表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/168

ドメスティック・バイオレンス

【前回の登場人物】

「おっ3のクローン」

(種族)ヒト

(年齢)43 ※生前

(能力)頭部の輝きを巨大化させる

(概要)カビ助の父親にして、ジェムの師匠……だった男の複製体。

********************************************



 胸の奥が、じわりと熱を帯びる。

 ——かつてないほどの、怒りだ。


 クローン生成。

 それだけでも外道だというのに――死者まで利用するのか。


「マスター……」

 ミツバの声が揺れる。


 ありがとう——

 大丈夫だよ、ひとまずは。


 自分に言い聞かせながら、僕はジャックを睨んだ。


「おい、ジャック……。前々から思っていたが、お前たちはどうやってクローンを作っているんだ?」


 奴は興味のあることしか答えない性格。

 だが、ジャックは答える。


 つまり……僕の怒りを買うような内容ってことか。

 仕事の話をするようで、嘲る時の顔だ。


「遺伝子だよ。分解された断片だけでも、配列が推定できる部分が残ってりゃ再構成できる。うちのボスはそこから“生み出す”」


 僕の背筋が冷えた。

 やはりそうか。つまり、遺伝子の入手源は——


「つまり、父さんの遺骨を盗んだのは……!」

 



 ついに真相に辿り着いた。


 ——犯人は、こいつらだった。

 だが分かったところで、気分は当然晴れやかではない。


 これが真相……と思った。


「その説明では納得がいかない……!」

 しかしミツバは即座に否定する。


「火葬で八百度以上に達すれば、DNAはほぼ断片化するわ。理論上は微量残る可能性はあるけど、再構築できるほどの情報量は期待できない」


 そう……なのか? 

 まあ、言われてみればそうだけど。


 あれ、じゃあ本当に、なぜ遺骨からクローンが作れたんだ?

 遺伝子が残るのは、土葬か、手の抜かれた火葬くらい。


 その疑問に、ジャックはニヤリと笑う。


「“完全火葬”ならな」


「あ…………!」

 その一言で、理解した。


 完全…………火葬…………コストのかかる葬儀…………!?

 ドドリ村は、学園にほとんどの資金を費やしているド田舎だ。


「温度不足、燃焼ムラ、処理の甘さ。骨片に軟部組織が残ることもある」


 声色は冷静だ。

 ただ、どこか馬鹿にしている。


「それが珍しくねぇから、オレらは田舎村は大好きだぜ……!」


 ——血の気が引いた。

 やっぱりそうだったのか。こいつら、どこまで人の道を……!?


「マスター……⁉︎ お義父様は、まさか遺骨じゃなくて……?」


 ミツバの唐突な問い。


 ——僕は四年前を思い返す。

 そういえば僕は……当時、お父さんの死が受け入れられなくて、葬儀には立ち会わなかったっけ……?


 これは、まずい状況かもしれない。

 ドリあえず僕は真相を知らない。


 故に黙り込んだが、ジャックが答えた。

「ああ……綺麗〜なご遺体だったぜぇ?笑」


 やはり……土葬!

「ゲホっ! ゴホッ!!」


 僕の持病は、この衝撃をトリガーに、再び酷くなった。

 喉が焼ける。頭痛が脈打つ。


 ミツバがこちらに駆け寄ろうとすると——

 ジャックが一息整え、叫んだ。


「さあ、おしゃべりタイムはここまでだ!」



 彼の合図とともに、父さんのクローンが一歩前に出る。

「絶望を味わう時間だぜぇ……‼︎」


「やめろ……」


 父さんのクローンが一歩前に出る。


 動きは滑らか。

 綺麗な遺伝子だからか、完璧な再現。


『ツルピカフラッシュ』

 ビカッ!

 

 視界が、白く焼ける。

 僕のような模造品よりも、ずっと強い。


 ——流石というべきか。


 あれ? おかしいな。

 相手こそ複製体なのに……?


