風に吹かれて
【前回の登場人物】
「フウロウ」
(種族)トリ
(年齢)29
(能力)?
(概要)探検隊の空中班長。高速で飛び続けるスタミナを持つ。
「カルマ」
(種族)スシ
(年齢)18
(能力)?
(概要)カビ助を命懸けで救った男。「何か」を言うべきタイミングを見計らっている。
紹介したい人物がいる? 他に人がいる気配はしなかったけど……?
もしや外に来ているのかと思い、僕はテントの外へと出た。
メサ地帯の風は、乾いている。吹き上げる砂埃が、視界と喉を削ってくる。
「今から……僕らは、ここを抜けるんですね」
僕が呟くと、隊長は黙ったまま、切り立った岩壁を見た。
「正直に言うよ」
彼はそう前置きしてから、こちらを振り返る。
「今の君たちでは……メサを抜けるのは厳しい」
僕は反射的に「いえ大丈夫です」と言いかけて、喉で止めた。
根拠が、何一つない。メサは広大だ。
遠くまで見えるがゆえに、希望は常に手の届かない場所にある。次の断崖を越えれば終わるかもしれない、そう思わせては、同じ景色を何度も突きつけてくる。歩くほどに、距離ではなく心が摩耗していく。
地上を進む限り、このメサに「出口」は出現しない。
どれほど足を動かしても、辿り着くのは次の高低差と、次の絶壁だけだ。
「無理だとは言わない。だけど……」
隊長は足元へと指を立てた。
「落ちたら、終わりだ」
その一言が、やけに重く胸に落ちた。
確かに、僕が自殺しようと崖っ縁にいた時……少しの動きで、足場が崩れた。あの状況がもう一度あって……ゴハートが来てくれなかったらと思うと、僕は本当にーー!
「そこでだ」
彼は、指をパチンと鳴らした。
ーー乾いた音が、風を裂く。
次の瞬間。
ゴォォォォッ!!!!
真上から、暴風が叩きつけられた。
「なっ!?」
反射的に身を屈める。
砂と小石が宙を舞い、視界が白く染まる。
その中心から、何かが落ちてきた。
落下……? いや、急降下か。
その何かが、地面に着地した瞬間、衝撃波が走った。岩が砕け、風が押し返された。
そこに立っていたのは――
細身の険しい顔つきの男。背中に、巨大な翼。おそらく「トリ族」だろう。
そして、いつぞやかに見覚えがあった。
彼はゆっくり顔を上げ、こちらを一瞥した。
「全く……こんなところに呼び出して……許されるのは俺だけですよ、隊長」
声は低く、驚くほど落ち着いていた。
ドラゴンマスクが頷く。
「彼は空中班長。『フウリン・ローリン』だ」
……班長。モグドンさんや博士と同列の存在。だから見覚えがあったのか。
フウリンさんは、僕たちを順に見渡す……!
その視線は、評価でも好奇心でもない。――測定だ。
「人数、3。呼吸の乱れ。治りきっていない戦闘の跡……」
淡々と告げてから、僕を見た。
「……お前」
心臓が、跳ねる。獲物を見るかのような眼差しだった。
「今、三回は死んでた」
……! 何も言えなかった。
「安心しろ。俺は無駄な殺生はしない」
フウリンは翼を軽く広げ、メサの断崖を見下ろす。
「メサを抜ける方法はある。俺がお前らを連れて行く。だが条件が一つ」
彼は振り返り、静かに告げた。
「俺の判断に逆らうな」
風が、吹いた。
だが今は、なぜだか――落ちない気がした。彼が安心感を醸し出しているのかもしれない。
「はい! 宜しくお願いします‼︎」
僕らがそう返すと、彼は言った。
「では、まず最初の命令だ」
風が、再び吹いた。
ーー緊張する。博士のように鬼畜な命令を出してこないといいのだが。
「俺のことは『フウロウ』と呼んでくれ」
「え?」
予想外の命令に思わず、気の抜けた声が出た。
フウリン・ローリンで……略して「フウロウ」?
戸惑う僕をよそに、土台モンさんが即答する。
「分かりました。フウロウさん。では行きましょう」
適応力が、高すぎる! 本当、この人は一体何者なんだ……? この機会だし、あとで聞いてみるか。
「隊長ーー」
適応力といえば、ゴハートもだ。
彼は話の区切れを読み、隊長へと声をかけた。
「良い機会を与えていただき、感謝します。マスターのことはーー」
僕のこと? 突然どうしたんだろう。
その言葉に返したのは……驚くことに仮面の、シルヴァだった。
「ああ、任せたぞ。お前の腕の見せ所だ……」
「ちっ……。やっぱ正義龍サマには、隠しきれねぇか……!」
…………?
隠す? 何を?
ーー謎が多すぎる。
ようやく信頼関係を築けてきたと思ってたのに……みんな、隠し事ばかりじゃないか。
カルマさん、土台モンさん、フウロウさん。シルヴァと隊長の関係、そしてゴハート……!
まあ……勝手に病んで迷惑をかけた僕なんか……信用、できないか。
「当然、ですよね……」
僕は誰にも聞こえないような声で、そう呟いた。
すると隊長は僕にまっすぐ向き直る。
「カビ助くん。心配はいらない。出発してくれ」
「え……? はい」
……この人、僕の心を読む能力でもあるのか?
「何事にも順序がある。カルマも僕も、君に『全て』を伝えていないが……時が来たら、必ず伝える」
風が、さらに強くなる。
「だから、ドリあえず今はーー」
隊長は再び、指をパチンと鳴らした。
「風に吹かれて、成長してこい‼︎」
胸の奥に熱が灯る。
……順序、か。確かに僕は急ぎ過ぎていたかもしれない。このまま攻め込んでもミツバは救えない。
「は……はい‼︎ ……って、えええええええええ⁉︎」
元気よく返事をした時には、僕の肩はフウロウさんに掴まれていた。
そしてーー
「ちょっ……速過ぎますうぅぅぅううううう!」
時は、現在へと繋がる。
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