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病み堕ち

【前回の登場人物】

「ミツバ」

(種族)フルーティア

(年齢)13

(能力)浄化効果のあるクラブアップル

(概要)カビ助の気持ちが増幅して召喚された「恋人」。ジャックに体を奪われる。


「ジャック」

(種族)ゴースト

(年齢)10 ※転生してからの歳

(能力)憑依

(概要)「ダークスター団」の幹部。子熊からミツバの肉体に乗り換えた。


 ………………はっ!


 目覚めると、知らない天井だった。この展開、何度目だろう。

 流石に今回は死んだか……? 


 だが、身体を起こすと全身が悲鳴をあげた。

骨が軋む。筋肉が裂けそうになる。呼吸が荒く、苦しい。ということは……


「なんだ…………死んでないのか」


 自分の口から、その言葉が出たことに、自身で驚いた。まさか、()()()()()()と思える日が来るとはな。

 前までの引きこもり生活は……まだ、希望があることを信じられていた。我ながら、あの境遇でそれができたのは凄いと思っていた。だけど今は…………!


「あああ……ミツバ…………」

声が震える。


「あれは、夢…………? そうであってくれ……」


 周りの状況が把握できていないのに、僕は大粒の涙を流す。あの一日が……夢だったら、どれほど良かっただろうか。だが全身の痛みが「そうではない」と物語っており、僕は泣き叫ぶ。


「ううう……あああああ…………」

喉が引き攣り、声にならない嗚咽。そして感情が漏れ出す。


「なんで、僕ばかり……なんで、なんで‼︎ うああああああ……‼︎‼︎」



◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎



「ゲホっ、ゴホッ」

咳き込んだ拍子に、ようやく僕は冷静になる。

 先ほどの情けない姿、誰かに見られていたなら……恥ずかしいとかいうレベルじゃない。


 そう思って周囲を見渡すと……この場所はテントの中のようでーー


案の定、()()いた。視界の端に、人影。あの時の、強そうな男性。


 でも……彼は何も言わずに目を瞑って座り込んでいる。

 そのおかげか……もしくは、羞恥心とは比べ物にならないほどの絶望を経験したからか……不思議と、感情の変化はなかった。もう全てがどうでもいい……心の奥の自分がそう言っていた。


「あなたが……僕を助けたのですか? 見捨ててくれて良かったのに」


 あの場所、あの状況。相当な危険だったはずだ。それをこんな場所まで連れてくるなんて……やはりこの人、只者ではないな。


 彼は目を瞑ったまま、静かに答えた。

「それはできなかった」


低く、落ち着いた声。

「お前に死なれては困るからな……。『約束』があるんだ」


 僕に、死なれては困る? こんな、父親の姿だけで戸惑い、恋人一人も救えない馬鹿が?

 …………買いかぶりすぎだろう。


会ったばかりの他人に、僕の何が分かる?




「腹が減ったろう。飯でも食うか?」


 黙り込んだ僕に、彼は気まずそうに言った。ありがたいが……今は、食欲もないんだ。


「すみません……」

力なく、首を横に振る。


「しばらく寝させてください……まだ、気持ちの整理が……」


 そう言って、布団に身をくるめようとした時ーー

テントの入り口から見知った顔が入って来た。


 変な仮面をつけたムシ族。一応僕の上司。元憧れの人。お父さんを死に追いやった弟子。

ジェム・カブリ……! メドゥーサと武蔵を相手に、生き延びていたのか。


「カビ助くん……目が覚めたようだね。君の身に何があったのか、教えてくれないか?」


 ()()()()()だと? お前は、本名を隠していたくせに。

そんな奴が、僕の本名でない名を呼ぶな。妬ましい。


 僕は彼の言葉を無視し、布団に入る。騙されない。こいつは詐欺師だ。

 だが……僕の気持ちを伝えない限り、一生付き纏ってくるだろう。


だったら……これは良い機会かもな。


 僕は身体を起こし、敵のアジトで起こったことを全て話した。

 敵のアジトに連れ去られたこと。ミツバのこと。博士を解放したこと。父のクローンのこと。ジャックのこと。


ーー全て。

いや…………違う。()()()()だけは除いた。思い出したくなかったから。




 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎




「分かったか?」

話し終え、僕は吐き捨てるように言った。


「僕はもう貴方の全てを知った。これ以上、関わらないで欲しい」


 彼は、少し黙った後ーー

 仮面を外し……素顔を出した。寂しそうな、疲れたような表情だった。



 ……何だよ。今、どんな気持ちなんだよ。



 数秒の沈黙。それを破ったのは、驚くことにーー


「……儂の言った通りになったな、ジェムよ」

彼の外した仮面、そのものだった。


「は?」

思わず、間抜けな声が出る。


 僕が戸惑っていると、ジェムは仮面に言い返す。珍妙な光景だ……。


「いや……『尊敬の眼差し』とか言ったのはシルヴァさんの方でしょう?」


「フン。それは事実だ。お前は他人の感情に鈍感すぎる」


「おい、お前ら……。カビ助の話の途中だろうが……!」


 敬語を使いつつも仮面をいじる虫男に、絶対に自らの非を認めない謎の仮面に、気まずそうに両者の仲裁に入るスシ男。はっ……何だ、この状況。僕のことを馬鹿にしてるのか?


 呆れて再び布団に潜ろうとすると、彼らは突然同時に、僕に言った。


「そういえばお前……!」

「たった一人で敵幹部を追い詰めたんだって⁉︎」

「大した小僧だ……」





……今、褒められたの?


「はい…………?」


 急な褒め言葉に、僕は戸惑う。

 いや……別に、この程度で感動したわけではない。これで泣く程チョロい男じゃない。


 ただ、事前に僕を慰めようと打ち合わせしたのか知らないけど……3人揃ってクオリティが低いのが笑えただけ。

 普通、こういう時は「辛かったね」とか「君が必要だ」とかじゃないのか? ……まあ、僕がそんな言葉を欲しがっていたかと問われると、NOなのだが。


 だとすると……本当に、この「ジェム・カブリ」という男が人を騙せるような性格なのか、怪しくなってきた。


 もう、あのような絶望は味わいたくない。それなら……死にたい。

 その気持ちに変わりはないのだが、最後に話くらいは聞いてやってもいいかもしれない。


 僕がジャックを、追い詰めた……? この悲惨な結果から、その発言に至った理由とは。




他人を見下すと辛さが紛らわされる。



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