 病による頭痛と咽頭痛も相まって、苦しさは尋常ではなかった。


「ああああああああああああああ!!!!!」


「マスター‼︎ あたしが今、助けて……、あ……いや……お義父様…………?」


 ミツバは、父のクローンを攻撃することはできなかった。


 彼女は僕のことを何でも知ってくれていた。

 だから当然、僕にとって父さんがどれだけ大事か、誰よりも——

 つまり僕よりも、ずっと理解している。


「ガハッ!」


 でもこいつはクローンだ……!

 容赦はいらない……。スライム博士の時のように……!


「ミツバ……大丈夫……僕が、今、自分で……!」


 僕は懐からダガーを取り出す。

 そして死に物狂いで何とか目を開き、“敵”に狙いを定めた。


「あ……」

 敵はただ、距離を詰めてくる。


 ゆっくりと。

 逃げ場を塞ぐように。


 その目は、虚ろだ。

 だが瞬きの間に、一瞬だけ“優しさ”が宿った気がした。


 錯覚だと分かっている。

 でも——その瞬間。


 僕の頭に、昔の光景が浮かんだ。


  ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎


 まだ小さかった頃——

 村の中で迷ってしまい、泣きそうになっていた僕。


「大丈夫だ。俺がいるだろ?」

 父はそう言って、大きな手で僕の頭を撫でてくれた。


「怖いときはな、俺の背中を思い出せ」

 僕はその背中を追いかけて、必死に走った。


 転びそうになったとき、父は振り返って笑う。

「ほら、もう少しだ!」


 その背中は、いつも頼もしくて――


 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎


 ドゴッ!!

 現実に引き戻された。


 父の拳が、僕の腹に突き刺さっていた。


「父さん……!」


 先ほどは背中しか見えなかったが——

 正面から見ると、改めて懐かしさが込み上げてくる。


 特徴的な頭のマーク。

 加齢により目立ってしまう禿頭。

 僕とそっくりな濃い眉毛。

 そして、格好良い口髭に、優しい瞳。


「…………」


 ……無理だ。


 僕はダガーをギュッと握りしめた。同時に流れる大粒の涙。


 そして——再び腕が、振り上げられる。

 

 ドカっ! バキッ!

 僕らの想いとは裏腹に、敵は攻撃をやめてはくれない。


「痛い……痛いよ……父さん……やめて……!」


「マスター……うう……」


 父は派手な必殺技を使っていない。

 ただ逃げ場を潰し、殴り、踏み込み、追い詰める。


 ジャックが指示したのだろうか。

 ——痛めつけるために?


 許せない。

 なのに、避けられない。


 力が抜ける。


 胸に拳が当たる。

 肋骨が軋む。


 だが、それ以上に痛いのは――

 “父に殴られた”という事実。


「痛いよ……父さん……」


 ミツバが、震える。

 この状況に、何もできず。


「どうして……こんなひどいこと……」


 

 それを見てジャックは——

 ついに感情を曝け出し、高らかに笑った。


「ギャハハハハハ! 愉快愉快。二人して逆らえないとは、やはりお前ら、最高に馬鹿だぜ!」


 ジャック……あの屑野郎、許せない。

 いや……こんな幼稚な言葉では、物足りない!


 僕らの痛みが理解できないなんて、現実主義者(リアリスト)という評価は撤回すべきだ。

 が……罵詈雑言を飛ばす元気も脳も。残っていなかった。


「人間を壊すのはな。威力じゃなく、文脈だ」


 僕の呼吸が荒れる。


「……待てよ?」

 あいつを殺せば、司令塔を失い——父さんは止まるのではないか?



 人を、可愛らしい子熊を、殺す……?

 ——理屈が頭を巡る。


 だが父の拳が振り下ろされるたび、判断が鈍る。



 ……今は、そんな理想論並べている場合じゃ無いか。

 屑一人殺したところで、神も許してくれるだろ。


 ——うん、そうだ。

 あいつは人の心を弄んだ。僕は許さない。

 くたばれ、もう。死ね。


「ジャックゥゥゥ!!」

 怒りで、限界に近い体を無理矢理動かす。


 ダガーを、屑に向け、投げた。


 軌道は完璧。


 今日は運がいい……。

 屑の心臓ドストライク。


 は……? 運が……いい?

 笑わせるなよ、こんな絶望で……!


 はは……ははは……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