帰宅
【前回の登場人物】
「モグドン」
(種族)ドリル
(年齢)24
(能力)鼻をドリルに変形
(概要)探検隊の地中班長。フウロウから、カビ助らの引率を交代した。
村に入った瞬間、空気が少しだけ変わった。
冷たい視線。
それ自体は、前と何も変わらない。
「見ろよ、サボり野郎だ」
「……戻ってきたのか」
「補講がやばいんでしょ笑」
「どこに行ってたんだ?」
道の端で、ドドリ学園生たちが、声を潜めて話している。
視線は、確かに僕に向いていた。
――けど。
「……なあ、隣の人」
「でかくない?」
「……ヤバそう。借金取り?」
「あいつの親父か?」
「馬鹿。あれは『ドリル族』だろ? 家族な訳ない」
彼らの声は、途中から微妙に揺れた。
僕の横に立つ人物。
分厚い腕。大きな体格。地面を踏みしめるような立ち姿。
そんなモグドンさんが注目を集めるのに時間はかからなかった。
「都会から来たっぽいぞ……?」
「関わらない方がよくね……」
ひそひそ声は、すぐに距離を取る音に変わった。
視線は残っているのに、近寄ってはこない。
「……」
胸の奥が、少しだけざわつく。
守られている、という感覚。
それと同時に――
……やっぱり、僕は一人じゃ何もできないのか。
そんな考えが、頭をよぎった。
「ん? どうした、マスター」
ゴハートが、気づいたように声をかけてくる。
「いや……なんでもない」そう言おうとして、口を止める。
彼なら……何か響く言葉をくれるのではないか。
「いや、頼ってばかりでいいのかなって」
勇気を出して、言葉にしてみた。
だがーー
「それでいいんじゃないか?」
彼はそれだけしか言わなかった。
――前までだったら、きっとまた俯いていた。
でも今は、それだけで、十分。
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
まずは……家に帰ろう。
そう思ったのは、理由があったわけじゃない。ただ、足が自然とそっちに向いただけだ。
モグドンさんは何も言わなかった。
たぶん、聞かなくても分かったんだと思う。
「一旦、身支度してきます」
「おう。行ってこい」
それだけだった。
赤土の道を歩く。
昔は、やけに長く感じた距離なのに……今日は妙に短い。
家の扉を開けると、懐かしい音がした。
……きしむ音。変わってない。
中も、そのままだった。まあ……当然だけど。
家具の配置も、壁の傷も。
それで――
「……あ」
床に散らばった、白いものが目に入る。
鼻水や痰が止まらなかった当時、散乱させたティッシュ。
……片付けてなかったんだ。
胸の奥が、少しだけ重くなる。
「……ひどい」
自分でそう思う。
でも、笑えなかった。
ここで、何度も座り込んで。考えても仕方ないことを考えて。泣いたり、何もできなかったりしてた。
惨めだった、と思う。
けど……だからって、全部間違いだったとも言えなかった。
「……まあ、必死だったんだろ」
そんな時、ゴハートが小さく呟いて、ティッシュを拾う。
「これがマスターの家ですか。……お世辞にも素敵とは言えませんが……」
土台モンも呟きながらティッシュをゴミ箱に入れてくれた。
ーー呟いた内容はちょっと……アレだけど。まあ事実だから言い返せない。
適当に身支度を整えて、鏡を見る。
顔は、特に変わってない。
ーー別に、急に強くなったわけじゃないよな。
誰に言うでもなく、そう思った。
そして、僕は玄関を出る時にーーお父さんの写真立てが目に入る。
あれから大体一ヶ月……誰も手入れしてなかったから、当然埃をかぶっている。
『行ってきます』は……もう言わない。返事は返ってこないから。
ーーだけど。
「絶対、また帰ってくるからね」
僕は仲間達と共に玄関の扉を開けた。
外に出ると、空気が少しだけ軽かった。何故だかやる気が込み上げてくる。
そうだ。僕たちが帰ってきた目的は……
「……ピクコノさん」
任務のことを思い出す。
ドリル族の勧誘。石化した人々を救い出す。
ちゃんと、急ぐ理由があった。感傷に浸っている場合じゃない。
モグドンさんと合流し、僕らは村の奥へ向かった。
「『ピクコノさん』っての家はわかるのか? カビ助」
「ええ。ご心配なく」
以前泊まらせてもらったから、場所は覚えてたんだ。
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
そして、数分後。僕は足を止め、インターホンを押す。
「ピクコノさーん! カビ助です〜」
だが、返事はない。
「……留守か」
もう一度ノックしてみたけど、やっぱり静かだった。
ゴハートが後ろから覗く。
「久しぶりに会えると思ったんだけどな」
「……だね」
少し前なら、ここで諦めてたかもしれない。
でも――
「探してみよう。ドリあえず学園で聞き込みだ」
自分でも意外なくらい、自然にそう思えた。
特別な決意とかじゃない。ただ、やることが残ってるだけ。
「そうだな。他の『ドリル族』も見つかるかもしれないしな」
モグドンさんはそう言って僕らの前を歩き出した。
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