ドメスティック・バイオレンス
【前回の登場人物】
「おっ3のクローン」
(種族)ヒト
(年齢)43 ※生前
(能力)頭部の輝きを巨大化させる
(概要)カビ助の父親にして、ジェムの師匠……だった男の複製体。
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胸の奥が、じわりと熱を帯びる。
——かつてないほどの、怒りだ。
クローン生成。
それだけでも外道だというのに――死者まで利用するのか。
「マスター……」
ミツバの声が揺れる。
ありがとう——
大丈夫だよ、ひとまずは。
自分に言い聞かせながら、僕はジャックを睨んだ。
「おい、ジャック……。前々から思っていたが、お前たちはどうやってクローンを作っているんだ?」
奴は興味のあることしか答えない性格。
だが、ジャックは答える。
つまり……僕の怒りを買うような内容ってことか。
仕事の話をするようで、嘲る時の顔だ。
「遺伝子だよ。分解された断片だけでも、配列が推定できる部分が残ってりゃ再構成できる。うちのボスはそこから“生み出す”」
僕の背筋が冷えた。
やはりそうか。つまり、遺伝子の入手源は——
「つまり、父さんの遺骨を盗んだのは……!」
ついに真相に辿り着いた。
——犯人は、こいつらだった。
だが分かったところで、気分は当然晴れやかではない。
これが真相……と思った。
「その説明では納得がいかない……!」
しかしミツバは即座に否定する。
「火葬で八百度以上に達すれば、DNAはほぼ断片化するわ。理論上は微量残る可能性はあるけど、再構築できるほどの情報量は期待できない」
そう……なのか?
まあ、言われてみればそうだけど。
あれ、じゃあ本当に、なぜ遺骨からクローンが作れたんだ?
遺伝子が残るのは、土葬か、手の抜かれた火葬くらい。
その疑問に、ジャックはニヤリと笑う。
「“完全火葬”ならな」
「あ…………!」
その一言で、理解した。
完全…………火葬…………コストのかかる葬儀…………!?
ドドリ村は、学園にほとんどの資金を費やしているド田舎だ。
「温度不足、燃焼ムラ、処理の甘さ。骨片に軟部組織が残ることもある」
声色は冷静だ。
ただ、どこか馬鹿にしている。
「それが珍しくねぇから、オレらは田舎村は大好きだぜ……!」
——血の気が引いた。
やっぱりそうだったのか。こいつら、どこまで人の道を……!?
「マスター……⁉︎ お義父様は、まさか遺骨じゃなくて……?」
ミツバの唐突な問い。
——僕は四年前を思い返す。
そういえば僕は……当時、お父さんの死が受け入れられなくて、葬儀には立ち会わなかったっけ……?
これは、まずい状況かもしれない。
ドリあえず僕は真相を知らない。
故に黙り込んだが、ジャックが答えた。
「ああ……綺麗〜なご遺体だったぜぇ?笑」
やはり……土葬!
「ゲホっ! ゴホッ!!」
僕の持病は、この衝撃をトリガーに、再び酷くなった。
喉が焼ける。頭痛が脈打つ。
ミツバがこちらに駆け寄ろうとすると——
ジャックが一息整え、叫んだ。
「さあ、おしゃべりタイムはここまでだ!」
彼の合図とともに、父さんのクローンが一歩前に出る。
「絶望を味わう時間だぜぇ……‼︎」
「やめろ……」
父さんのクローンが一歩前に出る。
動きは滑らか。
綺麗な遺伝子だからか、完璧な再現。
『ツルピカフラッシュ』
ビカッ!
視界が、白く焼ける。
僕のような模造品よりも、ずっと強い。
——流石というべきか。
あれ? おかしいな。
相手こそ複製体なのに……?
