさんはそんな僕の呆れた気持ちを感じ取ったのか、話を遮った。


「……一旦、こちらからも一つ質問……というか提案があるのだが……?」

ドラゴンマスクさんの言葉に、ゴハートは冷静になったようだ。

「ああ、マスターたちが置いてけぼりになってたな……、すまない」

「……それで? 提案とはなんですか?」

「ああ、君は以前、『探検隊に入れてほしい』と言っていたね。私はその時、危ないからと言って断ってしまった……」

……そうそう、そんなこともあったな……ってあれ?

「だが状況が変わってしまった。これから君たちは武蔵に命を狙われるだろう。私が今回のように毎回助けることができる保証はない……。それに、君はあの時と比べて身も心も成長しているね……!」

……‼︎ この流れはまさか…………!

「カビ助くん。『探検隊』に入ってくれないだろうか?」

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