過去の反撃、それは十字架
【前回の登場人物】
「カブ太」
(種族)ムシ
(年齢)14
(能力)カブトムシの角
(概要)元いじめっ子。メディ先生に恋をして改心する。
「メディ先生」
(種族)ヒト
(年齢)35
(能力)?
(概要)ドドリ学園の聖母と呼ばれる教師。敵幹部「メドゥーサ」の疑いがある。
学園の裏手に回ると、すぐに景色が変わった。
整えられた石畳は途切れ、踏み固められただけの土の道になる。雑草は人の腰ほどまで伸び、葉の擦れる音が、やけに大きく聞こえた。
「……こっちか」
ピクコノさんが裏山に入った、というカブ太の話を思い出しながら進む。
土と苔の匂い。遠くでムシが羽ばたく音。木々の隙間から差し込む光が、細かく揺れていた。
――以前は、この森が怖かった。
何がいるか分からない、だけど誰もいなかった森。孤独で過酷な世界と、ヤクザの陰謀。
でも今は、違う。
怖さはある。だけど、足は止まらない。頼れる上司に、仲間がいる。
「静かだな」
モグドンさんが、周囲を見回す。
「ああ……」
言われて気づく。
ムシの声が、いつの間にか消えていた。本能的に、この場所には近づいていないのだ。
やがて、木々が不自然に途切れた場所に出る。
そこは――
「……懐かしいな」
『炎鳥会』の巨大樹。
サバイバル生活の最中、僕が事件に巻き込まれた場所。そして、ゴハートと出会った場所。
だがーーかつてそこにそびえていた巨大樹は、もうない。
視界の中央には、焼け焦げた大地が広がっていた。
黒く炭化した根。崩れ落ちた幹の残骸。だが周囲の木々は、まるで別の世界のように、被害を受けていない。
「仮想蘇起で呼び出された人魂たちは、恨みのある者にしか害を与えない」
ゴハートが呟いた。
「彼らは……亡くなったのかな」
胸の奥が、重くなる。
「……派手にやったよな、俺たち」
ゴハートの声は、いつもより低かった。
僕らは、しばらく何も言えなかった。
ーーここで、命を奪った。
向こうから仕掛けてきた……正当防衛だと頭では分かっていても……「殺した」という事実は、消えない。
以前の僕は、ずっと目を逸らしていた。
仕方なかった、で片付けて。考えないようにして。罪が風化するのを待つのみだった。
ーーでも今は。
「正しいのがどっちでも……事実から逃げない」
自分でも、何を言っているのか分からないまま呟いた。
『現在から目を背けない』。その結果、こうして脳内を整理することができる。
例え次、同じようなことが起こっても……戸惑うことなく対処して、後悔という名の絶望を防げる。
ーー足元に、赤黒い染みが残っている。
雨に打たれ、時間が経っても消えきらなかった痕。彼らの血痕だ。
「……あれ?」
ふと、違和感を覚える。
「死体が……ないのですね」
土台モンも気づいたらしく、周囲を見回す。
「確かに、ここで倒れたはずだ」
何体も。三つの一族全員が。あの巨躯を持つ首領たちも含めて、だ。
ーーなのに、跡形もない。
骨も、衣服の切れ端も、何も残っていない。
「血はあるのに……?」
嫌な予感が、背中を這い上がる。
「死んでなかった……? それとも……」
「回収された……か」
モグドンさんが、ぽつりと言った。
死んだはずのヤクザたち。それを、あの量を、わざわざ回収……?
それが事実なら、誰が、何のために?
葬儀のためという線もあるが、彼らは他人に心配されるようなトリ達ではなかった。だとしたら……
「『ダークスター団』の仕業か‼︎」
僕がそう言うと、モグドンさんが頷いた。
「確かに、奴らは……遺骨や死体を集めて、遺伝子情報からクローンを作る。ヤクザ達ともあれば、クローン化すれば相当な戦力になるはずだ」
「畜生……! 奴ら、俺たちが去った後に『空間転移』で運んでやがったな……⁉︎」
「いや、でもジャックは……。いや、その時期ならまだ子熊の身体か……!」
森の奥から、風が吹き抜ける。
葉がざわめき、焼け跡の匂いを運んできた。
ここは、受け止めるべき場所だ。
でも――
「……立ち止まってる場合じゃないな」
ピクコノさんを、早く見つけなきゃ。
ーー僕らは焼け跡を越えて、一歩踏み出した。
ゲホっ…ゴホっ…! 「ブックマーク登録」「いいね」「評価」を頂けると励みになります。