病による頭痛と咽頭痛も相まって、苦しさは尋常ではなかった。
「ああああああああああああああ!!!!!」
「マスター‼︎ あたしが今、助けて……、あ……いや……お義父様…………?」
ミツバは、父のクローンを攻撃することはできなかった。
彼女は僕のことを何でも知ってくれていた。
だから当然、僕にとって父さんがどれだけ大事か、誰よりも——
つまり僕よりも、ずっと理解している。
「ガハッ!」
でもこいつはクローンだ……!
容赦はいらない……。スライム博士の時のように……!
「ミツバ……大丈夫……僕が、今、自分で……!」
僕は懐からダガーを取り出す。
そして死に物狂いで何とか目を開き、“敵”に狙いを定めた。
「あ……」
敵はただ、距離を詰めてくる。
ゆっくりと。
逃げ場を塞ぐように。
その目は、虚ろだ。
だが瞬きの間に、一瞬だけ“優しさ”が宿った気がした。
錯覚だと分かっている。
でも——その瞬間。
僕の頭に、昔の光景が浮かんだ。
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まだ小さかった頃——
村の中で迷ってしまい、泣きそうになっていた僕。
「大丈夫だ。俺がいるだろ?」
父はそう言って、大きな手で僕の頭を撫でてくれた。
「怖いときはな、俺の背中を思い出せ」
僕はその背中を追いかけて、必死に走った。
転びそうになったとき、父は振り返って笑う。
「ほら、もう少しだ!」
その背中は、いつも頼もしくて――
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
ドゴッ!!
現実に引き戻された。
父の拳が、僕の腹に突き刺さっていた。
「父さん……!」
先ほどは背中しか見えなかったが——
正面から見ると、改めて懐かしさが込み上げてくる。
特徴的な頭のマーク。
加齢により目立ってしまう禿頭。
僕とそっくりな濃い眉毛。
そして、格好良い口髭に、優しい瞳。
「…………」
……無理だ。
僕はダガーをギュッと握りしめた。同時に流れる大粒の涙。
そして——再び腕が、振り上げられる。
ドカっ! バキッ!
僕らの想いとは裏腹に、敵は攻撃をやめてはくれない。
「痛い……痛いよ……父さん……やめて……!」
「マスター……うう……」
父は派手な必殺技を使っていない。
ただ逃げ場を潰し、殴り、踏み込み、追い詰める。
ジャックが指示したのだろうか。
——痛めつけるために?
許せない。
なのに、避けられない。
力が抜ける。
胸に拳が当たる。
肋骨が軋む。
だが、それ以上に痛いのは――
“父に殴られた”という事実。
「痛いよ……父さん……」
ミツバが、震える。
この状況に、何もできず。
「どうして……こんなひどいこと……」
それを見てジャックは——
ついに感情を曝け出し、高らかに笑った。
「ギャハハハハハ! 愉快愉快。二人して逆らえないとは、やはりお前ら、最高に馬鹿だぜ!」
ジャック……あの屑野郎、許せない。
いや……こんな幼稚な言葉では、物足りない!
僕らの痛みが理解できないなんて、現実主義者という評価は撤回すべきだ。
が……罵詈雑言を飛ばす元気も脳も。残っていなかった。
「人間を壊すのはな。威力じゃなく、文脈だ」
僕の呼吸が荒れる。
「……待てよ?」
あいつを殺せば、司令塔を失い——父さんは止まるのではないか?
人を、可愛らしい子熊を、殺す……?
——理屈が頭を巡る。
だが父の拳が振り下ろされるたび、判断が鈍る。
……今は、そんな理想論並べている場合じゃ無いか。
屑一人殺したところで、神も許してくれるだろ。
——うん、そうだ。
あいつは人の心を弄んだ。僕は許さない。
くたばれ、もう。死ね。
「ジャックゥゥゥ!!」
怒りで、限界に近い体を無理矢理動かす。
ダガーを、屑に向け、投げた。
軌道は完璧。
今日は運がいい……。
屑の心臓ドストライク。
は……? 運が……いい?
笑わせるなよ、こんな絶望で……!
はは……ははは……。




