Anti Laws Monster
【前回の登場人物】
「ディグ・ピクコノ」
(種族)ドリル
(年齢)50
(能力)弱点分析
(概要)ドドリ村の農家。ラッシャイタウンで別れた、元「旅の保護者」。
「モグドン」
(種族)ドリル
(年齢)24
(能力)鼻をドリルに変形
(概要)探検隊の地中班長。ドリル族なのに、隊長は彼を「石化破壊」の頭数に入れていない。
話がひと段落した頃、ひとりが静かに声を上げた。
「あの……そろそろ、ボクの話をしても良いですか?」
ーーついに来た。
謎だらけだった彼の正体を知る時が。
「土台モンさん……! お願いします。最近、色々と立て込んでましたからね……」
そう言って微笑むと、彼は少しだけ困ったように視線を落とし、言った。
「マスター……敬語は、もうやめてください」
……え?
思わず言葉に詰まる。難しい物理現象の話をさらっとするし、命の恩人でもある。
気づけば、自然と敬語になっていた。
そっちの方が逆に違和感があるが……。まあ、本人がそう言うなら……従うべきか。
「……OK。改めてよろしく、土台モン」
そう言うと、彼の表情がぱっと明るくなった。
「はい……! やはり、そちらの方がしっくり来ます」
どうやら、僕らの価値観は真逆らしい。
……まあ、その理由も、今から分かるはずだ。
「では、まず……ボクが、なぜゴハートと出会ったのか、話します」
僕は頼んでおいたジュースに口をつける。
どうやら、長い話になりそうだ……。
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
あれは、ボクが呼ばれた直後のことでした。
正確に言えば――
呼ばれ、そして、辿り着けなかった直後のこと、ですけど。
世界が裏返るような感覚。
座標が展開され、空間が数式に分解される。次元転移の兆候としては、あまりに明瞭だった。
今回の主人は、強烈な感情を媒介として「使い魔」を引き寄せる力。
術としては未熟だが、感情の純度が異常に高い。呼び寄せた原因の感情は、すぐに理解できた。
――腐った世界を変えたい。
怒りや絶望を超えたその先の感情。もっと根本的で、しかし諦めに近い願い。
ーー確かに、この願いを叶えるにはボクの力が必要か。
本来なら、ボクはマスターのすぐ傍に転送されるはずだった。
だがーー
空間が、歪んだ。数式が破綻する。座標が二重化し、位相がズレる。
明らかに、別系統の転移術が干渉している。
ーーこれはっ……⁉︎ 第三者の空間干渉……?
抵抗は試みた。だが、術の規模が違っていた。
こちらは人間一人の感情に引かれただけの転移。
それに対する向こう側は、古代人類たちの叡智の結晶だった。空間を完全に掌握されてしまっている。
ーー無理、か。
本来の転送先は閉ざされた。
感情の発信源……貴方の場所へは、届かない。
ボクは、次元の狭間で宙ぶらりんになった。
意味も、役割も失った存在として……普通なら、そこで消滅していただろう。
だが、ボクは『モンスター族』だ。
異界でも屈指の、物理法則への耐性を持つ種族。別次元で量産された簡易版でも他種族と張り合えるほどに、強力な能力を持つ。
だから、感知できてしまった。――同質の波長を。
ーーマスターとは離れた座標に……誰かいる。
考えるより先に、ボクは跳んだ。
その次の瞬間……世界が再構築される。
砕けた地面。何故だか人のいない都会街。
そして――
目の前に立っていたのは、ゴースト族だった。
「ボクは『土台モン』。君と同じ……異界から呼ばれた存在だよ」
そう告げると、彼は一瞬だけ目を細めた。
「いきなり現れたくせに生意気な奴……って待て、今なんと言った?」
そして大きな声でボクに詰め寄る。
「マスターに、何かあったのか⁉︎」
「君には、敬語を使う必要ないよね? ボクらのマスターの未来ため、君の状況を教えてくれないかい?」
ゴハートは鼻で笑った。
「好きにしろ。足手まといになるなよ」
「それは、物理的にあり得ないね」
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
「これが、ボクが貴方にお伝えするべきだった全ての情報です」
僕はあまりの情報に開いた口が塞がらなかった。手にあるコップを傾けるが、中はいつの間にか空になっている。まさか、本当に僕が土台モンのマスターだったなんて。
そして、言葉を返す余裕もなく……そのまま食事会を自然解散となった。
「では、寝るとしようか」
フウロウさんが久しぶりに口を開く。
思えば彼は、この会話の最中、ずっと周囲に気を配り、人払いをしてくれていた。
内容が危険だと予測し、事前に対応していたのだろう。その配慮に、今さらながら胸が温かくなる。
本当に……頼れる人だ。
ーーその夜、僕は眠れなかった。
土台モン。彼は、僕の想像を遥かに超える存在だった。
物理法則を理解し、超越し、世界を変えうる力を持ち――おそらく「ライトモン族」の上位存在である種族、「モンスター族」。
そんな存在がいつの間にか、僕の使い魔……いや、仲間になっていた。
ーーこの腐った世界に、絶望を。
確かに、かつて僕はそう願った。
だが、それは本当に世界を壊したかったわけじゃない。ただ……自分が楽になりたかっただけだ。
だからこそ、僕は「自殺」という逃げ道を選択した。
ーーでも、今は違う。
ミツバを助けるために、生きると決めた。そして、もし本当に……世界を変える力が自分にあるのだとしたら。
「……僕の望む世界って、一体……?」
答えは出ない。思考だけが、静かに巡っていく。
――その時だった。
「うらめしやぁ〜……」
耳元で、低く掠れた声。
「うわあああああああああっ⁉︎」
反射的に跳ね起きた瞬間、視界の端に白い影が揺れた。
「ははっ! やっぱ驚いたな、マスター!」
「ゴ、ゴハート⁉︎ 何してんだよ……」
心臓が口から飛び出るかと思った。
「マスターも眠れてないみたいだから、暇つぶしにと思ってな」
ーー軽すぎる。
さっきまで考え込んでいたから、温度差が酷い。
「それよりさ」
ゴハートは部屋の扉を開けて、受付の方を指で示した。
「入口のとこに、変なオモチャあっただろ? あれ、やらないか?」
「……今?」
呆れたようにため息をつきながらも、胸の奥が少し軽くなるのを感じる。
ーーそうだ。一人で考え込むより、こういう時間も必要なのかもしれない。
世界をどう変えるかなんて、現実味のない話、今は考えなくていい。
今は……任務 兼 旅行中なんだから。
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