腐の侵食
【前回の登場人物】
「りんご隊長」
(種族)フルーティア
(年齢)10
(能力)りんごの生成
(概要)ドラゴンマスクを尊敬する子供達、「果霊隊」の隊長。
しばらくすると博士は、引きつった笑いをしながら降りてきた。それも青ざめた表情で。
「……はは、ははは。モルモットたち、汚染の位置がわかりましたよ……」
「どうしたんです? 博士……」
「おい、まさか……」
「そのまさかです。ワタシたちが来た方向、つまり集落のほぼ全てが、ガスで覆われています……!」
何だって⁉︎ そんな。僕たちが来たときはそんな気配、微塵も感じなかったのに……。
だが、僕なんかよりもずっと動揺している人物がいた。
「……は? そ……んな……まさか『果霊隊』のみんなも……⁉︎」
りんご隊長だ。彼はそれだけ言うと、全速力で集落の方向へ跳ね走った。
「落ち着いて、りんご隊長!」
……速い!
手足のない体なのに、あそこまでのスピードが出せるのか!
僕も彼の気持ちはわかる。でも今は一人で飛び込んだら痛い目に遭う予感がする‼︎
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
……僕らは必死で追いかけたが、りんご隊長に追いつくことはなかった。
いや、正確に言えば…………追いついた頃には、もう集落だった。
「みんな! 無事なのか⁉︎」
ゴハートは平気そうだが、僕にこのガスは少々辛いかも。
「ぜえ……はぁ、ゲホっ、ゴホっ! 村中が……ガスだらけだ……!」
「マスター、あんまり吸いすぎるなよ⁉︎ 何が起こるかわかったものじゃねぇ……!」
そんな状況の中でも博士は冷静に分析をしていた。
「それにしても……汚染されている割には、集落の人々は外に出ていますね……?」
……⁉︎ 本当だ。
お世話になった長老さんに、『果霊隊』のマークをつけた子たちもいる。
フルーティア族は、「汚染をもろともしない能力」でもあるのかな……?
「よかった! みかん隊員、ピーチ兵長! 早く逃げようぜ‼︎」
りんご隊長は彼らにそう呼びかけつつ、手を引こうと駆け寄る。
嫌な予感は気のせい……?
僕がそう思っていると、スライム博士が突然自分の頭を叩き、叫んだ。
「そうか…………無事なはずがないじゃないですか! 離れなさい、りんご‼︎」
博士の叫びが届くのは少し遅かった。彼らはりんご隊長に向け何かを吹きかける。
ブシャっ!
「ぐぁ……! なん……で……お前ら……⁉︎」
「りんご隊長―――っ!」
彼は仲間……いや、仲間の姿をした敵に毒を浴びせられていた。
「ふふふ……ふふふ腐ふふふふ腐腐ふふふ!」
「ふ……腐腐腐……」
「ふ腐腐ふふふふ腐腐腐ふふ!」
いたるところから鳴り響く不気味な笑い声。それらは全て、あの優しかった村人たちだ。
……気づけば僕らは取り囲まれていた!
「また……絶望……! ゲホっ、ゴホっ……!」
「これは……一体どういうことだよ⁉︎」
ゴハートがそう言うと博士は答える。
「おそらく……『フルーティア族』は汚染ガスを浴びると凶暴化する性質でもあるのでしょう……。彼らが今まで安全な森以外には住みつかなかった原因は、これなのかもしれない」
「そんな……! じゃあ、りんご隊長もいずれ……⁉︎」
「どうにかならねぇのかよ⁉︎ 博士‼︎」
僕らは激しく動揺する。
スライム博士はしばらく考え込んだ後、彼の必死な呼びかけに応える。
「ワタシなら……三分さえあれば原因となった物質を元に、解毒剤が作れます。だから君たちには元凶を捕まえてきてもらいたい……! ワタシのモルモットなら、やれますね?」
ゲホっ、ゴホっ! この包囲網を抜け出して、さらに原因をつきとめる……?
そんなの無理だ。
生き延びるだけでも精一杯のこの絶望的状況で……‼︎
……いや、無理なんかじゃない。「一人前の探検家」になるって決めたじゃないか‼︎
「くっ、僕は…………やってみせます‼︎」
僕は決意を込めて、そう叫んだ。博士はうなずき、ゴハートは前に出る。
「マスター! …………よし、足止めは俺に任せてくれ‼︎」
「うん……! 頼んだよ、ゴハート‼︎」
「いいコンビですね……。よしモルモットくん、これを持っていきなさい!」
なんだ……?
博士が手渡してくれたのは変な形の、口にフィットする黒い装備品。
「これは……ガスマスク! 助かります、博士!」
僕は凶暴化したフルーティアたちの隙間を抜けようと、走り出した。
「ふふふ腐腐腐ふふふふ腐腐腐ふふ!」
「皆さん、ごめんなさい。『ツルピカフラッシュ』!」
「マスターの邪魔はさせねぇ! 『人魂シュート』!」
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
「はぁ、はぁ……。どこだ、元凶……!」
ガスマスクをつけたまま走ると、こんなに辛いのか……!
とっとと見つけて帰らないと、僕らも……何よりりんご隊長が危ない。
「でもどうしたもんかなぁ……。なんの手がかりもなく人探しなんて……」
僕はドリあえず光で暗がりを照らしてみる。
何か手がかりがあれば……。
そんな時、僕はお父さんが昔言っていたことを思い出した。
『道に迷った時は、足跡を照らすといい。他人の足跡と混同してなければ、帰れるさ』
その言葉を思い出した僕は、目の前の暗がりではなく、自分が来た道に灯りをともす。
するとそこには……足跡が、二つ‼︎
「ありがとう、お父さん……! あなたとの短い日々は無駄じゃなかった!」
今回の場合、迷ってるわけではない。元凶探しが目的だ。
だから助言の解釈を逆に変えて、混同している他人の足跡を辿ればいいのだ。
明らかに僕のより大きい足跡を辿ってみると、開けた場所に出た。
「ここにいるんだろ⁉︎ もう観念しろ」
「…………」
返事はない……。
だが足音と共に、敵は姿を現した。
…………! 二人組だ。
一人は巨大な帽子を被った可愛らしい子熊。だが目つきは可愛らしいとは言えない。
そしてもう一人は……黒い博士帽を被り、可愛らしい目に丸いジェル状の身体。
「え…………。スライム博士……?」
「腐の侵食」ってありそうですが造語なんですよね。
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